湯起請(読み)ユギショウ

デジタル大辞泉 「湯起請」の意味・読み・例文・類語

ゆ‐ぎしょう〔‐ギシヤウ〕【湯起請】

室町時代、罪の有無をただすために、起請文を書かせたうえで熱湯に手を入れさせて、やけどすれば有罪とするもの。また、その起請文。古代探湯くかたちのなごり。

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精選版 日本国語大辞典 「湯起請」の意味・読み・例文・類語

ゆ‐ぎしょう‥ギシャウ【湯起請】

  1. 〘 名詞 〙 中世に行なわれた裁判一つ自身無罪主張する起請文を書かせた上で、熱湯の中の石を拾わせる。手がやけどすれば有罪で、無事であれば無罪とするもの。また、その起請文。古代の探湯(くかたち)遺風である。湯請文。湯誓文。
    1. [初出の実例]「湯起請事、〈略〉宿老共可有沙汰」(出典:教言卿記‐応永一三年(1406)七月一四日)

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改訂新版 世界大百科事典 「湯起請」の意味・わかりやすい解説

湯起請 (ゆぎしょう)

神判の一つ。古代の盟神探湯(くかたち)と同様に,煮えたぎった熱湯の中から小石を拾い出し,その後,手の火傷の状態などで主張の真偽を判定する裁判方法。犯罪の嫌疑をかけられた者や,村落間の境界争いで決着がつかないときに,村落の代表者同士が行う。その方法は,みずからの主張を起請文に書いて誓約し,その後,沸騰した湯の中から小石を拾い出す。拾い出した石はかたわらにしつらえられた棚の上にのせるのを通例としたが,石の取りおとし,棚からの取りおとしなどをしたときは〈失(しつ)あり〉と認定され,主張が偽りであるとされた。また,湯起請当日の他行,不参も〈失〉とされた。これらはいわば〈当座の失〉であるが,さらにそのときには決着がつかず,湯起請のあと2,3日間神社等に参籠させた後,手の火傷の状態を検知して,〈失〉の有無を判定する場合もあった。境相論について,1439年(永享11)の室町幕府の意見状では,〈湯起請の失の浅深は,牓示姧曲の多少による〉とあり,境界についての主張の当否が〈失〉にあらわれると認識されていた。したがって,もし双方に〈失〉のない場合には,相論地は中分とすることになっていた。湯起請は史料の上では15世紀,室町時代中ごろのものが最も多いが,おそらく在地の慣行ではもっと古くから行われていたものであろう。

 ところで,戦国時代末から江戸時代初頭にかけては,理非相半ばして決着をつけがたいような境相論に際しては,鉄火(火起請)もしばしば行われた。これは掌に牛玉宝印(ごおうほういん)を広げ,その上に灼熱した鉄棒,鉄片を受け,湯起請と同じように,かたわらの棚の上に置くものである。江戸時代初頭の鉄火の例では,敗北した側は権力から引廻しや斬罪などの重罰を課されている。1619年(元和5)に会津で行われた鉄火はその例で,敗れた者の死体を埋めて頭塚を築き,それを末代までの境としたという。一方,村落の代表として鉄火を取る者に対しては,村落側から子孫にいたるまでの保護が約束されるのが通例である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「湯起請」の意味・わかりやすい解説

湯起請
ゆぎしょう

室町時代に行われた神判の一種上代の盟神探湯(くかたち)が復活したもの。神前で湯を沸騰させた釜(かま)の中に石を置き、訴訟の当事者または被疑者をしてこれを探り取り出させる(探湯)。探湯の翌々日に手が損傷しているか否かを役人が検知し、手のただれた者の主張を偽りと神が証言したとみなし、民事ならばその者の敗訴とし、刑事ならば被疑者を有罪とする。民事の場合、両当事者の手がただれていれば、論所論物は幕府に没収され、両当事者の手がともにただれていない場合には、論所論物は当事者の間で中分された。

[石井良助]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「湯起請」の解説

湯起請
ゆぎしょう

おもに中世に行われた,宣誓をともなう神判の一形態。主張の真偽を判断しがたい場合や,犯人の特定が困難な場合に,神仏に判断を仰ぐもの。それぞれの主張を起請文に記し,偽りのないことを神仏に誓ってから,煮えたぎる熱湯の中に手を入れ石をとりだし,かたわらの棚にのせる。これができなかったり,手に火傷をおった場合は湯起請失(しつ)とされ,有罪,あるいは主張が偽りであると判定された。形式は古代の盟神探湯(くかたち)に連なる。中世後期には焼けた鉄棒を用いる火起請(鉄火(てっか))も行われた。近代にも,鍛冶屋の祭神に宣誓するなどの神判を伝える地方があった。

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百科事典マイペディア 「湯起請」の意味・わかりやすい解説

湯起請【ゆぎしょう】

古代に行われた盟神探湯(くかたち)の系譜をひく,中世の神判制の一種。たとえばある事件の被疑者に起請文を書かせ,神前で熱湯中の石を拾わせ,手のただれた場合にその者を犯人と断定するといった方法で,自白を強制するための威嚇手段としての効力もあったといわれる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「湯起請」の意味・わかりやすい解説

湯起請
ゆぎしょう

中世に行われた盟神探湯 (くがたち,くかたち) 同様の神判法。室町時代になると訴訟上の立証方法として認められた。原告,被告に起請文を書かせたうえで,熱湯中の石を取らせ,3日または7日の間神社などにこもらせ,やけどの有無で正否を決した。有罪とされるべき反応を「湯起請失 (ゆぎしょうしつ) 」という。

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世界大百科事典(旧版)内の湯起請の言及

【起請文】より

…中世には,誓約をとりかわす場合,起請文・誓紙が書かれる場合と,ほぼ同じ文言を言葉で述べる誓言が行われる場合とがあり,個人的な誓いから大名どうしの和睦,さらには共同体の掟の決定まで,しばしば誓紙・誓言がとり行われ,さらに,この誓紙・誓言が訴訟の場で用いられることも多かった。参籠起請,落書(らくしよ)起請,湯起請,鉄火起請などがそれで,落書は,犯人不明の犯罪のとき,無記名投票で犯人を探す方法で,湯起請,鉄火起請は熱湯の中の石や焼けた鉄棒を握らせるもので,犯罪や境相論で当事者の主張が相反したときに行われる。いずれも,手続の最初の段階でまず起請文を書かせられ,しかる後に参籠したり,落書をしたり,鉄火をつかむなどのことが行われた。…

【境相論】より

…このように,村落間で境相論の決着をつけるようになると,自力救済的な武力行使と併行して,相論の裁決を神意にゆだねる方式が増加してくる。いわゆる湯起請である。《看聞日記》によると,伏見宮領近江国山前荘と隣荘観音寺との間の山論で,1436年(永享8)3月に湯起請が行われている。…

【神判】より

呪術神託【杉本 良男】
[日本]
 日本においては,先に中田薫が整理した8種のうち,火,神水,沸油,抽籤の4種によく似た方法が古代から近世初頭にかけて行われている。例えば火神判は鉄火(灼熱した鉄棒を握らせる),神水神判は神水起請(しんすいきしよう),沸油神判は盟神探湯(くかたち),湯起請(熱湯の中の石をとらせる)が類似のものであり,また抽籤神判にあたる鬮(くじ)とりもしばしば行われた。日本で行われた神判としては,このほか,参籠起請(2日,3日または7日,14日などあらかじめ決められた日数を社頭に参籠させる),村起請(多数の村人をいっせいに参籠させることか),落書(らくしよ)起請(無記名の落書で犯罪者を投票させる)などをあげることができる。…

【湯立】より

…神前で湯気をたちこめさせることは,巫女などを神がかりの状態にさせ,託宣(たくせん)をうかがうためのものであった。古代の盟神探湯(くかたち)も神意を問うためのものであり,のち,これを湯起請(ゆぎしよう)といった。中世ではこれが見物の対象となっていたことが,《康富記》宝徳3年(1451)9月29日条の粟田口神明の湯立の記事からうかがうことができる。…

※「湯起請」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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