出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
水神信仰,母子神信仰に基づく神社であるが,なかでも,福岡県久留米市,東京都中央区,北海道小樽市などに鎮座する神社が著名。久留米のは同市瀬下町にあり,祭神は安徳天皇,建礼門院,二位尼(平時子),天御中主神。旧県社。例祭は5月5~7日で川祭,河童祭ともいう。源平合戦で平家が敗れたのち,女官按察使伊勢局(あぜちいせのつぼね)がこの地に逃れ来り,筑後川のほとり鷺野原(さぎのはら)に安徳天皇などの霊をまつったのに始まると伝える。以後筑後川の水神として霊験あらたかで,安産の神としても著名となる。《筑後誌》によると,1650年(慶安3)に現在地に移る前は江南山海林寺の山上にあり,山下に神池があったという。もと御霊(ごりよう)系統の母子神をまつる霊場で,そこへ密教修法としての水天供(すいてんぐ)を修するならわしがあったことに基づいて成立したのであろう。水難よけと安産祈願との神徳から,久留米藩主有馬氏の崇敬も厚く,1818年(文政1)には江戸の芝赤羽の藩邸に勧請し,付近住民にもその信仰は広まった。明治維新後,藩邸の上地とともに一時赤坂に移され,72年(明治5)今の日本橋蠣殻(かきがら)町の地に移り,78年からは一般の参拝もなされる神社として公認された。祭神も例祭日も久留米の社とほぼ同じだが,安産のまじないとして戌(いぬ)の日に腹帯を頒けるのが東京の市民に広く喧伝され,その日は大いににぎわった。また毎月5日の縁日には,門前から人形町にかけての道筋は都下有数のにぎわいをみせる。河竹黙阿弥作の歌舞伎狂言《水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)》はここを背景としたもの。小樽市相生町のは1859年(安政6)の創建で,市の中央部の眺めのよい山上にあるが,主祭神弥津波能売(みづはのめ)神であるから,水神信仰に基づいているのは明らかである。
執筆者:萩原 龍夫
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福岡県久留米(くるめ)市瀬下町(せのしたまち)に鎮座。天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、安徳(あんとく)天皇、高倉平中宮(たかくらたいらのちゅうぐう)、平二位時子(ときこ)を祀(まつ)る。すなわち、万物創造の神であり、また水の根源神と信仰しての天御中主神と、1185年(元暦2)3月壇之浦に入水(じゅすい)した安徳天皇、その母高倉天皇の中宮建礼門院(けんれいもんいん)、その祖母二位尼(にいのあま)平時子(清盛妻)を祀る。壇ノ浦の戦いで敗れたあと、建礼門院に仕えていた按察使局(あぜちのつぼね)伊勢(いせ)が筑後川(ちくごがわ)鷺野原(さぎのはら)に逃れ、4柱を奉斎したのが本社の起源で、のち伊勢は剃髪(ていはつ)して名を千代と改め、里人のため加持祈祷(かじきとう)をしたことより、尼御前社(あまごぜんのやしろ)とよばれた。のち戦禍を避けて諸所に遷座、近世初頭現在の久留米市新町に遷(うつ)り、さらに1650年(慶安3)藩主有馬忠頼(ただより)により現在地に社殿造営遷座された。一般に、安産・水難・火難また子供の守護神として広く崇敬される。例祭5月5、6、7日、夏大祭8月5、6、7日。明治維新の先覚者真木和泉(まきいずみ)(保臣(やすおみ))は本社の第22代の祠官(しかん)である。東京水天宮(中央区日本橋蠣殻(かきがら)町)は、1818年(文政1)有馬頼徳(ありまよりのり)が江戸藩邸内に本社を勧請(かんじょう)したのを起源とする。
[鎌田純一]
東京都中央区日本橋蠣殻(かきがら)町に鎮座。祭神は天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、安徳(あんとく)天皇、建礼門院(けんれいもんいん)。1818年(文政1)久留米(くるめ)藩主有馬頼徳(ありまよりのり)が三田赤羽(みたあかばね)(東京都港区)の藩邸内に久留米水天宮の遙拝所(ようはいじょ)を設け、明治維新後は有馬家とともに青山に移り、1872年(明治5)現在地に移った。江戸市中の流行神、水神としての利益(りやく)のほか安産祈願の神として根強い信仰がある。例祭日は5月5日。毎月の1、5、15日は縁日にあたり参詣(さんけい)者が多い。
[岡田荘司]
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