日本音楽の用語。手の派生語で,手練(てれん)手管(てくだ)などと同義の一般語彙(ごい)でもあるが,音楽用語としては,とくに地歌・箏曲で限定された意味で用いられる。本来は,手ないし本手が,地歌の規範的楽曲である三味線組歌ないしこれに準ずるもの(長歌など)をいうことから,その総称として手事といったもので,まだ地歌という言葉が成立していなかった以前において,盲人音楽家が扱う三味線音楽そのものを指していった場合もある。後には詞章を伴わない楽曲をいい,さらに間奏部分を合(あい)の手(略して単に合とも)といったことから,その長いもので独立性のあるものを手事というようになった。
初期の手事は,初段,2段などと分割しうる段構造をもち,それらが同拍である場合には,段合せの演出も可能。また,前後に導入部(序・マクラ)と終結部(チラシ)のいずれかまたは双方が付されることもある。地歌三弦曲に箏が合奏されることが進んで,箏の変奏度が高まるにつれて,三弦と箏とが交互演奏を行う掛合(かけあい)の技法が発達した。この掛合を含む部分を本来の手事(本手事)として,それに続く部分でいったん終結部に近い気分を示すが,しかし,再び掛合も出てくる部分を,中チラシといい,その後の本当の終結部を本チラシまたは後(のち)/(あと)チラシといった。こうした構造の,手事に比重のあるものを手事物,手の物などといい,とくに化政期(1804-30)以後の京都における作曲で盛んになった。京流手事物,京風手事物などともいう。なお,手事が一曲中に2度以上含まれる場合もあるが,その構造の明確でないほうのものは単に合の手という場合もある。また,山田流において作曲されたものは,手事に近い性格をもつ部分でも,原則としては合の手と称する。江戸時代の表記の手琴(てごと)は当て字と思われる。
執筆者:平野 健次
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
日本音楽用語。一般用語では「手管(てくだ)」「手練(てれん)」などと同義で、「手毎」とも書かれたが、音楽用語として現在では地歌・箏曲(そうきょく)の楽曲中、歌の途中に挟まれる器楽的なまとまりのある長い間奏部分をさす。手事部分に比重を置く曲を「手事物」といい、「手のもの」「手もの」などと称する場合もある。
江戸時代には「手琴」「曲節」などとも書かれ、「手」そのものを意味したり、三味線組歌や長歌(ながうた)などの三絃(さんげん)曲の古典的な曲種の総称であったが、しだいに『砧(きぬた)』『すががき』などの純器楽曲をさすようになり、長唄・端唄(はうた)などのうちその間奏部分の独立性・器楽性の高い楽曲をも含める語となった。もっとも単純な手事物の構成は、前歌―手事―後歌で、初期には段構成をとる手事もあり、さらにはその前後にマクラ(導入部)やチラシ(終結部)をもつ手事もできた。寛政(かんせい)(1789~1801)ごろから大坂で「手事物」という分類がなされ、『残月』『越後獅子(えちごじし)』のような三絃の手事物の名曲もつくられた。三絃と箏の合奏が高度に発達するとともに、手事が2回以上現れる複雑なものも生まれたが、この傾向はとくに化政(かせい)(1804~30)以降の京都で顕著になり、「京風手事物」「京流手事物」と称され、『八重衣(やえごろも)』『四季の眺(ながめ)』などの名曲が生まれた。
[谷垣内和子]
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