翻訳|life form
生活様式を反映した生物の外形の類型。生育地の条件など環境条件に密接に関係のある形態についていうもので,個体の概形だけでなく,特定部分の形態を類型化していうこともある。
生物の系統関係が問題にならなかった時代には,多様な生物を類型化する際に生活形に相当するものが重視された。すでにギリシア時代に,アリストテレスは動物を血液の有無,足の数などによって類型化したし,テオフラストスは植物を高木,灌木,亜灌木,草本などに類型化した。近代的な植物の生活形の類型化はA.vonフンボルトに始まり,C.ラウンケル(1905)によって確立されたといわれるが,この類型化については,現在でも批判がないわけではない。
ラウンケルの生活形の類型化は,植物の生活の維持が困難になる冬や乾季などに,地上部がどのような形態をとるかによっている。多年生植物については,地上部が残るか残らないかを,越冬芽(耐乾芽など,植物の生活にとって不適当な条件を切り抜けるための抵抗芽一般を含む)が地表面からどれくらいの高さにあるかによって区別する。ラウンケルの生活形を整理すると,まず,地上植物(芽が地表より30cm以上高いもの),地表植物(芽の位置が地表30cmより低いもの),半地中植物(芽が地表にあるもの),地中植物(芽が地中にあるもの),夏緑性一年生植物(不適な時期を種子で過ごすもの)の区分ができ,さらに地上植物は,芽の位置が地表から30m以上の高さのもの(巨大地上植物),8~30mの高さのもの(大型地上植物),2~8mの高さのもの(小型地上植物),0.3~2mの高さのもの(矮小(わいしよう)地上植物)や,多肉植物,着生植物などに,地中植物は土中植物,水生植物などが区別されている。ラウンケルはこの類型化をもとにして,世界のさまざまの地域に生育する植物各1000種を無作為に選び出し,類型化された生活形がそれぞれどのような割合で分布しているかをパーセントで示した生活形標準表normal spectrum of life formを作成した。ある地域の植物相における各生活形の百分比を生活形標準表と比較すると,その地域の環境条件を推定することができ,植物地理学で活用される。ラウンケルの生活形の類型化はよく引用されているが,高等植物だけを対象にしているために,植物界全体を見渡すと不完全な部分がある。そこで,ブローン・ブランケJ.Braun-Blanquetらは隠花植物を含めた修正意見を出している。
動物の場合,生活形による類型化は系統分類とほぼ一致するため,実際上用いられない。
生物の生活様式そのものを類型化したものを生活型(せいかつがた)といい,しばしば生活形と混同されることがある。植物の場合,陽生植物,陰生植物とか,高山生,好石灰岩生などの生育の様式で示すことがある。
生活形は生物の生活様式を反映している形態であるので生物の系統には無関係で,むしろ平行進化のよい例になる場合が多い。しかし,一方では,植物の生態を記録するにはおおざっぱに過ぎて,一応の規準とはなってもあまり活用されることはない。むしろ,局地的にもっと詳細な記述が与えられるのが現状である。
植物の樹形などは,個々の種が成立する過程で定まってきた系統的な意味をもつことが多いが,それぞれの種が適応している環境によって決まることも多い。同じ環境にはよく似た生活形をもつ種が多く生育することになるので,それらの植物が集まってつくる景観は環境によってよく似てくる。植物群落が描き出す景観を相観というが,各地を旅行して見る景観の違いは,相観をつくる種の構成の違いによるものであり,環境によってよく似た生活形の異同によるものでもある。熱帯降雨林のように特徴的な例をあげるまでもなく,山地にみる森林,低地の雑木林や草原,海岸や火山などの特殊な植生など,それぞれの環境に対応した生活形の種が集まって作っている相観である。
ラウンケルの分類にみるように,植物の生活形は,植物の生活に不適な時期にどのような耐え方をするかによって特徴づけられている。これは,植物の生活が気候と密接に関係している事実によるものであり,実際,植物群落は気候によって区分されている。日本のように温暖多湿な気候のところでは生育している植物の生活形も多様になり,地上植物が優先した安定した極相の植生がつくられる。
執筆者:岩槻 邦男
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…単なる景観ではなく,植物群落の形・構造を反映したもの。主として植物群落の優占種の生活形によって決められ,植物群落の分類にも用いられる。19世紀初頭,植物地理学者のA.vonフンボルトにより最初に提唱され,そこでは,ヤシ形,バナナ形,サボテン形などの19の植生を特徴づける生活形区分が行われ,それによって特徴づけられる植生が群系formationと呼ばれた。…
…コペンハーゲン大学教授。1907年に休眠芽の位置に基づいて植物の生活形を分類する方法を創始し,この分類法が今日まで広く用いられている。植物が寒季あるいは乾季を過ごすさいに休眠芽が地表にたいして占める位置を基準にして,植物を地中・地上・地下植物などに分類するというものである。…
※「生活形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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