渡す(読み)ワタス

デジタル大辞泉 「渡す」の意味・読み・例文・類語

わた・す【渡す】

[動サ五(四)]
人や荷物を舟で向こう岸に運ぶ。「船で人を―・す」
物の上を越えて、一方から他方へ物がとどくようにする。またがらせる。かける。「橋を―・す」「綱を―・す」
こちらの手から相手の手へ移す。手渡す。「書類を―・す」「バトンを―・す」
自分の持っているもの、権利などを他の人に与える。「土地を人手に―・す」
人や物を他の場所に移す。
「明け暮れながめ侍る所に―・し奉らむ」〈若紫
通りなどを歩かせる。引きまわす。
られし人々は、大路を―・してかうべをはねられ」〈平家灌頂
馬で、川などを渡る。
「この御馬で宇治川のまっ先―・し候ふべし」〈平家・九〉
神仏の力で、迷っている人々を救う。済度する。
「人―・すことも侍らぬに」〈・東屋〉
(他の動詞の連用形に付いて)その動作が行き渡るようにする。「見―・す」「張り―・す」
[可能]わたせる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「渡す」の意味・読み・例文・類語

わた・す【渡・済】

  1. 〘 他動詞 サ行五(四) 〙
  2. [ 一 ]
    1. 馬や船など乗り物を、海や川の一方の岸から他方の岸へ行かせる。また、人や物を乗せて向こう岸へ運ぶ。
      1. [初出の実例]「宇治川を船令渡(わたせ)をと呼ばへども聞こえずあらしかぢの音もせず」(出典万葉集(8C後)七・一一三八)
      2. 「いけずきといふ世一の馬にはのったりけり、宇治河はやしといへども、一文字にざっとわたいてむかへの岸にうちあがる」(出典:平家物語(13C前)九)
    2. ( 迷いの世界をこちらの岸に、さとりの浄土を向こう岸にたとえていう ) 仏法の力で、衆生をさとりの彼岸へ行かせる。済度(さいど)する。
      1. [初出の実例]「この御足跡(みあと) 八万(やよろづ)光を 放ちいだし もろもろ救ひ 和多志(ワタシ)たまはな 救ひたまはな」(出典:仏足石歌(753頃))
      2. 「人わたすことも侍らぬに、聞きにくき事もこそいでまうでくれ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)東屋)
    3. 橋、梁(はり)、紐などを一端から他端へかける。かけ渡す。
      1. [初出の実例]「明日香川しがらみ渡之(わたシ)(せ)かませば流るる水ものどにかあらまし」(出典:万葉集(8C後)二・一九七)
      2. 「橋を八つわたせるによりてなむ八橋といひける」(出典:伊勢物語(10C前)九)
    4. 物や人を一方から他方へ送り移す。
      1. [初出の実例]「たびたびのこころみをたまはりて、もろこしにわたされぬ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
      2. 「此御時、百済国より仏経・僧尼わたせり」(出典:愚管抄(1220)一)
    5. 物を相手に授け与える。手渡す。また、ゆずる。
      1. [初出の実例]「鉢を過(ワタ)し来せ、汝に食を与へむといふ」(出典:斯道文庫本願経四分律平安初期点(810頃))
      2. 「よき賭物(のりもの)はありぬべけれど、かるがるしくはえわたすまじきを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)宿木)
    6. 人を、ある所へ移動させる。移転させる。また、ひき取る。
      1. [初出の実例]「いまは心やすかるべき所へとて率(ゐ)てわたす」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
    7. 山鉾(やまぼこ)神輿を巡行させる。
      1. [初出の実例]「山公事やただはてぬ出入 祇園会にわたす跡先あらそひて〈徳元〉」(出典:俳諧・犬子集(1633)一二)
    8. 罪人や、その首などを、見せしめのため人目にさらして送る。
      1. [初出の実例]「信西がうづまれたりしをほり出し、首を刎て大路をわたされ候にき」(出典:平家物語(13C前)二)
    9. 支配する。
      1. [初出の実例]「能く怨敵を摧き王の大地を跨(ワタシ)、海際を亘り窮めしめ」(出典:地蔵十輪経元慶七年点(883)二)
    10. 見たり言ったりする動作を相手に及ぼす。
      1. [初出の実例]「舟岡の野中に立てる女郎花わたさぬ人はあらじとぞ思ふ〈よみ人しらず〉」(出典:拾遺和歌集(1005‐07頃か)雑秋・一一〇〇)
      2. 「コトバヲ vatasu(ワタス)、または、イイワタス」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    11. 準備をととのえて、作法どおり行なう。
      1. [初出の実例]「大座敷わたし、亭主内義が入替り、けいはく数を尽し」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)三)
    12. (身を)任せる。
      1. [初出の実例]「わたしきった身じゃとぞんじまするゆへ」(出典:随筆・独寝(1724頃)上)
    13. ( 「祭をわたす」の形で用いて ) 交接する。情交する。
      1. [初出の実例]「扨、いねますと其まま祭を渡します」(出典:評判記・難波鉦(1680)二)
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。動詞の連用形に付き、「一面に…する」「端から端まで…する」の意を表わす。
    1. [初出の実例]「片淵に 網張り和(ワタシ)」(出典:日本書紀(720)神代下・歌謡)
    2. 「はじとみ四五間ばかりあげわたして」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)

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