室町中期の武将,歌人,歌学者。本姓は平。別称は東野州(とうやしゆう)。法号は素伝。美濃国(岐阜県)の人。代々二条派の歌人であった東家に伝わる歌学を学び,さらに頓阿の流れをくむ尭孝法印に師事して,当時の二条派歌学を集成した。1471年に連歌師宗祇に《古今和歌集》を講釈し,秘説を相伝した。いわゆる古今伝授であり,宗祇が講釈の聞書を整理したのが《古今和歌集両度聞書》である。そのほか,《新古今和歌集》の注釈が細川幽斎により加筆され《新古今和歌集新鈔》となるなど,その説は二条派の注釈書に継承された。歌学書としては,尭孝などの説を聞書した《東野州聞書》や,宗祇の質問に答えた《東野州消息》などが伝わる。歌人としては,家集に《常縁集》《東常縁詠草》があり,平明流麗な和歌が多い。〈山河や岩越す波の音しるく晴れぬ高嶺のさみだれの雲〉(《常縁集》)。
執筆者:小高 道子
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(加藤睦)
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生没年未詳。室町前期の武家歌人。通説は「1401―94年」だが、実際の没年は1484年(文明16)ごろ。享年も疑問があり不明というほかはない。法名素伝。従(じゅ)五位下下野守(しもつけのかみ)。東野州(とうやしゅう)と称せられた。益之(ますゆき)の子。美濃(みの)国郡上(ぐじょう)の領主。1449年(宝徳1)から二条派の堯孝(ぎょうこう)、冷泉(れいぜい)派の正徹(しょうてつ)に歌を学び、翌年正式に堯孝に入門。このころの歌話を書き留めたのが『東野州聞書』。のち幕府の命で東国に転戦、晩年は美濃に帰った。篤学で古典に詳しく、71年宗祇(そうぎ)に『古今集』、百人一首などを講じた。『古今集』の秘説を切紙(きりがみ)に記して伝えたが、これが古今伝授(こきんでんじゅ)の初めとして後世重視された。ただし、当時の歌壇で大物と目されてはいず、その死後、宗祇が己(おのれ)の権威づけのため宣伝して、著名になったとみられる。なお『伊勢(いせ)物語』『新古今集』や『拾遺愚草(しゅういぐそう)』などの講説も存する。家集に『東野州家集』がある。
[井上宗雄]
『井上宗雄著『中世歌壇史の研究 室町前期』(1961・風間書房)』
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1405/07~1484
室町時代の歌人。父は下野守益之。法名は素伝。東野州(とうやしゅう)とも称される。正徹(しょうてつ)にも歌を学ぶが,1450年(宝徳2)正式に二条派の尭孝(ぎょうこう)の門弟となる。55年(康正元)幕命により関東を転戦。応仁の乱では所領美濃国郡上(ぐじょう)を斎藤妙椿(みょうちん)に奪われたが,これをなげいた常縁の歌により返還がかなった。71年(文明3)宗祇(そうぎ)に「古今集」の講釈を行った。後年「拾遺愚草」の注釈を宗祇に送っている。とくに古今伝授の祖として注目されるが,当時の歌壇の指導者であったわけではない。二条派歌学の正説を伝えた歌学者としての功績が大きい。家集「常縁集」,歌学書「東野州聞書」。
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…《古今和歌集》は和歌の規範とされていたため早くからその解釈に説が分かれ,六条家や御子左家(みこひだりけ)など歌道の家々には,それぞれの解釈が秘伝として伝えられていた。室町時代に入って二条家の末流である東常縁(とうのつねより)が,東家に伝わる秘伝のほかに頓阿の流れをくむ尭孝の秘伝をあわせて,いわゆる古今伝受の原型をつくった。常縁はこれを連歌師の飯尾宗祇に相伝し,以後この系統が古今伝受の正当とみなされ尊重されてゆく。…
…上杉氏は胤直の弟胤賢の子実胤・自胤(よりたね)を助けて市川城に拠らせた。一方,千葉六党の一たる東氏は承久の乱後美濃国郡上(ぐじよう)郡山田荘を本拠としたが,京都在住の東常縁(つねより)が将軍足利義政より御教書を受けて下総に下向し,馬加城を攻め,康胤を上総八幡(市原市)に追い,翌年康胤は敗死した。一方,成氏の兵により市川城を追われた実胤は武蔵国石浜城(東京都台東区),自胤は赤塚城(東京都板橋区)に拠り,実胤が出家したため,自胤が武蔵千葉介を継承,康胤の系統に継承された下総千葉介と対立した。…
…宝治合戦(1247)には大須賀胤氏とともに一族の千葉秀胤を討滅。胤行の子孫にも歴代歌人が輩出しているが,室町時代に出た東常縁(とうのつねより)が特に有名である。子孫は近世には遠藤氏を名のり,慶隆のとき徳川氏に属し,関ヶ原の戦の勲功により美濃国郡上郡八幡城主となり,2万7000石を賜領した。…
…室町時代の歌論書。東常縁(とうのつねより)著。成立を示す奥書などはないが,記事に付された年月日から,1456年(康正2)ころ成立したと推定される。…
…中世は山田荘に含まれ,1221年(承久3)下総国千葉氏の一族東(とう)氏が新補地頭に任命され,以後1559年(永禄2)遠藤氏に滅ぼされるまで東氏の支配下にあった。東氏は代々歌道の秘伝を伝え,室町時代には東常縁(とうのつねより)が居城の篠脇(ささわき)城で宗祇に古今伝受をしている。江戸時代は村は郡上藩に属した。…
※「東常縁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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