打上・打揚(読み)うちあげる

精選版 日本国語大辞典 「打上・打揚」の意味・読み・例文・類語

うち‐あ・げる【打上・打揚】

[1] 〘他ガ下一〙 うちあ・ぐ 〘他ガ下二〙
[一] 手や楽器をたたいて音を出す。特に、酒宴を催して歌い騒ぐ。
書紀(720)顕宗即位前(図書寮本訓)「手掌(たなそこ)も摎亮(やらら)に〈略〉拍上(ウチアケ)(たま)ひ」
※宇治拾遺(1221頃)一「鬼どもがうちあげたる拍子の」
[二] (「うち」は接頭語)
① 声を出す。声を張り上げる。
※紫式部日記(1010頃か)寛弘五年秋「うちあげたる伴僧(ばんそう)の声々」
② 下から上へ勢いよく動かす。
源氏(1001‐14頃)宿木「すだれうちあぐめり」
③ 射ようとして、矢をつがえた弓を高く持ち上げる。
※保元(1220頃か)中「只一矢に射落さんと打上(うちあげ)けるが」
④ 乗っている馬を上の方にさっと上がらせる。
今昔(1120頃か)二五「其の岳の北面に馬を打上て」
[三] 打って、上の方に動かす。
① 波が岸にうち寄せて、物を陸に運びあげる。
※今昔(1120頃か)一「海に落入て浪に打上られたる也」
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉一三「いと物すごく屹立せる牙かとぞ見る巨巖へ、幾たびとなく打(ウチ)あぐれば」
② 打って高く飛ばす。上に放つ。また、花火、ロケットなどを上空めがけて発射させる。
日葡辞書(1603‐04)「ツブテヲ vchiaguru(ウチアグル)
小公子(1890‐92)〈若松賤子訳〉一五「花火、仕掛花火など打揚(ウチア)げるといふことでした」
[四] (「あげる」は、終える、しあげる、すっかり…するの意)
① すっかり使う。全部与える。
浄瑠璃・源氏冷泉節(1710頃)下「金銀財宝、くら一ケ所を打あげん」
② 材料を鍛えて作りあげる。
歌舞伎・四天王楓江戸粧(1804)三立「二振りの剣を打(ウ)ち上(ア)げぬ内は、生けて国へは帰さないワ」
鳴り物の演奏を終える。特に能楽、歌舞伎の囃子(はやし)方で、太鼓入りの鳴り物を一段と高く打ち終えてくぎりをつける。また、幕切れせり上げなどで効果音のつけを早打ちする。
※百丈清規抄(1462)三「勤の始るには、打はじめの鈴と云、はつるには打あくる鈴なんどと云やうに」
※歌舞伎・矢の根(1729)「鳴物打上げ、直ぐに浄瑠璃に成る」
④ (太鼓を打ち終える意から) 芝居相撲などの興行を終える。転じて長くかかった集会や仕事などを終える。
※義血侠血(1894)〈泉鏡花〉一七「金沢を打揚(ウチアゲ)次第、二箇月間三百円にて雇はむ」
⑤ 囲碁で、相手の石のダメをすべて詰め、盤上から取り除く。また、勝負決着がつくまで打ってしまう。
[2] 〘自ガ下一〙 うちあ・ぐ 〘自ガ下二〙 (波が自分自身を陸へあげる意から) 波がおし寄せて陸にあがる。
和英語林集成(初版)(1867)「ナミガ イソエ vchiageta(ウチアゲタ)

うち‐あげ【打上・打揚】

〘名〙
① 波などが打ち上げること。
※新撰六帖(1244頃)三「みさごゐる浜の真砂の打上に波ぎは見えて寄る藻くづかな〈藤原光俊〉」
② 打って上方へ上げること。花火、ロケットなどを打ち上げること。
※東京年中行事(1911)〈若月紫蘭〉八月暦「今の川開と云へば、単に花火の打揚(ウチアゲ)を意味し」
③ 演劇用語。
(イ) 能楽の囃子(はやし)で、連続して演奏した末に、大・小鼓、またはそれに太鼓を加えて、一段落を付ける手法の一種で少し調子を上げて演奏される。この手でいったん囃子を止めるのと、さらにはやし継いでゆくものとの二種がある。
※わらんべ草(1660)二「打上、つづみの少うちよりわきうたふもの也」
(ロ) (イ)から転用された歌舞伎の鳴り物の一つ。特に、長唄囃子の拍子事(ひょうしごと)の段落に用いられる手法で、太鼓入りの囃子を一段と高め、ひとくぎりつけるもの。また、幕切れ、せり上げなどで効果音のつけを早打ちすることをもいう。
※歌舞伎・夢物語盧生容画(1886)三幕「此の模様打ち上げの鳴物にて、幕」
④ 弓術で、歩射で草鹿(くさじし)、円物(まるもの)などを射ようとするとき、弓を引くため、矢を弦にくわせて持ちあげること。
⑤ 花札の遊びで、下座にいて持っていれば役になる札をやむなく上座の方に打ち出すこと。
⑥ 囲碁で、相手の石のダメをすべて詰め、盤上から取り除くこと。
※俳諧・季寄新題集(1848)秋「細工火 はな火のこと也。此外うち上げなどいふ」
※続視聴草(1830)初集一〇(古事類苑・器用三〇)「乗物目名〈略〉打揚と云は、左右の引戸なく簾を揚て上下せらるるを云」
⑨ (「あげ」が「終了」「完成」などの意をもって)
(イ) 刀剣などを造りあげること。
※歌舞伎・四天王楓江戸粧(1804)三立「拝見するさへ鍛冶の冥加(みゃうが)、打ち上げの儀は思ひもよらず」
(ロ) 相撲、芝居などの興行を終えること。〔相撲講話(1919)〕
(ハ) 事業、仕事などを終えること。また、その終了を祝う宴。
※青い殺人者(1966)〈石原慎太郎〉六六「滞日中の外国の大観光団が日本での旅程の打ち上げを」

うち‐あが・る【打上・打揚】

〘自ラ五(四)〙
[一] (「うち」は接頭語)
① 低いところから高いところへ行く。勢いよく上る。
※平家(13C前)九「梶原源太景季たかき所にうちあがり」
② まわりより高まる。
※四河入海(17C前)八「此白鶴山はうちあかりて高て涼しき処なる程に」
③ 地位、官位などが高くなる。高貴となる。また、様子などがりっぱになる。
※評判記・野郎立役舞台大鏡(1687)鈴木作彌「打(ウチ)あがりたる公達に用て究竟一のげいぶり」
④ 心が高尚になる。気位が高くなる。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)江戸「幾度吟じてもおもしろしと、打あがったる歌ばなしなど申出し」
⑤ カードを使うゲームで、手札に役ができる。
※狂歌・春駒狂歌集「もうせんを二十三馬に四きり嶋花は一九で打あがりみゆ」
[二]
① 打たれて高いところへ飛ばされる。また、上空めがけて発射される。「花火が打ち上がる」
② 水の中から陸へ移る。波によって岸に打ち寄せられる。
※平家(13C前)九「汀(みぎは)にうちあがらむとするところに」
③ 歌舞伎で下座の鳴り物の演奏が終わる。→打ち上げる
※歌舞伎・隅田川花御所染(1814)大切「よろしくあって、どうと下に居る。鳴り物打上がる」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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