民事訴訟において,口頭弁論に先だって,自己の弁論の内容を相手方に予告する書面。迅速にして遺漏のない弁論を尽くし合うためには,陳述が相手方にとって不意打ちとなるようであってはならない。そこで,当事者は口頭弁論で陳述する内容を記載した準備書面をあらかじめ相手方と交換して,予告された弁論への応答の準備をしなければならない(民事訴訟法161条)。ただし,簡易裁判所の手続では,原則として準備書面の交換は必要でない(276条)。準備書面は,相手方が応答の準備をなすのに必要な期間をおいて(民事訴訟規則79条1項),裁判所に提出するとともに,相手方に直送しなければならない(83条1項)。特定の事項に関する主張を記載した準備書面について,裁判長はその提出期間を定めることができる(民事訴訟法162条)。準備書面の直送を受けた相手方は,当該準備書面を受領した旨を記載した文書(受領書)を相手方(直送した側)に直送するとともに,裁判所にも提出しなければならない(民事訴訟規則83条2項)。準備書面の記載事項は法定されている(民事訴訟法161条2項)が,そのおもなものは,自己の攻撃防御方法および相手方の攻撃防御方法に対する応答内容である。準備書面に事実についての主張を記載する場合には,できる限り,請求を理由づける事実(請求原因事実),抗弁事実,または,再抗弁事実についての主張と,これらに関連する事実についての主張とを区別して記載するとともに,立証を要する事由ごとに証拠を記載しなければならない(民事訴訟規則79条2項,4項。また80条,81条も参照)。準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には,その理由を記載しなければならない(79条3項)。準備書面の中で他の文書を引用した当事者は,裁判所または相手方の求めがあるときには,その文書の写しを相手方に直送するとともに裁判所に提出しなければならない(82条)。準備書面を提出しても,その内容を口頭弁論で陳述しなければ,裁判所は記載事項を判決の基礎とすることができない(弁論主義)。ただし,最初の口頭弁論期日および簡易裁判所の手続においては,準備書面を提出しておけば,その記載事項を陳述したものとして取り扱われる(民事訴訟法158条,170条,277条)。
準備書面を提出せず,または記載しなかった事実がある場合,それらの事実は,相手方が在廷しないときには口頭弁論で主張することができない(161条3項)。それは,欠席した相手方が予告されていない主張に対する応答の機会を与えられていないといえるのに,欠席ゆえにこれを自白したものとみなされ(159条3項),結審されることになっては不公平となるからである。なお,この意味で準備書面を提出したといえるためには,相手方からその準備書面に対する受領書が提出されていなければならない。相手方が出頭していれば,準備書面に記載していない事項も主張しうるが,予告しなかったために相手方の応答準備のために期日が続行された場合には,当事者は勝訴しても,これにかかった訴訟費用を負担させられることがある(63条)。
執筆者:太田 勝造
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民事訴訟においては、「口頭弁論は、書面で準備しなければならない」(民事訴訟法161条)とされている。つまり、訴訟の当事者が次の口頭弁論で陳述しようとする事項を、あらかじめ記載して裁判所へ提出し、また相手方に送達しておく書面を準備書面という(民事訴訟規則79条)。当事者が口頭弁論の日に突然新しい内容の複雑な攻撃防御方法を提出すると、相手方がこれに対して即応できない場合があるし、裁判所もどのように訴訟を進行すべきか判断しがたい場合がある。そのために、さらに期日を重ねる必要が出てくると、それだけ訴訟の解決が遅れることになる。そこで、当事者がこれから提出しようとする攻撃防御方法を書面に記載して、お互いに交換し、また裁判所にも知らせておけば、訴訟は能率よく行われるはずである。そのために作成される書面が準備書面であり、とくに被告・被上訴人が提出する準備書面を答弁書(同規則80条)という。
[内田武吉]
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