仏の教えを信じ行うことによってえられる喜び,楽しみを意味する仏教用語。本来は釈尊が悟りの直後に,みずからの悟った法(ほう)(真理)を思い楽しんだところから起こっている。欲望を満足させる〈欲楽〉の反対語である。教えを楽しむという本来の意味から転じて,日本では神仏を喜ばせる行為,すなわち読経(どきよう),奏楽,献歌などを法楽と呼ぶようになった。すなわち法要を終わるにあたり,来臨している神仏のためにとくに声明(しようみよう)曲を唱えたり,経や真言を誦したりするもので,《錫杖(しやくじよう)》や《般若心経》などがよく用いられる。おそらく平安時代からそのように呼ばれるようになったと考えられる。また神社の社殿でとくに一座の法要を営んで法楽とすることもあり,その際に,詩歌や芸能を添えることもある。さらに意味するところが広がり,寺社で演ずる入場無料の芸能も法楽という。芸能者が神に捧げるという形を取り,それが能ならば〈法楽能〉という。当日は参詣人が自由に陪観でき,芸能の普及に役だったと考えられる。
執筆者:井ノ口 泰淳+横道 万里雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏教語で、仏の教えを修めて自ら楽しむこと、または神仏の前で読経(どきょう)、奏楽などをして神仏を楽しませることをいう。転じて、近世以降は、神仏に奉納するために行う興行物全般をいうようになり、衆生(しゅじょう)に徳を施す意味から、その奉納の興行物を無料で見せること、あるいは見せ物興行などの見物を無料にすることをいう。また、多く「放楽」の字をあてて、慰みごとや楽しみ、遊び、娯楽をいうことばともなる。
[棚橋正博]
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