中国,主として明・清時代に実施された鎖国政策にもとづく海外との通交・貿易に関する制限のこと。明の太祖は建国後まもなく1371年(洪武4),倭寇対策の一つとして,中国人が外国と交易すること,および海外に渡航することを厳禁した。〈片板も下海を許さず〉ということで,これが海禁の始まりであった。そして王朝の厳しい管理のもとで諸外国とは朝貢貿易のみが許された。しかし時代とともに禁令は緩み,一方国内産業の発達によって密貿易が盛んになった。明王朝がこれに対し海禁を再度強化した結果おこったのが,16世紀中ごろの倭寇の大侵寇であったが,結局1567年(隆慶1)明朝は海禁政策を緩和せざるをえなくなった。清朝は成立当初,南明や鄭氏の活動を抑えるため厳重な海禁政策をとったが,そうした反清活動が鎮定されると,1684年(康煕23)禁令を解いて交易を奨励した。しかし1757年(乾隆22)以後ふたたび海禁政策が強化され,貿易港を広東1港に制限し,貿易は公行(特許商人)にのみ許可することになった。こうした鎖国政策が最終的に打ち破られたのが,アヘン戦争の結果結ばれた南京条約であった。
→遷界令
執筆者:谷口 規矩雄
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海上の交通、貿易などに制限を加えること。国内治安を保ち、密貿易を取り締まり、外国との紛争を避けるのを目的とする。中国では、海禁は4世紀以来、何度か行われたが、体制的に完成したのは明(みん)初のことである。明の太祖朱元璋(しゅげんしょう)は1371年、倭寇(わこう)の防御策として通蕃(つうばん)下海の禁令を出し、貢船とその積載する貨物の交易は許すが、民間の商船には認めないことにした。この禁令は厳しく実施されたが、密貿易はやまなかった。ことに嘉靖(かせい)年間(1522~66)には、密貿易を取り締まろうとして、かえって倭寇の大侵入を引き起こし、そのため海禁を緩和せざるをえなかったほどである。清(しん)朝は南明(なんみん)や台湾鄭(てい)氏の活動を封ずるため、遷界令(せんかいれい)を実施して、沿岸の住民を内地に移住させたが、鄭氏降伏後に解除した(1684)。ついで1757年以後、貿易港を広州1港に制限したが、この体制は1842年の南京(ナンキン)条約によって最終的に放棄された。
[寺田隆信]
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中国の明清時代,庶民の海上交通や貿易活動に対する王朝の制限政策。明の洪武帝は,元末以来の倭寇(わこう)を取り締まるため,王朝による朝貢貿易を推進する一方で,中国人の海外渡航や外国との貿易,外国船の往来を禁止した。16世紀半ばには,王直(おうちょく)をはじめとする中国人の密貿易が再び活発化した。1567年に中国人の海外渡航の禁を緩めたが,清初には,鄭成功(ていせいこう)に対抗して遷界令(せんかいれい)をしき,制限を強化した。アヘン戦争後の1842年に南京条約を締結し,この政策を最終的に放棄した。
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下海通蕃之禁(かかいつうばんのきん)の略。中国・朝鮮で,一般の中国人・朝鮮人の私的な海外渡航や海上貿易を禁止した政策。とくに明・清代の政策が知られる。明の太祖洪武(こうぶ)帝は,冊封(さくほう)関係を結んだ周辺の諸国王との朝貢貿易だけに限定。1371年,国内の人民に対して海外渡航と外国人との私的交流を禁止し,倭寇(わこう)を禁圧しようとした。清は1655年以降,海禁政策をとる。日本の江戸時代の鎖国を,海禁の一種とする見解もある。
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…またこのころ東アジアの海域にはじめて姿をあらわしたポルトガル人も倭寇の同類としてあつかわれた。明では太祖以来海禁という一種の鎖国政策をとって中国人が海上で活動するのを禁じていたが,経済の発達につれこの政策の維持は困難になり,多数の海上密貿易者が発生した。彼らは郷紳(きようしん),官豪(かんごう)などとよばれた地方富豪層と結びながらさかんに密貿易を推進した。…
※「海禁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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