(読み)そま

精選版 日本国語大辞典 「杣」の意味・読み・例文・類語

そま【杣】

〘名〙
① 木材を切り出す山。また、造営・修理用材を採る目的で所有する山林東大寺領の近江甲賀・田上杣伊賀黒田・玉滝杣など。杣山(そまやま)
東大寺文書‐天平勝宝七年(763)一二月二八日・板蠅杣施入勅案「板蠅杣壱処、在伊賀国名張郡
曾丹集(11C初か)「なけやなけよもぎがそまのきりぎりすくれ行あきはげにぞかなしき」
② 杣山に生えている木。また、杣山から切り出した木。材木。そまぎ。
※夜の寝覚(1045‐68頃)三「そまひくにしも、などたとへよらせ給ふらん」
③ 杣木を切り出すことを職業とする人。杣人。そまとり。杣師。そまだくみ。きこり。
今昔(1120頃か)一二「吉野の杣に三百余物令造て」
④ (「和漢朗詠‐下」の「阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)の仏達わがたつ杣に名賀あらせたまへ〈伝教大師〉」の歌から) 多く「わが立つ杣」の形で比叡山をさす。
千載(1187)雑中・一一三七「おほけなくうき世の民におほふ哉わがたつ杣にすみぞめの袖〈慈円〉」

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デジタル大辞泉 「杣」の意味・読み・例文・類語

そま【×杣】

杣山そまやま」に同じ。「入り」
杣木そまぎ」に同じ。
杣人そまびと」に同じ。
我が立つ杣
[補説]「杣」は国字

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杣」の意味・わかりやすい解説


そま

林木の茂る山、木材採取の山の意から転じて、伐木作業、さらには伐採、造材に働く「杣人(そまびと)」の名称ともなった。古代文献にみえる「杣」はおもに寺社・宮殿の用材伐採地で(玉滝杣、田上杣、甲賀杣など)、のちにそれらは伐採従事の農民を含めた一種の荘園(しょうえん)ともなっていった。しかし中世以後は杣人(木こり)の意に多く用いられて造材職人の主体とみられ、運材夫(日用(ひよう))、造材夫(木挽(こびき))に対し、伐採職人をおもにさすようになる。この三者の分業はすでに近世初期には一般化していた。大山林の伐採にあたる「杣夫(そまふ)」は、杣頭(そまがしら)(庄屋(しょうや))に統率された作業組をつくり、帳付(副頭)、小杣(欠損木の補修)、炊夫(かしき)などの特殊働きを含めて厳しい規律の仕組みをつくりあげ、山中に久しく独自の集団生活を営んできた。各自独自の「木印(きじるし)」を設定して、伐木の識別に資し、伐採作業は個別ながらも、集団の厳しい規律に従って作業にあたった。また杣人同士には種々特異な仲間規律もあって、農民とは別趣の労働生活を山中に展開してきた。それゆえ杣人にはまた特殊な山の神信仰もあり、特異の禁忌伝承もあった。しかし、今日そのおもかげはほとんど消失した。

[竹内利美]

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改訂新版 世界大百科事典 「杣」の意味・わかりやすい解説

杣 (そま)

古代律令国家荘園領主が,造都や寺院などの巨大造営物の建設用材を確保するために指定した山林。造寺事業のために755年(天平勝宝7)孝謙天皇から東大寺へ施入された伊賀国名張郡板蠅杣(いたばえのそま),藤原京や石山寺造営のための近江国田上(たなかみ)杣,平安京造営の杣とされた丹波国山国(やまぐに)杣,11世紀初頭に山城国寂楽寺(白川寺喜多院)造営のための近江国朽木(くつき)杣はその例である。平安時代を通じて杣は荘園化してゆくが,板蠅杣は東大寺領黒田荘,田上杣は常在光寺領田上杣荘,山国杣は修理職(すりしき)領山国荘,朽木杣は寂楽寺領朽木荘へと転化する。杣の荘園化は耕地の拡大を示すが,依然として材木が主要な生産物であることには変りなく,年貢も材木や林産物加工品が主で,荘園領主の需要に応じて臨時に大量の材木が伐採搬出された。荘園においては伐採と搬出のための荘民の組織が領主の要請によって編成され,中世後期はその組織が荘民の自治結合に転化する場合もある。
執筆者:

杣(民俗) (そま)

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百科事典マイペディア 「杣」の意味・わかりやすい解説

杣【そま】

律令国家や寺社が,宮都や寺社の造営・修理用材を確保する目的で指定した山林。代表的なものは東大寺造寺のための伊賀国板蠅(いたばえ)杣,平安京造営時の丹波国山国(やまぐに)杣など。平安時代を通じて荘園化し,板蠅杣は東大寺領黒田荘,山国杣は修理職(すりしき)領山国荘へと転化。近世に木材需要が増大すると,それまで伐木から搬出まで行っていた杣工(そまだくみ)の職掌が分化,伐木・造材専従者を単に杣というようになる。
→関連項目葛川久多荘

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「杣」の意味・わかりやすい解説


そま

古代,材木採取のために指定された山を杣とか杣山といい,杣山から切出す材木を杣木または杣といった。転じて杣木を切出す人を杣人あるいは杣という。東大寺文書,『万葉集』などに散見する。江戸時代初期にはすでに杣=伐木,木挽 (こびき) =造材,日用 (ひよう) =運材の3分化がみられた。名古屋藩の杣組織は一定の統制のもとにあり,その長を杣頭とか庄屋と称し,木曾 30ヵ村内について林業を司り,杣頭の下に張付 (小庄屋あるいは副頭ともいう) ,杣,炊 (かしぎ) がおかれた。杣や杣夫の名称は,明治以後も伐木,造材労働者の呼称として通用してきたが,これは日本資本主義が農業制度をはじめ封建的な諸制度の残存を強く継承していた結果である。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「杣」の解説


そま

律令国家や貴族・寺社が,造営・修理用の材木を採る目的で所有する山林。山城・大和・伊賀・近江諸国など畿内とその周辺に集中的に設定された。東大寺領伊賀国板蠅(いたばえ)杣・玉滝杣,宇治平等院領近江国子田上(こたかみ)杣,法成寺領近江国三尾(みお)杣,寂楽寺領近江国朽木(くつき)杣などが著名。杣には杣司(そまのつかさ)の下に杣工(そまく)・筏師が,集積地には木守がいた。彼らは伐採跡を焼畑とし,谷間を開墾したが,杣領有者はこうした開発耕地をも支配下におき荘園化していった。

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