中国,後漢の社会批判の書。10巻36編。王符(2世紀中ごろ)の著で,桓帝のときに成立。王符は,張衡(ちようこう)や馬融らと親交をもったが,門閥勢力の盛行した当時の官界に合わなかった。皇甫規のように彼の節操を慕う高官もあったが,昇進の機会のないまま隠退。発憤して著述に専念,社会の積弊を暴露して時政を攻撃した。《潜夫論》の〈潜夫〉とは世に埋れて名をなさない者の意で,もとより王符の姿勢を表す。内容は,学識を積んだ賢能の任用を説く能力主義や民生安定のための重農思想を主張し,とくに西北辺境の国防策と富貴の奢侈に警告し,さらに迷信の打破を強調して,当時の貴族主義的風潮に強く対抗した。後漢の社会を知るうえで重要な文献の一つである。
執筆者:戸川 芳郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国、後漢(ごかん)末の儒者王符(生没年不詳)の著書。10巻36篇(へん)。王符は安定郡臨涇(りんけい)(甘粛(かんしゅく)省)の人。卑しめられる妾腹(しょうふく)の子として生まれ、この出生とも絡み、世俗になじまず、終生、仕官することはなかった。学者馬融(ばゆう)、張衡(ちょうこう)らと往来した。世俗、政界の醜悪なさまに憤り、隠居して書を著した。名を顕彰することをいとい、書名を「潜夫論」とした。その内容は主として治政にかかわるもので、治乱、禍福の本源を洞察できぬ世俗政界に批判を展開した。国の基本は民であるという孟子(もうし)の民本思想を踏まえて、天道・天命思想は道家(どうか)や荀子(じゅんし)の学説を継承発展させている。『後漢書(ごかんじょ)』は、王充(おうじゅう)、王符、仲長統(ちゅうちょうとう)を列伝第39にまとめている。三者に共通する思想を認めていたのであろう。
[大久保隆郎]
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