国税(関税、とん税、特別とん税を除く)の滞納処分、その他の徴収に関する手続の執行について必要な事項を定め、私法秩序との調整を図りつつ、国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的とする法律(昭和34年法律第147号)である。
国税徴収法は、制定された当初、より広く国税の賦課、徴収や争訟などに関する通則的な規定をも含んでいた。しかし、1962年(昭和37)の国税通則法の制定後は、国税の一般的・通則的規定は国税通則法に移され、国税徴収法は国税の徴収に関する専門分野を規律する法律として整理された。その後、数多くの改正を経ている。
国税徴収法の内容は、大別して、次の二つに分かれる。
一つは、国税の徴収確保などの観点から定められた実体的規定である。すなわち国税は、原則としてほかのすべての公課や債権に先だって徴収される(8条、国税の一般的優先権)、とする。しかし、私法秩序との調整の観点から、法定納期限を基準として、それ以前に設定された質権、抵当権などの被担保債権は、租税に優先することとされている(15条ほか)。
また、国税の徴収確保を目的として、第二次納税義務に関する規定がある(3章)。第二次納税義務の制度は、本来の納税義務者から国税を徴収することが困難な場合において、当該納税者と一定の関係にある者(たとえば合名・合資会社の場合、その社員など)を第二次納税義務者とし、本来の納税義務者にかえて、これに税負担を求めるものである。
もう一つは、滞納処分に関する手続的規定である(5章)。税額が確定されたにもかかわらずその納付がない場合は、督促、財産の差押え、差押え財産の換価、換価代金の充当という一連の強制徴収手続がとられる。国税徴収法には、このような一連の手続を能率的に執行し、かつ、関係者の権利の保護を図りつつ国税の徴収を確保するための詳細な手続規定が置かれている。
国税徴収法は、国税にとどまらず、地方税その他各種の公租公課の徴収の基本法ともなっており、多くの公租公課について、国税徴収法が準用されている。
[田中 治]
国税(本法では,国税のうち,関税・とん税・特別とん税を除いたもの--内国税--をさす)の徴収を確保するための滞納処分の手続,および国税と他の債権との優劣の調整について定めた法律(1959公布)。ただし,関税・とん税・特別とん税・地方税のほか,公法上の金銭債権の徴収についてはこの法律の例によるとされることが多く,公法上の金銭債権の強制徴収に関する基本法といえる。1959年改正前の旧国税徴収法(1897公布)は,1889年に制定された国税徴収法と国税滞納処分法とを統合したものである。旧国税徴収法は,租税徴収権に大幅な優先権を与えるとともに,内容がきわめて簡素で,その運用の多くが行政庁の判断にゆだねられていた。そのため,同法は,第2次大戦後の社会・経済状況の変化に対応しきれず,私法上の債権との調整に配慮を欠いていた点などについて,法曹界・私法学者などから強い批判を受け,1959年に全文改正されるに至った。新法成立後も,国税通則法(1962公布),〈仮登記担保契約に関する法律〉(1978公布)の制定などにともなう数次の部分改正がなされた。現在の国税徴収法では,第1章(総則)で目的と定義を定め,第2章で国税と他の債権との調整(国税の一般的優先権を認めながらも,種々の形で私債権の保護がはかられている),第3章で納税義務者と一定の関係がある者(第二次納税義務者)に租税納付義務を負わせる第二次納税義務の制度,第5章(滞納処分)で滞納者の財産の差押えと公売などの換価の手続,第6章で財産の換価の猶予・滞納処分の停止のほか,保全担保・保全差押えなどについて,それぞれ定めている。なお,国税通則法の制定にともない,強制徴収に関する規定以外の各税共通規定は本法から削除された。また,滞納処分と他の強制換価手続との調整をはかるため,〈滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律〉(1957公布)が別に定められている。
執筆者:玉国 文敏
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…これを,滞納処分(ないし,強制徴収)という。国税の滞納処分に関する一般法として国税徴収法があるが,関税,地方税の滞納処分は国税滞納処分の例によることとされており(関税法11条,地方税法68条6項等),また,他の公課についても国税滞納処分の例によるとされている場合がある。滞納処分は,行政上の強制執行の一つであり,債務名義を要せず,国および地方公共団体に強制徴収権(自力執行権)が与えられている点に特色がある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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