西行桜(読み)さいぎょうざくら

精選版 日本国語大辞典 「西行桜」の意味・読み・例文・類語

さいぎょう‐ざくら サイギャウ‥【西行桜】

[1] 〘名〙
西行にゆかりのある桜。特に、京都市嵯峨の法輪寺の南にある桜。昔、西行法師が「詠(なが)むとて花にもいたく馴れぬれば散る別こそ悲しかりけれ」〔山家集(12C後)上〕と歌ったところから名づけられたと伝える。《季・春》
※俳諧・誹諧之連歌(飛梅千句)(1540)何第二「藤の花さけるは定家かづらにて 西行ざくらうつろへるころ」
② 京都の祇園会(ぎおんえ)に出す山車(だし)黒主山(くろぬしやま)の異称。西行桜山。
花洛細見図(1704)六「黒主山 世にさいきゃうさくらともいふ。是はつらゆき古今の序に大ともの黒ぬしが哥をひはんせし詞より出たり」
[2]
[一] 謡曲。三、四番目物。各流。世阿彌作。西行が庵室の桜を静かに楽しもうとしていると都から大ぜいの人が花見に訪れ、断わりきれず「花見にと群れつつ人の来るのみぞあたら桜のとがにはありける」〔山家集(12C後)上〕と諦めて門を開く。その夜の夢に桜の精の老人が現われて、西行の歌をとがめ、花の名所を語り、舞を舞う。
[二] 箏曲。菊崎検校(けんぎょう)作。歌詞は謡曲「西行桜」から採っている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西行桜」の意味・わかりやすい解説

西行桜
さいぎょうざくら

能の曲目。四番目物、またその情緒の幽玄味により三番目物に準じても扱う。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)作。歌人西行(ワキ)の庵室(あんしつ)の名木の桜。花見の人のにぎわいを嫌い、西行は今年の花見禁制(きんぜい)を寺男(アイ)に告げさせる。しかし押し寄せてきた大ぜいの花見客。しかたなく招じ入れる。これも桜の科(とが)と西行は歌を詠む。「花見にと群れつつ人の来るのみぞあたら桜の科にはありける」。西行の夢のなかに現れた老木の精(シテ)は、桜の責任ではないと反論し、京都の桜の名所を美しく描写し、閑雅に舞って暁(あかつき)とともに消えうせる。老いた桜の精は、いわば西行の詩心の投影であり、墨絵で都の花を描いてみせるというような凝った手法の能である。類似の能に、観世小次郎信光(のぶみつ)作の『遊行柳(ゆぎょうやなぎ)』があり、西行に歌を詠まれた老いた柳の精が閑寂に舞う。ともに名作である。

増田正造

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西行桜」の意味・わかりやすい解説

西行桜
さいぎょうざくら

能,地歌の曲名。 (1) 能 世阿弥作。太鼓入りの序の舞物。三または四番目物。老木の桜の精をシテ,西行法師をワキとして,西行の歌を中心に桜の美しさを描く。 (2) 地歌 大坂菊崎検校左一 (菊永門,『歌曲時習考』の校訂者) の作曲天明 (1781~89) 頃以前に長歌物として作られたものであるが,寛政 (89~1801) 頃から手事物として扱われ,その初期の代表曲の一つ。本調子,二上り,三下りと調弦を変え,手事は2ヵ所にある。歌詞はさい屋孫八の作と記されるが,(1) のサシクセをそのままとったもので,謡曲物としても分類される。また,『八重霞』『残月』とともに「シマ三つ物 (芸子三つ物) 」といって派手な曲の代表的なものといわれる。合奏させる箏の手は地域によって異なるが,京都の八重崎検校手付のものがよく行われる。

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デジタル大辞泉 「西行桜」の意味・読み・例文・類語

さいぎょうざくら〔サイギヤウざくら〕【西行桜】

謡曲。三番目四番目物世阿弥作。いおりへ桜を見に集まる人々を嫌う西行詠歌を桜の精が非難し、春の宵を惜しみつつ舞をまう。
地歌・箏曲そうきょく。菊崎検校作曲。手事物てごともの。歌詞はに基づく。

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デジタル大辞泉プラス 「西行桜」の解説

西行桜

奈良県吉野郡下市町にある和菓子店、吉田屋が製造・販売する銘菓。吉野葛と香川県産さぬき和三宝糖を使用した葛菓子。

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事典・日本の観光資源 「西行桜」の解説

西行桜

(栃木県大田原市)
とちぎの名木100選」指定の観光名所。

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世界大百科事典 第2版 「西行桜」の意味・わかりやすい解説

さいぎょうざくら【西行桜】

(1)能の曲名。三番目物世阿弥作。シテは桜の精。京都西山の西行法師(ワキ)の庵の桜が満開で,大勢の見物人(ワキヅレ)がやって来る。遠路の訪問者をすげなく断ることもできず庭に通すが,西行は内心迷惑なので,〈花見んと群れつつ人の来るのみぞあたら桜の咎(とが)にはありける〉と和歌を口ずさむ。その夜の夢に,木陰から桜の精の老人が現れて,〈桜の咎〉とは承服できないと不満を述べる。だがいっぽう西行の知遇を得たことを喜びとし,京都の名所名所の桜を数えあげてその景色をたたえ(〈クセ〉),ものさびた舞を舞い(〈序ノ舞〉),夜明けとともに消えていく。

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世界大百科事典内の西行桜の言及

【西行】より

…西行の伝説は,発心出家の動機と決断をめぐるもの,山居のきびしい修行にたえる行者の姿を語るもの,文覚や西住などとの交遊,崇徳院の供養に関するもの,頼朝にもらった銀の猫を門外に遊ぶ子供に与えたというような無欲潔癖な性格を伝えるもの,院の女房や江口の遊女と歌を読みかわしたというような数寄の心の持主として伝えるもの,など多方面にわたっている。室町時代に入ると,西行は連歌師の理想像となり,謡曲では幽玄の極致をあらわす人物として《雨月》《江口》《西行桜》《松山天狗》の主人公となり,他の数々の曲にも登場している。また御伽草子の《西行》などによっても,その名は広く知られることになった。…

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