撰銭(読み)センセン

デジタル大辞泉 「撰銭」の意味・読み・例文・類語

せん‐せん【×撰銭】

ぜに

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精選版 日本国語大辞典 「撰銭」の意味・読み・例文・類語

えり‐せん【撰銭】

  1. 〘 名詞 〙 商取引の際に銭貨をその質のよしあしによって区別すること。流通市場悪貨良貨に混在していたために起こったもので、流通の円滑を妨げる行為として、奈良時代から江戸時代に至る間、しばしばその規制が行なわれた。えりぜに。せんせん
    1. [初出の実例]「商売輩以下撰銭事 近年恣撰銭之段、太不然、所詮於日本新鋳料足者、堅可之、至根本渡唐銭〈永楽・洪武・宣徳〉等者、向後可渡之〈但如自余之銭相交〉若有違背之族者、速可厳科矣」(出典:内閣文庫本建武以来追加‐明応九年(1500)一〇月)

撰銭の語誌

奈良時代、平安時代には、銭を区別する行為を、「択銭」と表現している。挙例の明応九年一〇月の室町幕府による禁令は、「撰銭」の古い例である。「撰銭」は遅くとも室町時代の後期には一般的な語となっていたと考えられるが、その読みは「えりせん」か「えりぜに」か「せんせん」かは定かではない。


せん‐せん【撰銭】

  1. 〘 名詞 〙 商取引の際に銭貨をその質のよしあしによって区別すること。流通市場で悪貨が良貨に混在していたために起こったもの。粗悪銭の替銭を求めたり、価値を低く見積もったりした。流通の円滑を妨げる行為であるとして、奈良時代から江戸時代に至る間、しばしばその規制が行なわれた。えりぜに。えりせん。

えり‐ぜに【撰銭】

  1. 〘 名詞 〙えりせん(撰銭)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「撰銭」の意味・わかりやすい解説

撰銭
えりぜに

貨幣を授受するとき、良貨を撰(えら)び、悪貨を排除すること。またその撰ばれた良銭精銭(せいせん))をさすこともある。「えりせん」「せんせん」ともいう。日本では、皇朝十二銭ののち、貨幣の官鋳(かんちゅう)を行わず、十二銭と、大陸から流入してきた唐(とう)、宋(そう)、元(げん)、明(みん)の銭貨および私鋳銭(しちゅうせん)が流通していた。これら銭貨は、銅銭1枚が1文とされるものであったが、その品質はものにより差異があった。このため、商業が盛んになった室町時代には、貨幣授受にあたり、良銭を撰び取ることが一般化した。勘合貿易により明で獲得した貨幣を日本に搬入して財源の一としていた室町幕府は、明で流通していた悪銭を良銭なみに日本で流通させるためには、撰銭行為がその障害となった。また撰銭は商業取引の円滑化の障害でもあったので、1500年(明応9)幕府は、日本私鋳銭以外の銭の請取り拒否を禁止した。これがいわゆる撰銭令である。こののち幕府は、1542年(天文11)まで、条件は異なっているが、たびたび撰銭に関する法令発布している。また勘合貿易と関係の深かった大内氏は、幕府よりも早く1485年(文明17)明の永楽銭(えいらくせん)、宣徳銭(せんとくせん)を請け取らないことを禁止する法令を出している。撰銭令は、このほか戦国大名では、近江(おうみ)の浅井氏、相模(さがみ)の北条氏、甲斐(かい)の武田氏、織田信長のものが名高く、寺院では東福寺、興福寺のものなどが残っている。

 撰銭の結果、物価が騰貴したという学者もあるが、室町後期は総じて物価は下落しており、この点、善悪両貨が同一表示価値をもって流通するとき、悪貨は良貨を駆逐し、良貨は蓄蔵、融解、輸出、削竊(さくせつ)され、市場から姿を消し、物価騰貴を引き起こすというグレシャムの法則が適用される状態ではなかったといえる。撰銭は江戸初期、幕府により寛永通宝(かんえいつうほう)が鋳造流通させられるに及んで終了した。

[百瀬今朝雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「撰銭」の意味・わかりやすい解説

撰銭 (えりぜに)

〈えりせん〉〈よりぜに〉〈せいせん(精銭)〉ともいう。平安時代には政府鋳造の粗悪な貨幣,私鋳銭,文字や輪郭の磨耗している貨幣などを選び排する行為があり,これを〈択銭(たくせん)〉と称した。平安末期以降,中国銭の流入が増え,貨幣流通が盛んになると,中国産,日本産の粗悪な私鋳銭,やけ(焼),かけ(欠),われ(破。割れやすい粗悪な銭を含む),すり(磨)など破損・変形した悪銭を排除することが盛んになった。前近代では,金属貨幣は信用貨幣というよりは,地金の価値として流通する現物貨幣の要素を持っていたので当然このようなことが行われた。悪銭を選び分け,あるいは拒否して代りの良銭(精銭)を要求することを撰銭という。1銭=1文で流通しない悪銭は打歩(うちぶ)(換算比率)をつけて小額貨幣として流通していたので,適正な打歩を要求する行為,ないしは不当不正の貨幣使用がないか否か,調べる行為をも撰銭といった。
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百科事典マイペディア 「撰銭」の意味・わかりやすい解説

撰銭【えりぜに】

〈えりせん〉〈せんせん〉とも。おもに室町・戦国時代,流通銭貨中の良銭・悪銭を選択したり,法に定められた比率で良銭・悪銭を混用して使うこと。または選び出された精銭(良銭)そのもの。鎌倉中期以降,唐銭・宋銭・元銭が流通し,室町時代には明銭,私鋳銭も加わり,銭貨流通は混乱した。室町幕府は1500年,撰銭令を発布,永楽銭・洪武銭・宣徳銭を標準貨幣とし,私鋳の悪銭使用を禁止,それ以外の諸銭貨を同一価値で使用させ,撰銭行為を禁止したが,効果は上がらなかった。幕府はその後も1566年まで8回の撰銭令を出している。→永楽通宝
→関連項目悪銭宋銭明銭

撰銭【せんせん】

撰銭(えりぜに)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「撰銭」の意味・わかりやすい解説

撰銭
えりぜに

良銭と悪銭とを選別する行為,および,それによって選び分けられた銭(精銭)。撰銭が最も盛んに行なわれたのは,唐銭,宋銭,元銭,明銭私鋳銭など,さまざまな品質の貨幣が流通した室町時代であり,特に応仁の乱以後に年貢貢納,商取引において良銭を選び取ることが盛んに行なわれた。この撰銭行為は流通通貨の質の低下を招き経済を混乱させるものであったため,幕府は明応9(1500)年標準貨幣を定め,私鋳銭の受領拒否を認める法令を出した。その後,大内氏や大寺院,戦国大名もこれにならった。寛永13(1636)年,江戸幕府による銭貨統一により撰銭は廃止された。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「撰銭」の解説

撰銭
えりぜに

「えりせん・せんせん」とも。清撰(せいせん)・精選とも。貢納や商取引の際,通用価値の低い銭貨の受取りを拒否し,精銭による支払いを要求する行為。平安末期以来,中国銭を中心とする貨幣使用が広がったが,やがて磨滅・破損した銭や粗悪な私鋳銭などが入り混じって流通するようになり,そのような悪銭の受取りを嫌う考え方が生じた。とくに戦国期には,明銭(みんせん)の下落など通貨体系に大きな動揺がおこり,貨幣価値が不安定化して撰銭が激しくなったことから,多くの撰銭令が発令された。撰銭の対象となった悪銭も,貨幣流通から排除されたわけではなく,低価値で通用した。江戸時代に入り,寛永通宝が発行されて大量に流通するにいたり,撰銭は終息した。


撰銭
せんせん

撰銭(えりぜに)

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旺文社日本史事典 三訂版 「撰銭」の解説

撰銭
えりぜに

良貨・悪貨を選りわける行為,またそれにより選び出された銭
「せんせん」とも読む。室町時代には,宋・元・明銭と粗悪な私鋳銭が混用され,特に応仁の乱(1467〜77)後は長年の使用や兵火などのため破損も多く,良悪の差がはなはだしかった。そこで商品取引きの際,悪銭を嫌い良銭を選ぶという貨幣の選択(撰銭)が行われ,流通を阻害した。

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世界大百科事典(旧版)内の撰銭の言及

【撰銭】より

…前近代では,金属貨幣は信用貨幣というよりは,地金の価値として流通する現物貨幣の要素を持っていたので当然このようなことが行われた。悪銭を選び分け,あるいは拒否して代りの良銭(精銭)を要求することを撰銭という。1銭=1文で流通しない悪銭は打歩(うちぶ)(換算比率)をつけて小額貨幣として流通していたので,適正な打歩を要求する行為,ないしは不当不正の貨幣使用がないか否か,調べる行為をも撰銭といった。…

【永楽通宝】より

…大中・洪武・永楽・宣徳の4通宝のうち,永楽銭の輸入が最も多く,弘治通宝に至ってはごく少ない。15世紀後期から撰銭(えりぜに)が盛んとなるが,永楽銭は善銭の一つである。しかし西国で模造の私鋳銭が出て撰銭の対象となった。…

【貨幣】より

…室町時代には中国の官鋳制銭のほかに,日本製の模造銭や私鋳銭が造られ,中国製の精銭と並んで日本製の鐚銭(びたせん)が使用された。そのため撰銭(えりぜに)の現象がみられるようになり,標準的な中国銭に対して日本製の銭貨は資質の悪い減価された悪銭として区別された。室町幕府や戦国大名の大内氏・武田氏・浅井氏・結城氏・北条氏や,戦国覇者の織田氏などはいずれも撰銭令を出し,貨幣流通の面から流通経済を把握しようとした。…

※「撰銭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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