日本音楽の用語。地歌・箏曲の特定の楽曲における特別な演出法の一つ。三味線組歌の破手組の楽曲で,拍数が一致する部分を同時に合奏させることにはじまる。《待つにござれ》の第1歌と第2歌(柳川流では第3歌と第4歌),《長崎》の第3歌と第4歌(柳川流《葛の葉》の第1歌と第2歌),《京鹿子(きようがのこ)》の第1歌と第2歌,第3歌と第4歌,第5歌の前半と後半と第6歌などを,それぞれ合奏させるのが代表的な例。奏者が交替して反復演奏を行う場合(第1歌の奏者が次に第2歌を,第2歌の奏者が第1歌を演奏)に,〈段返し〉という。本来は,三味線のみならず歌も同時に歌う。
後代の手事物でも,この演出法が応用され,とくに拍数の等しい段構造(段)をもつ初期の手事物では,その手事部の二つの段を同時演奏することが行われた。《難波獅子(なにわじし)》《楫枕(かじまくら)》《秋の曲》などの手事の第1段と第2段,《残月(ざんげつ)》の手事の第1段と第2段,第3段と第4段などの段合せがその代表例である。
異なる楽曲を同時演奏することは,〈打合せ〉というが,段合せの演出法を拡大したものともいえる。三味線組歌では,《琉球組》と《千代の恵》,《乱後夜(らんごや)》と《晴嵐(せいらん)》などの例があるが,後代の地歌三弦曲でも,《八千代獅子》と《万歳獅子》,《玉椿》と《袖の雨》などが異曲打合せで行われる。《すり鉢》《れん木》《せっかひ》は,3曲の打合せである。なお,特定の楽曲で,その一部分に,他の異なる曲の一部分を打ち合わせることもあり,《東(吾妻)獅子》と《三段獅子》,《桜川》と《八重霞》,《萩の露》と《磯千鳥》,《松竹梅》と《菊の朝》と《金(かね)のなる木》など,それぞれその手事部の一部が打ち合わせられる。
こうしたことは箏曲でも行われ,《相生の曲》と《六段》などは全曲打ち合わせられるが,《秋風の曲》の前弾と《六段》とでは,《秋風の曲》からすれば部分的な打合せとなる。段物の異なる曲を同時演奏することも〈打合せ〉の一種であるが,この場合はとくに〈段物合せ〉ともいう。これは,本来は,異なる流派の組歌の同じ曲名の曲を,他流試合ふうに同時競演する〈組合せ〉の一つとして行われたらしい。同じ段物の曲を,順序を変えて同時演奏する(たとえば,片方は《六段》を最初から弾き,他方は最終段から逆に前の段へと進む)ことも行われた。なお,箏の組歌である《菜蕗(ふき)》と,三弦曲である《夕(ゆうべ)の雲》とを打ち合わせるといったことも行われた。
執筆者:平野 健次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…各段を初段,二段などと呼ぶが,前奏部分がある場合には,これをマクラまたは序,後奏の後歌への経過的部分がある場合には,これをチラシと呼ぶ。〈段物〉にしても〈手事物〉にしても,各段がほぼ同一の拍数の場合,これを同時に合奏させることが可能で,この演出形式を〈段合せ〉という。段合せ段物【平野 健次】。…
※「段合せ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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