室町中期の連歌師(れんがし)、歌人。権大僧都(ごんのだいそうず)。連海法師とも称した。前名、心恵。紀伊国(きいのくに)名草(なぐさ)郡田井庄(しょう)(和歌山市)に生まれ、3歳のときに上洛(じょうらく)し僧となる。叡山(えいざん)の横川(よかわ)で修行し、京都の音羽山麓(おとわさんろく)十住心院(じゅうじゅうしんいん)に入る。連歌の師承は不明であるが、和歌を正徹(しょうてつ)に学び、もっぱらその教えを連歌のうえにも実現しようとした。当時の連歌師の作風と異質のものをもち、応仁(おうにん)以前は早く1433年(永享5)の北野万句に加わっているものの、宗砌(そうぜい)はもとより、専順などよりも、一座した作品の残っているものは少なく、むしろ傍流に位置していた。67年(応仁1)4月、伊勢(いせ)下向、鈴木長敏(ながとし)の誘いによりそのまま海路相模(さがみ)の品川に向かい、以後、応仁の大乱のために帰洛を志しつつ関東にとどまり、太田道真(どうしん)ら武将に和歌、連歌を指導、71年(文明3)夏、相模の大山に入り、その地で没した。この関東流寓(りゅうぐう)中に、おりしも下向した宗祇(そうぎ)が、その草庵(そうあん)を訪ねて教えを受け、その作風を高く推奨したことにより、連歌史の主流に位置づけられるようになる。1463年(寛正4)に郷里田井庄で上巻を書いた『ささめごと』が主著で、その後の『ひとりごと』『老のくり言』『私用抄』などの著に、その和歌、連歌、仏教を一体としての理論が展開されている。作品は『心玉集』『芝草』などに収められ、自注を多く残している。鋭い感覚をもち、考え抜いた作風で、一座の作品にもきわめて個性的な面が強く出ている。
[島津忠夫]
『金子金治郎著『心敬の生活と作品』(1982・桜楓社)』
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室町中期の連歌師,歌人。連海,心恵,心教とも。紀伊国に生まれ,幼時上洛して僧となり権大僧都に至る。正徹(しようてつ)に師事して冷泉(れいぜい)派の歌人として知られるかたわら,1433年(永享5)〈北野万句〉に一座するなど,連歌作者としてしだいに時代を代表する存在となる。作風は正徹ゆずりの新古今風を基礎に,表現対象の凝視と表現主体の沈潜とを重視する独特のもので,〈ひえやせたる〉風趣のうちに特異な感覚の冴え方を示す。和歌および連歌の修行を仏道の修行と窮極的に同一視する連歌論は,主著《ささめごと》のほか,《老のくり言》《ひとり言》等に強調され,次代の宗祇,兼載らに影響を与えた。戦乱を避けて晩年を関東に過ごし同地に没する。《心玉集》《心敬僧都十体和歌》等の連歌集,歌集があるほか,宗祇編《竹林抄》に入集する連歌七賢の一人。《新撰菟玖波(つくば)集》に最多数の入集をみる。〈応仁の比よのみだれ侍るにあづまに下りてつかうまつりける 雲はなほ定めある世のしくれかな〉(《新撰菟玖波集》)。
執筆者:光田 和伸
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(沢井耐三)
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…藤原俊成の意識した艶の美には,《源氏物語》の〈もののあはれ〉を受け継ぎ,さらに余情美を求めようとする傾斜が認められる。中世以降には艶を内面化しようとする傾向が強まり,心敬の連歌論《ささめごと》などに見える〈心の艶〉〈冷艶〉の美は,その極致とされる。艶の句について,〈艶といへばとて,ひとへに句の姿,言葉のやさばみたるにはあるべからず。…
…連歌論。心敬著。1463年(寛正4),心敬が郷里の紀州田井庄(現,和歌山市)に下向したとき,土地の人々の求めに応じて書き与えたものが原形で,のち何度か増補・改編されたため異本が多い。…
………細みは句意にあり〉(《去来抄》)といい,芭蕉が路通の〈鳥共も寝入てゐるか余吾(よご)の海〉という句を〈此句細みあり〉と評したと伝えている。早く中世においては俊成などが〈心深し〉〈心細し〉という評語をしきりに用い,作者の思い入る心の深さ,細さを称美しているが,連歌でも心敬がこれを承けて〈秀逸と侍ればとて,あながちに別の事にあらず。心をも細く艶にのどめて,世のあはれをも深く思ひ入れたる人の胸の中より出でたる句なるべし〉(《ささめごと》)といっている。…
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