デジタル大辞泉
「橘」の意味・読み・例文・類語
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たちばな【橘】
- [ 1 ]
- ① 生食されたミカンの古名。キシュウミカンやコウジに類する。京都御所の紫宸殿(ししんでん)の南階下の西側にある「右近(うこん)の橘(たちばな)」はこれという。《 季語・新年 》
- [初出の実例]「其の登岐士玖能(ときじくの)迦玖能(かくの)木の実は、是れ今の橘(たちはな)ぞ」(出典:古事記(712)中)
- 「たちはなの薫りし袖によそふれば」(出典:源氏物語(1001‐14頃)胡蝶)
- ② ミカン科の常緑低木。日本で唯一の野生のミカンで近畿地方以西の山地に生え、観賞用に栽植される。高さ三~四メートル。枝は密生し小さなとげがある。葉は長さ三~六センチメートルの楕円状披針形で先はとがらず縁に鋸歯(きょし)がある。葉柄の翼は狭い。初夏、枝先に白い五弁花を開く。果実は径二~三センチメートルの偏球形で一一月下旬~一二月に黄熟する。肉は苦く酸味が強いので生食できないが、台湾では調味料に用いる。やまとたちばな。にほんたちばな。《 季語・秋 》
- [初出の実例]「この橘は今も東国にあるが、蜜柑のかたちで、苦味がつようて、うまい物ではなし」(出典:随筆・胆大小心録(1808)四二)
- ③ 植物「からたちばな(唐橘)」の異名。
- ④ =はなたちばな(花橘)
- [初出の実例]「みすのうちこぼれいでたる袖ぐちども、をりに合ひたるなでしこのはな、たちはな、しゃうぶ、つつじ、かきつばたなどやうのいろを」(出典:有明の別(12C後)三)
- ⑤ 紋所の名。橘の葉と実とを組み合わせて図案化したもの。橘姓(橘諸兄)の紋にはじまるといい、久世・井伊・黒田家と日蓮宗(日蓮の出自は井伊家の分家の貫名家という)の紋となる。橘、向い橘、杏葉(ぎょうよう)橘、枝橘など種々ある。
橘@杏葉橘@向い橘@枝橘
- [初出の実例]「天目水飜も橘(タチバナ)の紋付」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)七)
- ⑥ 香木の名。分類は真那賀(まなか)。香味は苦酸。六十一種名香の一つ。
- [初出の実例]「一 橘(タチバナ)、聞上々真那賀」(出典:建部隆勝香之筆記(香道秘伝所収)(1573))
- ⑦ 薫物の名。
- [初出の実例]「玉簾の隙間漏り来る薫物は、〈略〉卯の花、たち花、雪の松」(出典:仮名草子・竹斎(1635)上)
- [ 2 ] 奈良県高市郡明日香村の地名。飛鳥川の上流左岸。橘寺(菩提寺)がある。
- [初出の実例]「橘(たちばな)の嶋宮(しまのみや)には飽かねかも佐田の岡辺に侍宿(とのゐ)しに行く」(出典:万葉集(8C後)二・一七九)
橘の語誌
( 1 )「書紀‐垂仁九〇年二月」によると、田道間守(たじまもり)を常世の国に遣わして「非時香菓(ときじくのかくのこのみ)」を求めさせたが、これが「橘」であるという。
( 2 )花について、歌では、ホトトギスと取り合わせ、その芳香を愛で、蘰(かづら)にするなど詠み、「五月待つ花たちばなの香をかげば昔の人の袖の香ぞする」〔古今‐夏〕により、懐旧の念を起こさせるものとする。実は、平安時代の物語などでは、酒肴にしたり〔伊勢物語‐六〇〕、病人食〔宇津保‐藤原の君〕や妊婦食〔篁物語〕にしている。
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普及版 字通
「橘」の読み・字形・画数・意味
橘
人名用漢字 16画
[字音] キツ
[字訓] たちばな
[説文解字]
[字形] 形声
声符は(いつ)。に譎(けつ)・(きつ)の声がある。〔説文〕六上に「橘果なり。江南に出づ」とあり、わが国の蜜柑にあたる。〔楚辞、九章、橘頌〕にその樹徳を頌しているのは、そのような賦誦の文学が、魂振り的な機能をもつものとされたからであろう。〔周礼、考工記、序官〕に「橘、淮(わい)を踰(こ)えて北するときは枳(からたち)と爲る」とあり、〔玖波集、雑三〕に「波のは伊勢の濱」というのと同じ。橘はわが国では花橘をいう。
[訓義]
1. みかん。
2. たちばな。
[古辞書の訓]
〔和名抄〕橘 太知波奈(たちばな) 〔名義抄〕橘 タチバナ
[熟語]
橘顆▶・橘花▶・橘紅▶・橘黄▶・橘子▶・橘実▶・橘酒▶・橘樹▶・橘籍▶・橘奴▶・橘皮▶・橘餠▶・橘緑▶・橘林▶
[下接語]
嘉橘・甘橘・柑橘・金橘・枸橘・香橘・黄橘・山橘・酸橘・朱橘・種橘・椒橘・丹橘・庭橘・奴橘・橙橘・蘭橘・緑橘
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橘(山口県)
たちばな
山口県南東部、大島郡にあった旧町名(橘町(ちょう))。1955年(昭和30)日良居(ひらい)村と安下庄(あげのしょう)町が合併して成立。2004年(平成16)久賀(くか)町、大島町、東和(とうわ)町と合併、周防大島町(すおうおおしまちょう)となる。旧橘町域は、瀬戸内海に浮かぶ周防大島(大島または屋代(やしろ)島ともいう)の中央部を占め、国道437号が通じる。北方海上の浮(うか)島を含む。北岸の日前(ひくま)は嘉永(かえい)年間(1848~1854)に始まった大島ミカン栽培の発祥地で、南岸の安下庄に山口県の柑橘(かんきつ)試験場もあり、県産額の4分の1を産出する県第一のミカン産地であり、名称の「橘」もこれにちなむ。安下浦は小型底引網や釣り漁業の盛んな近世からの漁村。展望に優れる嵩山(だけさん)(619メートル)は瀬戸内海国立公園の一部で、ハンググライダーの基地(橘ウインドパーク)がある。安下庄には竜崎温泉があり、またシナナシは国指定天然記念物。
[三浦 肇]
橘(神奈川県)
たちばな
神奈川県小田原市南東部の地区。旧橘町。国道1号(旧、東海道)、西湘(せいしょう)バイパスが通る。中心の前川は江戸時代には東海道の人馬継場(つぎば)をなし、大山(おおやま)街道が分岐していた。地形上は大磯(おおいそ)丘陵(淘綾(ゆるぎ)地塊)の南西部で、ここの南斜面でとれるミカンは味がよく、また相模(さがみ)湾での冬マグロの漁場として知られていた。工業団地の西湘テクノパークがある。
[浅香幸雄]
橘(徳島県)
たちばな
徳島県中東部、阿南(あなん)市の一地区。旧橘町。橘港は天然の良港で、沿岸・遠洋漁業の本拠地。
[編集部]
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橘[町]【たちばな】
山口県大島郡,大島中部の地峡部を占める旧町。中心集落は南岸の安下庄(あげのしょう)で,古くからの漁港。山地斜面ではミカン栽培が盛ん。シナナシ(天然記念物)がある。2004年10月大島郡久賀町,大島町,東和町と合併し,周防大島町となる。28.84km2。5765人(2003)。
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橘
たちばな
山口県南東部,瀬戸内海の防予諸島大島 (屋代島) にある地区。旧町名。 1955年日良居村と安下庄 (あげのしょう) 町が合体して発足。 2004年 10月,久賀町,大島町,東和町と合併し,周防大島町となる。大島中央の地峡部を占め,北は安芸灘,南は伊予灘に面し,頭島,浮島,立島を含む。古くからの漁港で,イワシ,タイ,ナマコを漁獲。山地斜面ではミカンの栽培が盛ん。安下庄のシナナシは天然記念物。嘉納山,嵩山の一帯と北方の広島湾にある浮島は瀬戸内海国立公園に属し,夏はキャンプや海水浴客でにぎわう。
橘
たちばな
徳島県東部,橘湾にのぞむ阿南市の1地区。旧町名。 1958年富岡町との合体により阿南市となる。富岡と並んで市の中心地。古くからの漁村で,イセエビ,テングサ,カマス,マグロ,カツオなどを水揚げし,ノリの養殖,水産加工も行われた。湾内は深く,新産業都市に指定 (1964年) されてからは工業地区開発を目指して火力発電所が建設さるなど,電機工場が進出している。
橘
たちばな
神奈川県南西部,小田原市の東端をなす旧町名。 1971年小田原市に編入。西湘バイパス橘インターチェンジがある。
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橘 (タチバナ)
学名:Citrus tachibana
植物。ミカン科の常緑低木,園芸植物
橘 (タチバナ)
植物。ヤブコウジ科の常緑低木,園芸植物。カラタチバナの別称
橘 (タチバナ)
植物。ミカン科の常緑小高木,園芸植物。キシュウミカンの別称
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の橘の言及
【屋代島】より
…前島,浮(うか)島,情(なさけ)島,沖家室(おきかむろ)島,笠佐島などの付属島嶼(とうしよ)を含めて山口県大島郡(面積140km2,人口2万8750。1995)を構成しており,久賀,大島,東和,橘の4町がある。 久賀町は屋代島の北岸を占め,大島郡の行政・商業の中心で,久賀浦は小型底引網,一本釣りの漁村。…
※「橘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」