手事物(読み)てごともの

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「手事物」の解説

手事物
てごともの

日本音楽の楽分類名称。地歌箏曲のうち手事に比重のある楽曲の総称。ただし箏曲の段物のように単に器楽曲であるだけの曲や山田流箏曲『桜狩』のように,その間奏部がかなり長いというだけでは手事物といわない。本来は地三弦曲での呼称で,従来「長歌物」または「端歌物」であった楽曲中,その手事部分が形式化し発展したものを,寛政 (1789~1801) 頃から「手事の部」という分類を立てはじめたもの。柳沢淇園 (柳里恭) の『ひとりね』 (1724成立) に手事の名称がみえるが,『新うたぶくろ』 (89刊) には,『さらし』『六だんすががき』『六だんれんぼ』『三だんじし』『八千代じし』『みやこじし』『なにはじし』『川かすみ』『きさらぎ』『玉川』『虫の音』の 11曲を手事の部に入れている。その後「獅子物」を中心に手事物が数多く作曲されるようになり,端歌物の『雪』などで知られている峰崎勾当なども『東獅子』『越後獅子』『残月』などの手事物の名曲を残した。これらの三弦手事曲に対して,文化 (1804~18) 頃から,その替手 (かえで) を箏に移して合奏するようになり,大坂では市浦検校などが特に箏による替手の作曲を行なった。京都ではこれを八重崎検校などが受継ぎ,なかでも京都で作曲された松浦検校や菊岡検校,石川勾当らの三弦手事曲に替手式の箏の手を盛んに作曲したので,「京物」のなかでも特に「京風手事物」とも呼ばれ,地歌と箏曲との区別が明確でなくなっていった。山田流箏曲では,こうした地歌からの移曲を除くと,手事曲と指定しているのは『都の春』『岡康砧』などわずかにすぎない。

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精選版 日本国語大辞典「手事物」の解説

てごと‐もの【手事物】

〘名〙 地唄や箏曲で、歌よりも手事②の部分を重要視した曲。「残月」「四季の眺め」「笹の露」「八重衣」「新ざらし」「岡康砧(おかやすぎぬた)」など。⇔唄物

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世界大百科事典内の手事物の言及

【地歌】より

…その作詞には,文人,俳人,通人たちの関与したものも多く,享保期(1716‐36)には柳沢淇園,天明期では二斗庵下物,流石庵羽積などが知られる。 三味線の器楽曲は,すでに貞享(1684‐88)以前から存在しており,《すががき》《りんぜつ》《ししおどり》《れんぼ》《きぬた》などの楽曲があったが,のちにはその前後に歌が添えられるようになり,寛政(1789‐1801)ころには,《さらし》などのように,間奏部の器楽性の高いものとともに,〈手事物(てごともの)〉として分類されるようになり,大坂では峰崎勾当,三つ橋勾当らがその新作を盛んに行った。同時に,三味線2部の合奏形式も生まれ,〈段合せ〉〈本手〉〈本手と替手〉などのさまざまな合奏が行われるようになった。…

【手事】より

…この掛合を含む部分を本来の手事(本手事)として,それに続く部分でいったん終結部に近い気分を示すが,しかし,再び掛合も出てくる部分を,中チラシといい,その後の本当の終結部を本チラシまたは後(のち∥あと)チラシといった。こうした構造の,手事に比重のあるものを手事物,手の物などといい,とくに化政期(1804‐30)以後の京都における作曲で盛んになった。京流手事物,京風手事物などともいう。…

※「手事物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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