庇護権ということばは,〈庇護を求める権利〉と〈庇護を与える権利〉という二つの意味に用いられる。
(1)庇護を求める権利 政治的迫害を現に受けている者または受けるおそれのある者が,外国に対して庇護を求める権利。たとえば,世界人権宣言(1948採択)は,〈すべて人は,迫害を免れるため,他国に避難することを求め,かつ,避難する権利を有する〉とうたっている(14条1項)。被迫害者が〈避難する権利〉を有するとすれば,国家は〈避難を認める義務〉を負うことになるはずであるが,起草経過から見て,同宣言がそこまで定めたとは考えにくい。かりに国家の義務を定めたとしても,同宣言は条約ではなく,法的な拘束力はもっていない。1966年には,法的拘束力のある〈市民的及び政治的権利に関する国際規約〉(国際人権規約のB規約)が採択されたが,同規約は〈出国の自由〉を認めるにとどまり,翌67年に採択された〈庇護権に関する宣言〉は,世界人権宣言の趣旨を再確認したにすぎない。ただし,ドイツは被迫害者の庇護権を基本法(憲法)で認めており,それと類似の法制度をもつ国もいくつか現れている。したがって,現時点では,〈庇護を求める権利〉は,国際法上は認められるに至っていないが,国内法上はしだいに定着しつつある,といってよいであろう。
(2)庇護を与える権利 これは,庇護が求められた場所によって,次の二つに分けられる。(a)領土的庇護 被迫害者が庇護を求めて外国の領域に入ってきた場合に与えられる庇護のこと。そもそも,国家は,領土主権の発動として,自国領域への入国を許される人の範囲を自由に決定することができる。にもかかわらず,とくに〈庇護権〉ということばを用いるのは,迫害国が〈被迫害者に庇護を与えたことを非友好的行為とみなしたり,庇護国に対して報復的措置をとったりしてはならない〉という国際法上の義務を負っていることを,間接的に表現していると解すべきであろう。この意味での庇護権は国際法上すでに確立しているということができる。(b)外交的庇護 被迫害者が迫害国の領域内にある外国公館(または,外国の軍艦や軍事基地など)に庇護を求めてきた場合に与えられる庇護のこと。亡命者の庇護は,外国公館(または軍艦や基地)ほんらいの機能に含まれないのみならず,国際紛争の原因にもなりやすいので,この種の庇護権は国際法上一般には認められていない。ただし,現実には,ミンゼンティ枢機卿事件やアヤ・デ・ラ・トーレ事件(1950年の国際司法裁判所判決)など,外交的庇護を与えたケースもいくつかある。
→難民 →犯罪人引渡し
執筆者:波多野 里望
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庇護は、追われている者に対して国家によって与えられる避難所であり、そこで与えられる保護である。庇護は、自国の領域内で与えられる領域内(または領域的)庇護territorial asylumと、自国の在外公館や軍艦などで与えられる領域外庇護exterritorial or extraterritorial asylum(外交的庇護ともいう)とに分けられる。法的根拠は、前者が一国のもつ領域主権であるのに対し、後者が在外公館などのもつ治外法権性extra- or ex-territorialityである。したがって、後者は国際法上一般には認められていない。庇護権は、こうした庇護を国家が付与する権利であるが、個人の側からみて、こうした庇護を求める権利とも考えられ、その点からは亡命権ともいいうる。
[芹田健太郎]
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