2011年(平成23)3月11日の東北地方太平洋沖地震により発生した東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、政府が住民に対し、寝泊まりはできないものの、一時帰宅は認めると指定した地域。2012年4月1日から2019年4月9日まで存在した。住民の生命・身体の危険を防ぐため、政府が立入りを原則制限・禁止する避難指示区域の一つであった。指定直前の2012年3月時点で1年間の積算放射線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあると確認された地域である。国際原子力機関(IAEA)など国際機関の基準を考慮し、20ミリシーベルト以上の地域に居住し続けると、人体に影響を及ぼすおそれがあると判断した。ピーク時の2013年8月8日時点で、福島県の南相馬(みなみそうま)市、大熊(おおくま)町、川俣(かわまた)町、富岡(とみおか)町、浪江(なみえ)町、飯舘(いいたて)村、葛尾(かつらお)村、川内(かわうち)村の8市町村の一部が居住制限区域に指定されていたが、政府は段階的に指定を解除し、2019年4月に最後の区域(大熊町の一部)を解除した。
居住制限区域は将来の住民帰還と地域社会の再建を目ざした区域であった。同区域内の住民は、原則自宅などに宿泊できなかったが、一時帰宅、主要道路の通過交通、インフラ復旧や防災など公益目的での立入りは認められた。例外的に、年末年始やお盆などの短期間に限った特例宿泊や、帰還のための準備宿泊も認められた。防護服着用や線量計所持は原則義務づけられなかった。避難指示区域のなかで優先的に除染やインフラ復旧を実施したことで、居住制限区域の除染は2017年3月に完了。区域の住民には精神的損害に対する賠償として、1人当り850万円を東京電力が支払った。ただ長引く避難で精神的苦痛を受けたなどとして、避難住民の東電への訴訟が相次ぎ、賠償額の上乗せを命じる10以上の地裁・高裁判決が出ている。
[矢野 武 2021年6月21日]
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