歌舞伎の役柄の一つ。本来は地方(じかた)(音楽演奏者)に対する立方(たちかた)(演技者)の意味であったが,のちに女と子供の役を分離して,男の役だけをさすようになった。さらに役柄の分化に伴い,若衆方,敵役,道外方,親仁方(おやじがた)を切り離して,善人で思慮深い立派な男に限定された。この中には,荒事師(荒事の主人公),和事師(色事を演じる美男の役),実事師(現実的狂言の主人公)も含まれていた。しかし現在では,幅広い概念で使われている。(1)女方に対する男性の役の総称,また,男の役を専門に演じる職掌,その俳優の総称。(2)男の役の中でも善悪によってこれを二分し,悪人を敵役,善人をすべて一括して立役と呼ぶ。(3)善人の役の中でも老け役,道化役,二枚目,あるいは和事,荒事,少年の役の若衆(わかしゆ)を除いたごく普通の常識ある大人の男の役をいう。たとえば《忠臣蔵》の由良助,《菅原》の源蔵,《熊谷陣屋》の熊谷直実など。顔は砥粉(とのこ)あるいは薄肉(うすにく)という自然な化粧,鬘(かつら)は多く〈生締(なまじめ)〉を用いる。度量があって寛容で,苦難を切り拓(ひら)く男の理想像である。
執筆者:渡辺 保
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歌舞伎(かぶき)劇の役柄の一種。広義では女方に対する男性の役、または男の役を専門に演ずる俳優の総称だが、狭義では敵(かたき)役に対する善人の壮年・中年男子役をいう。本来は立方(たちかた)ともいって、舞台で座っている地方(じかた)(音楽演奏者)または囃子(はやし)方に対し、立って演技する俳優の意味だったが、のちに女と子供の役を切り離して大人の男の役だけをさすようになり、さらに敵役、老(ふけ)役(親仁(おやじ)方)、若衆方(わかしゅがた)、道外方(どうけがた)などを除く善人の男子役に限定されるようになった。
細分すると、演出法や役の感覚から、荒事(あらごと)(師(し))、実事(じつごと)(師)、和事(わごと)(師)、武道(ぶどう)、和実(わじつ)などの種類があるが、この場合「師」をつけると、これを得意とする俳優のことになる。武道とは武芸を見せる役、和実とは和事の味をもった実事の意味である。また劇中で迫害や苦難をじっと堪え忍ぶ役を「辛抱(しんぼう)立役」とよぶこともある。
[松井俊諭]
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