新世界ザル(読み)しんせかいざる(英語表記)New-World monkeys

改訂新版 世界大百科事典 「新世界ザル」の意味・わかりやすい解説

新世界ザル (しんせかいざる)
New-World monkeys

霊長目オマキザル上科Ceboideaに属するサル総称。鼻の穴の間隔が広いために広鼻猿類Platyrrhiniとも呼ばれる。南アメリカを中心に中央アメリカ,熱帯メキシコまで分布するので新世界ザルの名がある。始新世の後期から中新世の初期にかけて,北アメリカの第三紀原猿類から分岐し,南アメリカにおいて適応放散したと考えられる。つまり,新世界ザルはかなり古い時期に世界ザルの系統とは離れて独自の進化を遂げてきたといえる。

 新世界ザルはいくつかの点で原猿に類似した特徴をもっている。手の親指と他の指との対向性が弱く把握能力がそれほど発達していないこと,手足の第4指が長い種が多く見られること,小臼歯(しようきゆうし)が3本ある(旧世界ザルは2本である)ことなどがあげられる。しかし,新世界ザルは旧世界ザルと同様眼窩(がんか)と側頭窩の間に骨壁があり,メガネザルを除く原猿類とは明確に区別される。

 新世界ザルはキヌザル科Callithricidaeとオマキザル科Cebidaeの2科に分けられるが,ゲルディモンキーを科Callimiconidaeとして扱い,3科とすることもある。キヌザル科はふつうマーモセット属とタマリン属の二つのグループに分けられるが,その分類は現在でも混乱しており,2~5属,20~30種が区別されている。一般に小型で,手足にかぎづめをもっており,あまりサルらしくない動物である。オマキザル科は,ヨザルティティモンキーサキウアカリリスザル,オマキザル,クモザルホエザルなど11属,約30種に分類され,外形的にも,生活形的にも非常に多様である。一般に,キヌザル科の仲間よりも大型であり,手足のつめもすべて平づめである。把握能力のある尾をもつサルはこの科にだけ存在する(オマキザル,クモザル,ホエザル)。また,歯式はキヌザル科がであるのに対して,オマキザル科はである。ゲルディモンキーは形態的にキヌザル科とオマキザル科の中間的な特徴をもっており,そのことがこの種の分類上の位置づけに混乱を招いていると同時に,新世界ザルが一つのグループとしてまとめられる重要な根拠ともなっている。

 新世界ザル全般に見られる特徴として重要なのは,彼らがすべて樹上性であるということである。旧世界ザルは樹上と地上の両方にわたって適応放散を遂げていったが,新世界ザルはアマゾン川流域を中心とした濃密な熱帯降雨林において樹上生活を発展させた。これは,南アメリカに旧大陸のようなサバンナやステップがほとんどなかったことに加えて,熱帯降雨林の植生の多様さが異なった多くのニッチ(生態的地位)を用意し,新世界ザルの多くの種のすみ分けを可能にしたためであろうと考えられる。

 食性は多様であるが,一般にキヌザル科はオマキザル科に比べて昆虫や小動物に食生活を依存する度合が高く,オマキザル科では,ヨザルやオマキザルなどを除くと,植物食的な傾向が強い。

 単位集団は,おとなの雄と雌各1頭ずつにその子どもたちといった一夫一妻型の家族的な構成をもつものから,100頭を超す大集団をつくるものも知られている。キヌザル科の仲間は一般に小集団で生活しているらしい。オマキザル科では,ヨザル,ティティモンキー,サキなどが一夫一妻型の小集団を構成し,オマキザル,クモザル,ホエザルなどは,より大きな群れをつくる。とくにクモザルの社会集団は特異で,チンパンジーのように各個体が離合集散するという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「新世界ザル」の意味・わかりやすい解説

新世界ザル
しんせかいざる
New World monkey

哺乳(ほにゅう)綱霊長目真猿亜目オマキザル上科に属する動物の総称。現代および地質時代を通じて、分布が中央・南アメリカに限られることがその名の由来である。この上科Ceboideaに属するサルは、一般に鼻孔の間隔が広いので広鼻猿類Platyrhimiともいう。現生のものは、マーモセット科Callithricidaeおよびオマキザル科Cebidaeに二分される。ただし、前者のなかからゲルディモンキーを独立させて、ゲルディ科Callimiconidaeを設ける場合もある。

[西邨顕達]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「新世界ザル」の意味・わかりやすい解説

新世界ザル
しんせかいザル
Platyrrhini; New World monkey

霊長目真猿亜目オマキザル上科のオマキザル科,キヌザル科 (マーモセット) に属するサルの総称。すべて南アメリカと中央アメリカに産する。アジア,アフリカに産する旧世界ザル (オナガザル上科オナガザル科のサルの総称) に比べ,鼻隔の幅が広く,左右の鼻孔が離れているので広鼻猿ともいう。また骨性の外聴道がなく,頬袋も尻だこもない。

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世界大百科事典(旧版)内の新世界ザルの言及

【旧世界ザル】より

…前者にはマカック類,マンガベイ類,ヒヒ類,グエノン類などが,後者にはコロブスモンキー類,ラングール類などが含まれる。旧世界ザルは新世界ザル,ヒト上科とともに真猿類を構成する一つの柱である。新世界ザルは,両鼻孔の間の幅が広く,広鼻類Platyrrhiniと呼ばれるのに対し,旧世界ザルおよびヒト上科の種は両鼻孔間の幅が狭いので狭鼻類Catarrhiniと呼ばれる。…

【ゲルディモンキー】より

…新世界ザルは霊長目キヌザル科とオマキザル科の二つのグループに分けられるが,ゲルディモンキーはキヌザル科に入れられたり,オマキザル科に入れられたり,また最近では独立の科とみなされるなどさまざまな扱いを受けてきた(イラスト)。頭胴長20cm。…

【サル(猿)】より

…サルの祖先は原始的な夜行性の哺乳類から派生し,それがしだいに樹上の生活に適応していく過程でサルらしさを獲得したと考えられる。原猿類の多くと新世界ザルのすべては完全な樹上生活者である。旧世界ザルのコロブス亜科も樹上生活者であるが,オナガザル亜科の種は地上をも利用するものが多い。…

※「新世界ザル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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