(読み)かんむり

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説


かんむり

こうぶり,こうむり,かむりなどから転じた語。最も広義にはかぶりものの総称であるが,狭義には今日の神道の神主が儀式の際にかぶるかぶりものをさす。日本の冠の成立には,次のような歴史的経緯がある。すなわち,人物埴輪や発掘品にみられる古墳時代のものは,王冠型か透かし彫状の筒形で,頭頂をおおう形ではなかった。大陸風にならった飛鳥・奈良時代の冠は,当初,7世紀の冠位十二階制にみられるとおり色によって区別されたが,8世紀になって服制が確立すると,礼服用の礼服冠 (礼冠ともいい,天皇のものは特に冕冠〈べんかん〉と名づけられた) と朝服・制服用の頭巾 (ときん) の冠とがかぶられるようになった。平安時代中期 (10世紀) になって日本化が進み,衣冠束帯が着られるようになると,今日の冠の原型が完成する。これらは紗に漆を塗ってつくった柔軟な冠であるところから漆紗冠と呼ばれている。今日の冠と異なる点は,冠の額の部分が厚く,しかも (えい) にあたる部分は燕尾と呼ばれ,上部から下部にいくほど広くなる一方,下端が丸くなり,内側に湾曲する形をとっていることであった。 12世紀初頭になって強装束が起ると,額が薄く,纓も今日のように2枚重なった短冊状になって後方に張出すようになった。これが今日の神主の冠で,もともと文官用であるが,武官の冠では纓が巻纓でおいかけと称する半月形の飾りがつく。西洋風の冠は一般にクラウン crownと呼ばれ,広義には花冠,月桂冠,宝冠,金冠なども含まれるが,狭義には王冠をさす。王冠は高貴,尊厳の印としてかぶる君主の冠で,古代からのさまざまな歴史的経緯をたどって中世以来かぶられるようになった。現在のイギリス王家では,戴冠式用と国事用の2種類が用いられている。クラウンに対するコロネット coronetは花冠,宝冠をいい,ディアデム diademは王冠型の頭飾りを,ティアラ tiaraは教皇冠や三重冠を意味する。

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デジタル大辞泉の解説

かうぶり【冠】

こうぶり(冠)

かがふり【冠】

かんむり。
「次に投げ棄つる御―になれる神の名は」〈・上〉
《古くは位階によって冠の色が違ったところから》位階。
「このころの我が恋力(こひぢから)記し集め功(くう)に申さば五位の―」〈・三八五八〉
[補説]この語がのちに「かうぶり」「かんむり」となる。

かむり【冠】

《「かぶり」の音変化》
かんむり」に同じ。
和歌・俳諧などの初めの5文字。また、各句の初めの字。「付け」
鉱脈鉱層上側にある地盤。

かん〔クワン〕【冠】

[名]かんむり。
[ト・タル][文][形動タリ]最もすぐれているさま。首位に立つさま。「世界にたる誉れ

かん【冠】[漢字項目]

常用漢字] [音]カン(クヮン)(呉)(漢) [訓]かんむり かぶる
頭にかぶるもの。かんむり。「冠位衣冠王冠加冠金冠戴冠(たいかん)宝冠月桂冠
りっぱな地位・栄誉のシンボル。「栄冠無冠三冠王
冠をかぶる。成人の儀式。「冠婚葬祭弱冠
上にかぶせる。かぶる。「冠詞冠水
トップに立つ。すぐれる。「冠絶
漢字の組み立てで、上部につく部分。「偏旁冠脚
[難読]冠者(かじゃ)冠木門(かぶきもん)鶏冠(とさか)圭冠(はしはこうぶり)

かんむり【冠】

《「こうぶり」の音変化》
頭にかぶるもの。特に、許されて直衣(のうし)を着て参内する束帯衣冠などのときにかぶるもの。黒の羅(うすもの)で作る。頂にあたる所を甲(こう)、前額部を額(ひたい)という。後方の高い壺は髻(もとどり)を入れる巾子(こじ)で、その後ろに長方形の纓(えい)(俗に燕尾(えんび)という)2枚を重ねて垂れる。有文(うもん)と無文の冠の区別があり、時代によって形式の変化がみられる。こうむり。かむり。かぶり。かんぶり。
漢字の構成部位の一。上下の組み合わせからなる漢字の上側の部分。「安」の「宀(ウかんむり)」、「茶」の「艹(草かんむり)」など。

こうぶり〔かうぶり〕【冠】

《「かがふり」の音変化》
束帯衣冠の装束のとき、頭にかぶるもの。→冠(かんむり)
男子が成年に達して、初めて冠をつけること。また、その儀式。元服。初冠(ういこうぶり)。
《古くは冠の色で位を表したところから》位。位階。
「官(つかさ)―も、わが子を見奉らでは、何かはせむ」〈竹取
《多く「得」「賜ふ」が付いた形で用いられる》従五位下に叙せられること。叙爵。
「蔵人より今年―得たるなりけり」〈・若紫〉
年爵(ねんしゃく)」に同じ。
「御賜(たうば)りの年官(つかさ)―」〈・少女〉

さか【冠/鶏冠】

とさか。
「瑞鶏(あやしきとり)を貢(たてまつ)れり。其の―海石榴(つばき)の華の似(ごと)し」〈天武紀〉

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百科事典マイペディアの解説

冠【かんむり】

古くからヨーロッパ,中国などで種々の冠が用いられたが,日本では推古朝に冠位十二階の制がしかれて以来,官服に用いられるようになった。天武朝の漆紗(しっしゃ)冠・圭(けい)冠,奈良朝の礼(らい)冠などを経て平安朝でその形が整備され,額(ひたい),縁(へり),巾子(こじ),簪(かんざし),(えい)などからなるものになった。五位以上は有紋,六位以下は無紋で,縁の高さや額の透かし模様によって厚額(あつびたい),薄額,透額(すきびたい),半透額などがある。→王冠
→関連項目挿頭

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世界大百科事典 第2版の解説

かんむり【冠】

元来〈かんむり〉は〈かうぶり〉の音便形であるから,頭にかぶるものはみな冠といえようが,帽や笠あるいは冑と区別してとくに威儀を正したり権威の象徴として用いるものを冠という。冠の起源については不明なところが多い。はじめは布製の帯や月桂樹枝を環状に丸めたものなどとして存在したらしく,王朝時代のエジプトでは布製帯状の,アルカイク時代のギリシアでは月桂樹冠の図像が認められる。ただし,単なる髪飾なのか冠としての意味を備えていたものなのかは判断できない。

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大辞林 第三版の解説

かがふり【冠】

頭を覆うこと。また、覆うもの。かんむり。 〔新撰字鏡〕
〔冠によって位階を表したことから〕 位階。 「五位の-/万葉集 3858

かむり【冠】

かんむり(冠)」に同じ。
トンネルの天盤からその真上の地表面までの距離。かんむり。
俳諧などで、発句の初めの五文字。 「 -付け」

かん【冠】

( 名 )
かんむり。
( トタル ) [文] 形動タリ 
最も優れているさま。最高と認められるさま。多く「冠たる」の形で用いる。 「世界に-たる日本の技術」

かんぶり【冠】

かんむり(冠)」に同じ。

かんむり【冠】

〔「かうぶり」の転〕
地位・階級などを表すため頭にかぶるもの。また、特に平安時代以後行われた、礼服着用時のかぶりもの。額・巾子こじ・簪かんざし・纓えいなどから成る。束帯・衣冠の際、直衣のうしで参朝する際に着用した。壮年では厚額あつびたい、若年では薄額、五位以上は有文うもんの羅、六位以下は無文の縵かとりで仕立てるなど、身分・年齢、文官・武官の別などにより形状・素材などを異にした。かぶり。かむり。かんぶり。かがふり。
漢字の構成部分の名称。「宇」の「宀(うかんむり)」、「花」の「艹(草かんむり)」など、字の上部にかぶせるもの。かしら。 → おかんむり
催し物・スポーツ大会などの名称に、主催者・協賛者などの名や商品名などを冠したものである意を表す。 「 -コンサート」 「 -大会」

かんむり【冠】

姓氏の一。

こうぶり【冠】

〔「かがふり」の転〕
衣冠束帯のとき頭にかぶるもの。かんむり。 「赤き衣を着て-したる者来たりて/今昔 11
元服して初めて冠を着けること。初冠ういこうぶり。 「三日はみかどの御-とて、世はさはぐ/蜻蛉
位階。くらい。 「さらに官つかさも-も賜はらじ/枕草子 244
五位に叙せられること。 「やがて-賜ひて殿上せさせ給ふ/宇津保 俊蔭
年爵ねんしやく」に同じ。 「御封加はり官つかさ・-などみな添ひ給ふ/源氏 藤裏葉

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精選版 日本国語大辞典の解説

かがふり【冠】

〘名〙 (動詞「かがふる(被)」の連用形の名詞化)
① 頭にかぶるものの総称。こうぶり。かんむり。
※法華義疏紙背和訓(928頃か)「冠帽(加々布利)」
② (上代以降、冠によって位階を表わしたところから) 位階。官位。
※万葉(8C後)一六・三八五八「此の頃の吾が恋力記し集め功(くう)に申さば五位の冠(かがふり)
③ 二〇歳。古代中国で成人して初めて冠を着用する年齢。弱冠。
④ (━する) かぶりものを頭に着けること。冠を着用すること。
新撰字鏡(898‐901頃)「頭 加我不利須」

かがほり【冠】

〘名〙 「かがふり(冠)」の変化した語。
※新撰字鏡(898‐901頃)「幘 首服也 頭巾也 比太比乃加々保利」

かむり【冠】

〘名〙
① =かんむり(冠)①〔文明本節用集(室町中)〕
※ロザリオの経(一六二二年版)(1622)五つのおん悲しみのミステリオスの事「ヲソロシキ イバラノ camuriuo(カムリヲ) トトノエ」
② 頭をいう。
※満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉三八「橋本はすぐ冠(カムリ)を横に振った」
※詩学大成抄(1558‐70頃)九「宸の字とわ、宀はかむりで、そらの心ぞ」
④ 和歌、俳諧などの初めの五文字。また、各句の初めの字。ことばの言い初めの意にも用いる。
※俳諧・去来抄(1702‐04)先師評「此は、善光寺如来の洛陽真如堂に遷座有し日の吟にて、初の冠はひいやりと也」
⑤ 鉱脈や鉱層の上側の地盤。上盤。

かん クヮン【冠】

[1]
① かんむり。〔史記‐儒林伝〕
元服。加冠。〔礼記‐冠義〕
③ (形動タリ) もっともすぐれていること。首位であること。また、その人、もの。
※応永本論語抄(1420)顔淵「顔淵、孔子の弟子文三千人の冠たる者也」 〔史記‐項羽本紀〕
[2] 〘接尾〙 競技や大会で勝ちとった選手権や優勝数、また個人記録などを数えるのに用いる。「三冠王」

かん‐・す クヮン‥【冠】

〘自他サ変〙 ⇒かんする(冠)

かん‐・する クヮン‥【冠】

[1] 〘自サ変〙 くゎん・す 〘自サ変〙 元服する。
※随筆・山中人饒舌(1813)下「余甫冠東游江戸
[2] 〘他サ変〙 くゎん・す 〘他サ変〙
① かんむりをつける。
※史記抄(1477)一五「魋結は不冠して、もとどりはなしぞ」
② 上につける。冒頭に付加する。かぶせる。
※小補東遊後集(1469)小補東遊集序「而筆之於、書成授余、且欲言冠於首焉」
※草枕(1906)〈夏目漱石〉七「此靄(もや)に、春宵の二字を冠したるとき、始めて妥当なるを覚える」

かんぶり【冠】

〘名〙 =かんむり(冠)
※運歩色葉(1548)「巾子 冠 カンフリ 入之物」

かんむり【冠】

〘名〙 (「かうぶり」の変化したもの)
① 頭にかぶるもの。特に、束帯、衣冠などの時、頭にかぶる物。直衣(のうし)でも晴(はれ)の時に用いる。黒の羅(うすもの)で作る。その頂に当たるところを甲(こう)といい、前額部を額(ひたい)という。後方の高い壺(つぼ)は髻(もとどり)を入れる巾子(こじ)で、その後に長方形の纓(えい)二筋を重ねて垂れる。冠の緒を形式化したもので古風に先端を円形にしたのを燕尾という。全体に有文(うもん)の羅をはったのを「繁文(しげもん)の冠」と呼び、五位以上が用いる。巾子の上部と纓の裾だけに文を入れたのを「遠文(とおもん)の冠」といい、六位以下の用とする。天皇の神事用は黒絹をはって「無文(むもん)の冠」という。こうぶり。こうむり。かむり。かぶり。かんぶり。〔温故知新書(1484)〕
② 能装束の一つ。通常の冠と同じ形の初冠(ういこうぶり)のほかに、透冠(すきかんむり)、唐冠(とうかんむり)などがある。かむり。
③ すべての上に位するすぐれたもの。
※三四郎(1908)〈夏目漱石〉四「さうして凡ての上の冠(カンムリ)として美しい女性(にょしゃう)がある」
④ 漢字の字形の構成部分のうち、上部にかぶせるもの。「宇」「花」「箱」などの「宀」「艹」「」の部分をいう。

こうぶり かうぶり【冠】

〘名〙 (「かがふり」の変化した語)
① 衣冠束帯装束のとき、頭にかぶるもの。→かんむり
※書紀(720)持統六年三月(北野本訓)「其の冠位(カウフリ)を脱ぎて朝に擎上(ささ)げて重ねて諫めて曰(まう)さく」
② (━する) 男子が成年に達して、はじめて冠をつけること。また、その儀式。元服。初冠(ういこうぶり)
※書紀(720)仲哀元年一一月(寛文版訓)「朕未だ弱冠(カウフリ)に逮(いた)らずして、父(かそ)の王(きみ)既に崩りましぬ」
③ (古くは冠の色で位を表わしたところから) 位。位階。→冠を賜わる
④ (多く「得」「賜ふ」がついた形で用いられる) 五位下に叙せられること。叙爵。→冠を賜わる
⑤ 平安以降の年給の一種である「年爵(ねんしゃく)」のこと。
※源氏(1001‐14頃)薄雲「得給ふべきつかさ・かうぶり」
⑥ ある文句の一音ずつを和歌の最初において一連の歌を詠むこと。こうむり。→沓冠(くつかぶり)
富士谷成章の用語で、枕詞をいう。〔あゆひ抄(1773)〕
[補注]③の意は孝徳天皇の三年(六四七)、位階に大職冠・大繍冠等が制定され、これに「冠」の字が使われたところから派生したともいわれる。

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世界大百科事典内のの言及

【元服】より

…〈げんぷく〉ともいい〈元〉は首,〈服〉は着用する意。首服,首飾,冠礼,加冠,初冠(ういこうぶり∥ういかぶり),御冠(みこうぶり),冠ともいう。
[古代]
 冠礼としての成人式は,日本古代では682年(天武11)に規定された男子の結髪加冠の制以後,冠帽着用の風習が普及してからで,国史に見えるものとしては714年(和銅7)の聖武天皇(14歳で元服)の記事が初めとされる。…

【褶曲】より

…褶曲構造の解析にとって,褶曲軸や軸面は最も基本的な幾何学的要素であるが,前述の石油探鉱にとっては,石油は水より軽いのでいちばん高い部分にたまりやすいことから,これに関連した術語も使われている。すなわち,水平面を基準として同一褶曲面上でいちばん高い位置にある点を冠(クレストcrest)といい,反対にいちばん低い点を底という。ヒンジと同様にして,冠線,冠面や底線,底面が定義される。…

【舞楽装束】より


[歌舞の舞人装束]
 歌舞とは,神楽(御神楽(みかぐら)),大和(倭)舞(やまとまい),東遊(あずまあそび),久米舞,風俗舞(ふぞくまい)(風俗),五節舞(ごせちのまい)など神道系祭式芸能である。〈御神楽〉に使用される〈人長舞(にんぢようまい)装束〉は,白地生精好(きせいごう)(精好)の裂地の束帯で,巻纓(けんえい∥まきえい),緌(おいかけ)の,赤大口(あかのおおくち)(大口),赤単衣(あかのひとえ),表袴(うえのはかま),下襲(したがさね),裾(きよ),半臂(はんぴ∥はんび),忘緒(わすれお),(ほう∥うえのきぬ)(闕腋袍(けつてきほう)――両脇を縫い合わせず開いたままのもの),石帯(せきたい),檜扇(ひおうぎ)(),帖紙(畳紙)(たとうがみ),(しやく)を用い,六位の黒塗銀金具の太刀を佩(は)き,糸鞋(しかい)(糸で編んだ(くつ))を履く。手には鏡と剣をかたどった輪榊を持つ。…

※「冠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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