律令(りつりょう)国家において班田制施行に伴って作成された地図。班田収授を行うに際して土地所有状況を調査した結果を示した校田図と、校田の結果に基づき班田収授の結果を示した班田図とがある。田図は校班田の結果を記しただけではなく、荒廃田の存在や開墾の状況、さらには寺社田の別とその存在についてもいちいちこれを登記し、公租公課の基礎台帳の一つとされていた。田図は作成されると、その一つは中央に送進、民部省に保管され(省図)、一つは国郡にとどめられた(国郡図)。校班田の際、作成されるものに田図のほかに田籍がある。田籍とは受給戸主の姓名と町段歩を列記し、田主権を明示した土地台帳である。820年(弘仁11)12月26日に、「応(マサ)ニ田図ヲ留(トド)メ田籍ヲ除クコト」という官符が出て、田図のほうは以後も作成を続けるが、田籍のほうは作成を止め、これを除くということになった。もっとも、田籍はみな除いたわけではなく、「天平(てんぴょう)十四年、勝宝(しょうほう)七歳、宝亀(ほうき)四年、延暦(えんりゃく)五年四度、図籍皆証験トナス」ということで、742年(天平14)以下、計四度の田籍は田図ともども「証年」ということでとどめられた(四証図(ししょうず))。
10世紀に入ると、班田実施が困難となり、したがって校班田も作成されなくなるが、田図制度そのものはいっそう強化された。この強化された田図制度のねらいは、不輸の範囲をすでに登記してある田地に固定しようとするものであり、たとえ太政官(だいじょうかん)と民部省の免判を受けた官省符荘(しょう)にあっても、その荘園領主は、その荘園所在の国司に対し、荘田の坪付と面積とを列挙して、その荘田の免除を申請し、これを受けた国司はそれを調査したうえで免除の判断する手続(免除領田制)を必要とした。この免除領田制の基となったのが田図で、これに用いられた田図は、10世紀初期に新しく作成された(基準国図)という説と、最後の班田図がそれであるという説がある。免除領田の認定の実際にあたったのは国司で、彼らは、田図に固定された不輸田の範囲を恣意(しい)的に拡大する動きを示した。
[奥野中彦]
『坂本賞三著『日本王朝国家体制論』(1972・東京大学出版会)』▽『荘園研究会編『荘園絵図の基礎的研究』(1973・三一書房)』▽『竹内理三編『荘園絵図研究』(1982・東京堂出版)』
日本古代の班田収授による班田の結果を図示した班田図の略称。条里制の坪ごとに土地の状態や種別,所有関係などを記入したもので,条ごとに一巻をなしていた。6年に1度の班年ごとに作成されるのが原則で,班田に先だって作成された田籍とともに永久保存されるのが令の定めであった。田図・田籍をあわせて単に図籍ともいい,律令国家の土地制度の根本台帳であった。786年(延暦5)から791年のころ,天平14年(742),天平勝宝7歳(755),宝亀4年(773),延暦5年(786)を四証年とし,その年度の図籍をとくに重視する旨の格が出され,これ以後この4ヵ年の田図は〈四証図〉と呼ばれた。班田制の衰退にともない,田籍ははやくその役割を失っていったが,田図は土地所有の根拠を示す証験として引きつづき重視され,10世紀以降は国図と呼ばれて公領・私領の争いに重要な役割を果たした。今日,田図の遺品としては,鎌倉時代の写本であるが,《京北(けいほく)班田図》や,12世紀初頭の写本とされる828年(天長5)の《山城国葛野郡班田図》がある。なお,班田図のほか,荘園の開田図(墾田地図)や絵図も広く田図に含めて呼ぶ場合もあり,正倉院には多数の〈東大寺開田図〉が収められている。
執筆者:原 秀三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…19世紀(明治前期)以前の日本での普通の地図に対する呼称。そもそもは条里制施行時代,農地の状態を表した図に〈田図〉〈文図〉があったが,条里名称などを注記した方格のみの〈田図〉を〈白図〉と呼び,方格のほか山川,湖海,道路,家屋など地形・地物を記入した〈田図〉を,〈白図〉と区別して〈絵図〉と呼んだようである。〈文図〉は条里座標に基づく農地の位置および面積などを記載した一覧表を指したものと考えられる。…
※「田図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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