憧れる(読み)アクガレル

デジタル大辞泉 「憧れる」の意味・読み・例文・類語

あくが・れる【憧れる】

[動ラ下一][文]あくが・る[ラ下二]本来は、あるべき所から離れる意》
いる所を離れてふらふらさまよう。
「自分の魂が―・れ出して、…水の面を高く低く、揺られて行く」〈谷崎細雪
物事に心が奪われる。うわの空になる。
山林に身を苦しめ雲水に魂を―・れさせて」〈露伴・二日物語〉
胸を焦がす。思い焦がれる。
「其写真に頰摩ほおずりして―・れ」〈紅葉金色夜叉
気持ちが離れる。疎遠になる。
「おもておこしに思ひし君は、ただ―・れに―・る」〈落窪・二〉

あこが・れる【憧れる/憬れる】

[動ラ下一][文]あこが・る[ラ下二]《「あくがる」の音変化》
理想とする物事や人物に強く心が引かれる。思い焦がれる。「名声に―・れる」「都会生活に―・れる」
気をもむ。気が気でなくなる。
此方こちらは地を離てあがる事が出来ず、只徒らに―・れて両手を延ばすのみ」〈二葉亭・めぐりあひ〉
いる所を離れてふらふらさまよう。さまよい歩く。
「そこともしらず―・れ行く」〈平家・六〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「憧れる」の意味・読み・例文・類語

あく‐が・れる【憧・憬】

  1. 〘 自動詞 ラ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]あくが・る 〘 自動詞 ラ行下二段活用 〙 ( 「かる」は離る。中世頃から「あこがれる」と併用 ) 本来あるはずの場所から離れる意。
  2. 居所を離れてさまよう。また、あるものに心をひかれて、出かける。
    1. [初出の実例]「思ひあまり恋しき時は宿かれてあくがれぬべき心地こそすれ」(出典:貫之集(945頃)六)
  3. ある対象に、何となく心がひかれる。心が、からだから離れる。うわのそらになる。
    1. [初出の実例]「いつまでか野辺に心のあくがれむ花し散らずは千世もへぬべし〈素性〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春下・九六)
  4. いとわしく思うようになって離れる。男女の仲がうとくなる、世を避けようとする、などにいう。
    1. [初出の実例]「このとしごろ人にも似給はず、うつし心なき折々多く物し給ひて、御中もあくがれてほど経にけれど」(出典:源氏物語(1001‐14頃)真木柱)
  5. ( 心がひかれるところから ) 気をもむ。気が気でなくなる。
    1. [初出の実例]「離れかたきは女子(をなこ)の誠、分つ袂にふり棄られて、あくがれて死(しな)んより、おん身刃(やいば)にかけてたべ」(出典読本・南総里見八犬伝(1814‐42)三)
  6. 理想とするもの、また、目ざすものなどに心が奪われて落ち着かなくなる。また、それを求めて思いこがれる。
    1. [初出の実例]「花にあくかるる昔を思出して」(出典:延慶本平家(1309‐10)六本)

憧れるの語誌

( 1 )アクカルとの複合語で、カルが離れる意であることは確かなものの、アクの語源諸説あり不明。あるいは場所に関わる語か。
( 2 )上代用例は見えず一〇世紀半ば以降に一般化した語で、人間の身や心また魂が、本来あるべき場所から離れてさまよいあるくことをいう。


あこが・れる【憧】

  1. 〘 自動詞 ラ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]あこが・る 〘 自動詞 ラ行下二段活用 〙 ( 「あくがる」の変化したもの )
  2. 居所を離れてさまよう。また、心がある方面に引かれて、でかける。
    1. [初出の実例]「仲国龍の御馬給はって、名月に鞭(むち)をあげ、そこともしらずあこがれ行く」(出典:平家物語(13C前)六)
    2. 「せめて其の人の在所をだに知たならば、虎伏す野辺、鯨寄る浦なり共、あこがれぬべき心地しけれども」(出典:太平記(14C後)四)
  3. ある対象に、心がひかれる。
    1. [初出の実例]「光源氏大将の、如(しく)物もなしと詠じつつ、朧月夜に軻(アコガレ)しは弘徽殿細殿」(出典:太平記(14C後)一二)
    2. 「ツキ、ハナニ acogaruru(アコガルル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
  4. ( 心がひかれるところから ) 気をもむ。気が気でなくなる。
    1. [初出の実例]「つはもの御てにすがり海へいれんとす。龍女はいとどあこかれて〈略〉とかきくどく」(出典:幸若・大織冠(室町末‐近世初))
    2. 「此方(こちら)は地を離て沖(あが)る事が出来ず、只徒らにあこがれて両手を延ばすのみ」(出典:めぐりあひ(1888‐89)〈二葉亭四迷訳〉一)
  5. 理想とするもの、目ざすものに心が奪われて、落ち着かない。また、それを求めて思いこがれる。
    1. [初出の実例]「嗚呼青春の夢高く 理想のあとにあこがれて」(出典:天地有情(1899)〈土井晩翠〉籠鳥の感)

憧れるの語誌

→「あくがれる(憧)」の語誌

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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