江戸後期の邦楽家。2人知られている。(1)大坂の地歌三弦家 生没年不詳。都名(いちな)はもと一。1763年(宝暦13)登官。端歌《いとしとはだ》《閨(ねや)の文》《袖頭巾》などを作曲。玉岡検校作曲の《八重咲》はこの人の追善曲。(2)京都の箏曲家(1776?-1848・安永5?-嘉永1) 都名は壱岐之都とされるが,登官記録には三保一(みほのいち)(1815登官)の名しか見当たらない。師は安村検校(?-1779)門下の浦崎検校(1801登官)。この八重崎の門人に光崎,松野,2世松崎の検校がおり,2世松崎を経て,松阪春栄以下現在の京生田流下派が続いている。いわゆる京風手事物の箏の作曲者として,松浦検校や菊岡検校,光崎検校,石川勾当らの三弦曲に,華やかな箏替手を作曲。なかでも菊岡作品が多い。主要曲は次のとおり。《四季の眺》《玉の台(うてな)》《新浮舟》《末の契》《四つの民》《若菜》(以上松浦検校),《磯千鳥》《今小町》《梅の宿》《楫枕(かじまくら)》《笹の露》《茶音頭(茶の湯音頭)》《御山獅子》《夕顔》(以上菊岡検校),《七小町》《三津山》(以上光崎検校),《新青柳》《八重衣》(以上石川勾当)など。
執筆者:久保田 敏子
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江戸後期の生田流(いくたりゅう)箏曲(そうきょく)・地歌(じうた)の演奏家、作曲家。都名(いちな)壱岐之都(三保一かといわれるが不明)。1815年(文化12)検校登官。浦崎検校(1776―1848)の門下で、京都において師と河原崎(かわらざき)検校などが始めた地歌三絃(さんげん)曲に箏(こと)の手付けをつける作曲活動を受け継ぎ、「京流手事物(てごともの)」または「京風手事物」といわれる新様式を完成させた。彼は京都の地歌三絃曲の大半に箏の手付けをし、両者の音楽的な融合を図った。また、地歌三絃奏者菊岡検校との競演に関する逸話も多い。八重崎による箏の手付けは、松浦検校作曲の『新浮舟(しんうきふね)』『宇治巡(めぐ)り』『四季の眺(ながめ)』『末の契(ちぎり)』『玉の台(たまのうてな)』『四つの民』など、菊岡検校作曲の『磯(いそ)千鳥』『今小町』『楫枕(かじまくら)』『桂男(かつらお)』『笹(ささ)の露』『茶の湯音頭』『長等(ながら)の春』『舟の夢』『御山獅子(みやまじし)』『夕顔』など、光崎(みつさき)検校作曲の『七小町(ななこまち)』『三津山』、石川勾当(こうとう)作曲の『新青柳(しんあおやぎ)』『八重衣(やえごろも)』など多数に上る。門下に松崎検校や光崎検校などがいる。
[平山けい子]
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(千葉優子)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
…歌詞は謡曲のクセの京都の桜の名所尽くしの部分を採っているが,物語の展開とは直接関係はない。箏の手は地域によって異なるが,京都では八重崎検校のが一般的。《八重霞(やえがすみ)》(または《越後獅子》)と《残月》とで《芸妓三つ物》といわれ,派手な曲の代表とされる。…
…松浦検校作曲の京風手事物。箏本手を浦崎検校(1810登官),箏替手を八重崎検校が作曲したが,現在は,前半は本手を用い,〈荒磯伝ふ〉から替手の箏をつないで利用している。作詞は後楽園とも四明居(しめいきよ)とも号した三井次郎右衛門高英。…
…三味線曲化したものは,生田検校ないし深草検校の作曲と伝えられる。江戸の野田検校が,本雲井調子の替手を作曲しているが,京都などでは,平調子の替手が付けられ,八重崎検校の編曲と伝えられる。山田流箏曲では,能の《猩々(しようじよう)》からとった前歌を付すこともある。…
…石川勾当(こうとう)作曲の地歌の手事物で,《融(とおる)》《新青柳》とで〈石川の三つ物〉とされる大曲。石川自身も弾きこなせない難曲であったが,宮原検校(?‐1864)が八重崎検校に箏の手を付けさせてから,一躍有名になったという。歌詞は《百人一首》の中の〈衣〉にちなむ和歌5首を,季節順に配して使用。…
…【横道 万里雄】(2)地歌・箏曲の曲名。三弦は菊岡検校(1792‐1847),箏は八重崎検校(1776?‐1848)作曲の京風手事物。1814年(文化11)版《新大成糸の節》に初出。…
※「八重崎検校」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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