たち‐やく【立役】
〘名〙
① 能、
狂言や
歌舞伎で、舞台にすわっている地謡方
(じうたいかた)、囃子方
(はやしかた)に対し、立って
演技する役。立方
(たちかた)。
※わらんべ草(1660)一「幕をあぐるに作法あり。立役の分はもろまく上べし」
② 女歌舞伎禁止以後、
女形(おんながた)・子役以外の男役の
総称。
※俳諧・西鶴大句数(1677)一〇「金鍔に心底とをす暮の月 岑の八重霧立役をして」
※人倫訓蒙図彙(1690)七「立役(タチヤク)」
③ 歌舞伎で、男の
善人の役。また、
敵役(かたきやく)に対して善の側の人物の総称として用いる。
※評判記・
役者評判蚰蜒(1674)秋田彦三郎「とかくまるぐちのどうけよりも広袖のみせを引て半どうになり、立役半ぶんの芸をさせたき事や」
※浮世草子・御前義経記(1700)八「立役
(タチヤク)、敵役
(かたきやく)、
道化(だうけ)、花車、おやがたと衣

までをかへてかぶきをはじめ」
④ 歌舞伎で、実事師など、壮・中年の善人の男役。また、多く一座の幹部が演じるところから、幹部
俳優をさしていう。たて役者。〔
古今役者大全(1750)〕
たて‐やく【立役】
〘名〙
※浮世草子・寛濶役者片気(1711か)下「楽屋には
沢村がいきごみ思ひ入のうつるを見て、立役野郎、道外其外馬の跡足迄袂をぬらして」
② 歌舞伎で侠客
(きょうかく)になる役者。〔
俚言集覧(1797頃)〕
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立役
たちやく
歌舞伎(かぶき)劇の役柄の一種。広義では女方に対する男性の役、または男の役を専門に演ずる俳優の総称だが、狭義では敵(かたき)役に対する善人の壮年・中年男子役をいう。本来は立方(たちかた)ともいって、舞台で座っている地方(じかた)(音楽演奏者)または囃子(はやし)方に対し、立って演技する俳優の意味だったが、のちに女と子供の役を切り離して大人の男の役だけをさすようになり、さらに敵役、老(ふけ)役(親仁(おやじ)方)、若衆方(わかしゅがた)、道外方(どうけがた)などを除く善人の男子役に限定されるようになった。
細分すると、演出法や役の感覚から、荒事(あらごと)(師(し))、実事(じつごと)(師)、和事(わごと)(師)、武道(ぶどう)、和実(わじつ)などの種類があるが、この場合「師」をつけると、これを得意とする俳優のことになる。武道とは武芸を見せる役、和実とは和事の味をもった実事の意味である。また劇中で迫害や苦難をじっと堪え忍ぶ役を「辛抱(しんぼう)立役」とよぶこともある。
[松井俊諭]
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立役【たちやく】
歌舞伎の役柄。初めは舞台ですわっている地方(じかた)(演奏者)に対し,立っている俳優全体をさしたが,のち男役の総称になり,さらに限られて,敵役(かたきやく)・若衆役・老人役等を除く善人の男役の総称になった。現在では女方(おんながた)に対する男の役,またはこれを専門とする俳優の総称として用いられている。
→関連項目岩井半四郎|尾上菊五郎|尾上松緑|沢村宗十郎|中村歌右衛門|芳沢あやめ
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立役
たちやく
歌舞伎の役柄。女方に対し,男役をいう。初期の歌舞伎では,すわって囃す地方 (じかた) に対し,立って演技をする立方 (たちかた) の意で,役者の総称であったが,やがて男役だけをいうようになり,役柄の分化が行われた元禄期には,男役のなかから老役 (ふけやく) や敵役,道化が独立し,善人で美男の,芝居の主要な役をつとめる男役を立役と称するようになった。
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たちやく【立役】
歌舞伎の役柄の一つ。本来は地方(じかた)(音楽演奏者)に対する立方(たちかた)(演技者)の意味であったが,のちに女と子供の役を分離して,男の役だけをさすようになった。さらに役柄の分化に伴い,若衆方,敵役,道外方,親仁方(おやじがた)を切り離して,善人で思慮深い立派な男に限定された。この中には,荒事師(荒事の主人公),和事師(色事を演じる美男の役),実事師(現実的狂言の主人公)も含まれていた。しかし現在では,幅広い概念で使われている。
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