手事(読み)てごと

精選版 日本国語大辞典 「手事」の意味・読み・例文・類語

て‐ごと【手事】

〘名〙
遊女が客をいつわり、うまくあやつる技巧や手段。手練手管(てれんてくだ)
歌舞伎・助六廓夜桜(1779)「やぶ鶯も花に来て、手ごとも尽きじ床の梅」
※歌舞伎・梅柳若葉加賀染(1819)大詰「待たせるも手事(テゴト)でござりまする」
② (「手琴」とも) 地唄箏曲で、歌の合間三味線または琴などの楽器だけで奏される長い間奏の部分。旋律の美しさや、技巧の面白さを聞かせる。また、琴の曲。
随筆独寝(1724頃)上四「堺〈手の名〉・中島〈手の名〉といふ手ごとも、今はたへて世になし」

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デジタル大辞泉 「手事」の意味・読み・例文・類語

て‐ごと【手事】

地歌箏曲そうきょくで、歌の間に挿入される器楽の長い間奏部分。
遊女などの手練手管てれんてくだ
「―もつきじ床の梅」〈伎・助六

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手事」の意味・わかりやすい解説

手事
てごと

日本音楽の用語。地歌箏曲の楽曲部分様式の名称。地歌箏曲の器楽間奏部につけられた名称であるが,歌と歌とをつなぐための短い間奏は単に「合の手」または「合」といい,手事は特にその器楽的演奏を聞かせることを目的とした部分をいう。したがって独立した楽章としての性格をもつ。本来は地歌三弦曲における呼称であり,山田流箏曲では手事の性格をもつ部分でも単に合の手ということが多い。手事はさらにいくつかの部分に分けられ,序奏的部分を「マクラ」,終結部分で次の声楽部分への橋渡しの機能をもつ後奏部を「チラシ」といい,両者を除く中心部分を狭義の「手事」というが,実際にはマクラやチラシを欠く場合もある。狭義の手事部分はさらにいくつかの段に分割されることもあり,その後段がチラシ的性格をもち,さらにそのあとにチラシのついているときには前者を「中チラシ」,後者を「本ヂラシ」ということもある。また1曲中に手事部が数回あり,そのそれぞれにチラシのついている場合には,最後のチラシを「後ヂラシ」ということもある。手事の各段は「段合せ」や「段返し」などの合奏形式で演奏されることもあるほか,「」や「替手 (かえで) 」が別に作曲されて合奏され,さらに箏が合されて地歌が箏曲化し,地歌と箏曲の区別がつかなくなった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「手事」の意味・わかりやすい解説

手事
てごと

日本音楽用語。一般用語では「手管(てくだ)」「手練(てれん)」などと同義で、「手毎」とも書かれたが、音楽用語として現在では地歌・箏曲(そうきょく)の楽曲中、歌の途中に挟まれる器楽的なまとまりのある長い間奏部分をさす。手事部分に比重を置く曲を「手事物」といい、「手のもの」「手もの」などと称する場合もある。

 江戸時代には「手琴」「曲節」などとも書かれ、「手」そのものを意味したり、三味線組歌や長歌(ながうた)などの三絃(さんげん)曲の古典的な曲種の総称であったが、しだいに『砧(きぬた)』『すががき』などの純器楽曲をさすようになり、長唄・端唄(はうた)などのうちその間奏部分の独立性・器楽性の高い楽曲をも含める語となった。もっとも単純な手事物の構成は、前歌―手事―後歌で、初期には段構成をとる手事もあり、さらにはその前後にマクラ(導入部)やチラシ(終結部)をもつ手事もできた。寛政(かんせい)(1789~1801)ごろから大坂で「手事物」という分類がなされ、『残月』『越後獅子(えちごじし)』のような三絃の手事物の名曲もつくられた。三絃と箏の合奏が高度に発達するとともに、手事が2回以上現れる複雑なものも生まれたが、この傾向はとくに化政(かせい)(1804~30)以降の京都で顕著になり、「京風手事物」「京流手事物」と称され、『八重衣(やえごろも)』『四季の眺(ながめ)』などの名曲が生まれた。

[谷垣内和子]

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世界大百科事典 第2版 「手事」の意味・わかりやすい解説

てごと【手事】

日本音楽の用語。の派生語で,手練(てれん)手管(てくだ)などと同義の一般語彙(ごい)でもあるが,音楽用語としては,とくに地歌・箏曲で限定された意味で用いられる。本来は,手ないし本手が,地歌の規範的楽曲である三味線組歌ないしこれに準ずるもの(長歌など)をいうことから,その総称として手事といったもので,まだ地歌という言葉が成立していなかった以前において,盲人音楽家が扱う三味線音楽そのものを指していった場合もある。

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百科事典マイペディア 「手事」の意味・わかりやすい解説

手事【てごと】

合の手(あいのて)

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