生活形(読み)セイカツケイ(その他表記)life form

翻訳|life form

デジタル大辞泉 「生活形」の意味・読み・例文・類語

せいかつ‐けい〔セイクワツ‐〕【生活形】

生物、特に植物環境に適応して現す形態・性質の類型休眠芽位置により挺空ていくう植物・地表植物地中植物などに分けるもののほか、種々の分類がある。

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精選版 日本国語大辞典 「生活形」の意味・読み・例文・類語

せいかつ‐けいセイクヮツ‥【生活形・生活型】

  1. 〘 名詞 〙 生物が環境条件に応じてとった生活の仕方を、形態ないし構造上の特性によってとらえ、類型化したもの。始めは植物について行なわれ、主に茎、葉、根などの栄養器官が手がかりになった。アリストテレスによる高木低木、草本の類型が最も古いシステムといわれる。現在では、主に植物の気候に対する適応を類型化する方法として用いられる。特にデンマークラウンケルの冬芽の地表面からの位置によって類型化した分類が有名。たとえば、越年する芽が地中にあるものを地中植物、地表に密接しているものを地表植物とするなど。

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改訂新版 世界大百科事典 「生活形」の意味・わかりやすい解説

生活形 (せいかつけい)
life form

生活様式を反映した生物の外形の類型。生育地の条件など環境条件に密接に関係のある形態についていうもので,個体概形だけでなく,特定部分の形態を類型化していうこともある。

 生物の系統関係が問題にならなかった時代には,多様な生物を類型化する際に生活形に相当するものが重視された。すでにギリシア時代に,アリストテレスは動物を血液の有無,足の数などによって類型化したし,テオフラストスは植物を高木,灌木亜灌木,草本などに類型化した。近代的な植物の生活形の類型化はA.vonフンボルトに始まり,C.ラウンケル(1905)によって確立されたといわれるが,この類型化については,現在でも批判がないわけではない。

 ラウンケルの生活形の類型化は,植物の生活の維持が困難になる冬や乾季などに,地上部がどのような形態をとるかによっている。多年生植物については,地上部が残るか残らないかを,越冬芽(耐乾芽など,植物の生活にとって不適当な条件を切り抜けるための抵抗芽一般を含む)が地表面からどれくらいの高さにあるかによって区別する。ラウンケルの生活形を整理すると,まず,地上植物(芽が地表より30cm以上高いもの),地表植物(芽の位置が地表30cmより低いもの),半地中植物(芽が地表にあるもの),地中植物(芽が地中にあるもの),夏緑性一年生植物(不適な時期を種子で過ごすもの)の区分ができ,さらに地上植物は,芽の位置が地表から30m以上の高さのもの(巨大地上植物),8~30mの高さのもの(大型地上植物),2~8mの高さのもの(小型地上植物),0.3~2mの高さのもの(矮小(わいしよう)地上植物)や,多肉植物,着生植物などに,地中植物は土中植物,水生植物などが区別されている。ラウンケルはこの類型化をもとにして,世界のさまざまの地域に生育する植物各1000種を無作為に選び出し,類型化された生活形がそれぞれどのような割合で分布しているかをパーセントで示した生活形標準表normal spectrum of life formを作成した。ある地域の植物相における各生活形の百分比を生活形標準表と比較すると,その地域の環境条件を推定することができ,植物地理学で活用される。ラウンケルの生活形の類型化はよく引用されているが,高等植物だけを対象にしているために,植物界全体を見渡すと不完全な部分がある。そこで,ブローン・ブランケJ.Braun-Blanquetらは隠花植物を含めた修正意見を出している。

 動物の場合,生活形による類型化は系統分類とほぼ一致するため,実際上用いられない。

 生物の生活様式そのものを類型化したものを生活型(せいかつがた)といい,しばしば生活形と混同されることがある。植物の場合,陽生植物,陰生植物とか,高山生,好石灰岩生などの生育の様式で示すことがある。

 生活形は生物の生活様式を反映している形態であるので生物の系統には無関係で,むしろ平行進化のよい例になる場合が多い。しかし,一方では,植物の生態を記録するにはおおざっぱに過ぎて,一応の規準とはなってもあまり活用されることはない。むしろ,局地的にもっと詳細な記述が与えられるのが現状である。

 植物の樹形などは,個々の種が成立する過程で定まってきた系統的な意味をもつことが多いが,それぞれの種が適応している環境によって決まることも多い。同じ環境にはよく似た生活形をもつ種が多く生育することになるので,それらの植物が集まってつくる景観は環境によってよく似てくる。植物群落が描き出す景観を相観というが,各地を旅行して見る景観の違いは,相観をつくる種の構成の違いによるものであり,環境によってよく似た生活形の異同によるものでもある。熱帯降雨林のように特徴的な例をあげるまでもなく,山地にみる森林,低地の雑木林や草原,海岸や火山などの特殊な植生など,それぞれの環境に対応した生活形の種が集まって作っている相観である。

 ラウンケルの分類にみるように,植物の生活形は,植物の生活に不適な時期にどのような耐え方をするかによって特徴づけられている。これは,植物の生活が気候と密接に関係している事実によるものであり,実際,植物群落は気候によって区分されている。日本のように温暖多湿な気候のところでは生育している植物の生活形も多様になり,地上植物が優先した安定した極相の植生がつくられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「生活形」の意味・わかりやすい解説

生活形
せいかつけい
life-form

生物の生活様式に適応した形態上の型。適応型ともいう。葉や茎の形態や葉をつける時期などの観点から分類される。たとえば,葉や茎の形態から分類された,針葉樹や広葉樹,多肉植物つる植物,葉をつける時期から分類された,常緑樹落葉樹などがある。デンマークの植物学者クリステン・ラウンケルが,冬季や乾季にできる冬眠芽の位置で分類した「ラウンケルの生活形」もよく知られている。ラウンケルの生活形では,地上植物,地表植物,半地中植物,地中植物,一年生植物,水生植物に分類される。分類上類縁関係の近いものほど似た形態をもつことが多いが,異なる種類の生物でも環境に適応し,似た形質をとることがある。また,地質時代の古生物では同じ種族の生物が異なる生活形に分かれていく例もある。進化の24則では「放散の法則」がこれにあたる。生活形は,生物の生活様式による類型をいう生活型(せいかつがた)life-typeとは区別して用いられる。

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百科事典マイペディア 「生活形」の意味・わかりやすい解説

生活形【せいかつけい】

生物,特に植物の生活様式を反映した生物の形態を類型的に分類したもの。テオフラストスが植物を高木低木,亜低木,草本に分けたのは古典的な例。現在,最も広く使われている生活形はラウンケルによるもので,これは生活の困難な時期(寒期,乾燥期)に耐える抵抗芽(冬芽など)の地表からの高さを基準にしており,地上植物(芽が地表から30cm以上にある),地表植物(地表から30cm以下のところ),半地中植物(地表),地中植物(地中),不良時を種子の形で過ごすもの(一年草)などが区別される。

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世界大百科事典(旧版)内の生活形の言及

【相観】より

…単なる景観ではなく,植物群落の形・構造を反映したもの。主として植物群落の優占種の生活形によって決められ,植物群落の分類にも用いられる。19世紀初頭,植物地理学者のA.vonフンボルトにより最初に提唱され,そこでは,ヤシ形,バナナ形,サボテン形などの19の植生を特徴づける生活形区分が行われ,それによって特徴づけられる植生が群系formationと呼ばれた。…

【ラウンケル】より

…コペンハーゲン大学教授。1907年に休眠芽の位置に基づいて植物の生活形を分類する方法を創始し,この分類法が今日まで広く用いられている。植物が寒季あるいは乾季を過ごすさいに休眠芽が地表にたいして占める位置を基準にして,植物を地中・地上・地下植物などに分類するというものである。…

※「生活形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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