出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
林木の茂る山、木材採取の山の意から転じて、伐木作業、さらには伐採、造材に働く「杣人(そまびと)」の名称ともなった。古代文献にみえる「杣」はおもに寺社・宮殿の用材伐採地で(玉滝杣、田上杣、甲賀杣など)、のちにそれらは伐採従事の農民を含めた一種の荘園(しょうえん)ともなっていった。しかし中世以後は杣人(木こり)の意に多く用いられて造材職人の主体とみられ、運材夫(日用(ひよう))、造材夫(木挽(こびき))に対し、伐採職人をおもにさすようになる。この三者の分業はすでに近世初期には一般化していた。大山林の伐採にあたる「杣夫(そまふ)」は、杣頭(そまがしら)(庄屋(しょうや))に統率された作業組をつくり、帳付(副頭)、小杣(欠損木の補修)、炊夫(かしき)などの特殊働きを含めて厳しい規律の仕組みをつくりあげ、山中に久しく独自の集団生活を営んできた。各自独自の「木印(きじるし)」を設定して、伐木の識別に資し、伐採作業は個別ながらも、集団の厳しい規律に従って作業にあたった。また杣人同士には種々特異な仲間規律もあって、農民とは別趣の労働生活を山中に展開してきた。それゆえ杣人にはまた特殊な山の神信仰もあり、特異の禁忌伝承もあった。しかし、今日そのおもかげはほとんど消失した。
[竹内利美]
古代律令国家や荘園領主が,造都や寺院などの巨大造営物の建設用材を確保するために指定した山林。造寺事業のために755年(天平勝宝7)孝謙天皇から東大寺へ施入された伊賀国名張郡板蠅杣(いたばえのそま),藤原京や石山寺造営のための近江国田上(たなかみ)杣,平安京造営の杣とされた丹波国山国(やまぐに)杣,11世紀初頭に山城国寂楽寺(白川寺喜多院)造営のための近江国朽木(くつき)杣はその例である。平安時代を通じて杣は荘園化してゆくが,板蠅杣は東大寺領黒田荘,田上杣は常在光寺領田上杣荘,山国杣は修理職(すりしき)領山国荘,朽木杣は寂楽寺領朽木荘へと転化する。杣の荘園化は耕地の拡大を示すが,依然として材木が主要な生産物であることには変りなく,年貢も材木や林産物加工品が主で,荘園領主の需要に応じて臨時に大量の材木が伐採搬出された。荘園においては伐採と搬出のための荘民の組織が領主の要請によって編成され,中世後期はその組織が荘民の自治結合に転化する場合もある。
執筆者:仲村 研
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
律令国家や貴族・寺社が,造営・修理用の材木を採る目的で所有する山林。山城・大和・伊賀・近江諸国など畿内とその周辺に集中的に設定された。東大寺領伊賀国板蠅(いたばえ)杣・玉滝杣,宇治平等院領近江国子田上(こたかみ)杣,法成寺領近江国三尾(みお)杣,寂楽寺領近江国朽木(くつき)杣などが著名。杣には杣司(そまのつかさ)の下に杣工(そまく)・筏師が,集積地には木守がいた。彼らは伐採跡を焼畑とし,谷間を開墾したが,杣領有者はこうした開発耕地をも支配下におき荘園化していった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…日本では,杣(そま)と同義に用いられることがある。杣という語はもともと木を植え付けて材木をとる山そのもの,すなわち杣山(そまやま)を意味したが,後にはそこから採出した用材である杣木(そまぎ),その伐採の杣取(そまどり)・杣立(そまだて)や造材の杣造(そまづくり)から,さらに河川の運材作業の杣下(そまくだし)を含め,それらのことをひろく生業とする杣人(そまびと|そまうど)の称ともなった。…
…そのほか不猟のときに祈禱師にたのんで銃におはらいあるいは祈禱をしてもらうとか,猟に出かけるのによい日や方角を占うことも行われた。さらに山中では禁句とすべき言葉(忌言葉(いみことば))や,サル,イタチ,ネコ,ヘビなどという名称を別の言葉に言い換える習慣があって,杣(そま)人たちと類似の言葉が多かった。これらは山中あるいは山小屋で用いることをつつしんだので,それらの動物に一種の霊力を認めていた結果らしい。…
※「杣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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