民部省(読み)ミンブショウ

デジタル大辞泉 「民部省」の意味・読み・例文・類語

みんぶ‐しょう〔‐シヤウ〕【民部省】

律令制で、太政官だいじょうかん八省の一。諸国の戸口・戸籍・山川・道路・租税・賦役などに関する事務をつかさどった。たみのつかさ。
明治2年(1869)に設置された中央官庁の一。土木・駅逓・鉱山・通商など民政関係の事務を取り扱った。同4年廃止、大蔵省に吸収。

たみ‐の‐つかさ【民省】

みんぶしょう(民部省)

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精選版 日本国語大辞典 「民部省」の意味・読み・例文・類語

みんぶ‐しょう‥シャウ【民部省】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 令制の八省の一つ。国家財政の計画を立て、その運用を考え、諸国の戸口戸籍・租庸調・田畑・山林・道路・橋・河川などに関することをつかさどり、主計寮主税寮を管轄する官司。官人は、長官である卿(正四位下相当)以下、大・少輔、大・少丞、大・少録、史生一〇人、省掌二人、使部六〇人、直丁四人が置かれた。天武朝には民官と称したが、大宝令制定によって、太政官被官の一省として確立された。たみのつかさ。〔令義解(718)〕
    1. [初出の実例]「火出で来て西北に至る。はてには、朱雀門・大極殿・大学寮・民部省などまで移りて」(出典:方丈記(1212))
  3. 明治二年(一八六九)七月、戸籍、租税、鉱山、水利養老などに関する事務を行なうため設置された中央官庁。卿、大・少輔、大・少丞、大・少録、史生などの職員が置かれたが、同四年廃止され、事務を大蔵省に併合した。

たみ‐の‐つかさ【民部省】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 令制の八省の一つ。戸籍・租税・賦役・田地などをつかさどる官司。卿一人(正四位下)・大少輔各一人(正従五位下)・大丞一人(正六位下)・少丞一二人(従六位上)・大録一人(正七位上)・少録三人(正八位上)などの官人がおり、また被官に、主計・主税の二寮がある。みんぶしょう。〔二十巻本和名抄(934頃)〕
  3. の長官。民部卿。〔八雲御抄(1242頃)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「民部省」の意味・わかりやすい解説

民部省 (みんぶしょう)

(1)古代律令制下の官司機構の八省の一つで,太政官の左弁官局に属した。天武朝(672-686)や飛鳥浄御原令制下では民官と称した。〈かきのつかさ〉(《釈日本紀》),〈たみのつかさ〉(《和名抄》)の訓をもつ。唐名は戸部。主計寮(しゆけいりよう),主税寮(しゆぜいりよう)の2寮を管し,諸国の戸籍,賦役,田地,山川,道路などの民政,特に財政を主掌した。その職員は,令制では卿(正四位下),大輔(正五位下),少輔(従五位下),大丞(正六位下)各1人,少丞(従六位上)2人,大録(正七位上)1人,少録(正八位上)3人の四等官と史生(10人),省掌(2人),使部(60人),直丁(4人)とからなるが,最も繁忙な官司の一つで,713年(和銅6)には史生が16人に,790年(延暦9)には大丞が2人に増員され,さらに841年(承和8)には扶省掌2人が新置された。《延喜式》では史生はさらに20人に増員されているが,逆に使部は30人と半減している。
執筆者:(2)明治初年に殖産興業,地方行政などを所管した中央官庁。1869年(明治2)7月8日の官制改革により民部官を廃止して設置され,戸籍,租税,駅逓,鉱山,済貧,養老などをつかさどるものとされ,民部官と同じく府県事務を所管した。長官の卿には松平慶永(よしなが),次官の大輔には広沢真臣がなったが,7月22日には広沢に代わって大蔵大輔大隈重信が民部大輔を兼任した。8月11日には卿の松平慶永が大蔵卿を兼任(まもなく退任し伊達宗城に代わる),民部・大蔵両省の合併が行われた。そのため大輔大隈重信,少輔伊藤博文,大丞井上馨ら〈洋化派〉に政府の財政と民政が掌握されたことになり,その強大な権限に対する批判がおこった。これが民蔵分離問題で,結局翌70年7月10日分離され,民部省は土木,駅逓,鉱山,鉄道などもっぱら殖産興業の担当官庁となり,閏10月10日工部省設置にともない,土木,駅逓,勧農などを担当することになった。1871年7月27日廃止,その事務は大蔵・工部2省に分属した。
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百科事典マイペディア 「民部省」の意味・わかりやすい解説

民部省【みんぶしょう】

(1)律令制下の八省(はっしょう)の一つ。地方行政・財政を担当。主計(しゅけい)寮主税(しゅぜい)寮を管轄。7世紀後半には民官(みんかん)と称し,大宝(たいほう)律令で民部省と改称。長官の卿(きょう),次官の大輔(たいふ)・少輔(しょう)らは要職とされた。(2)明治初年の官庁。1869年設置。戸籍・租税・駅逓(えきてい)・土木などを管轄。同年大蔵省と合併。1870年再び分離。1871年廃止,その事務は大蔵省・工部省に分属。
→関連項目民部省札民部省符

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「民部省」の解説

民部省
みんぶしょう

1大宝・養老令制の官司。八省の一つ。主計・主税寮を被管にもち,戸籍・計帳により諸国の人民を,田図・田籍により田地などの土地を把握し,これにもとづき国家財政を担った。主計寮とともに,計帳により把握された毎年の課口数にもとづき,諸国からの貢納物納入への立会いや調庸帳などの帳簿による監査を行い,主税寮とともに,正税帳や租帳などを通じて田租や正税などの諸国の財政を掌握した。諸国からの貢納物や帳簿の進上に問題がなければ返抄(受領証)を発行した。ほかにも諸国から庸として納入される米・塩を保管し,仕丁(しちょう)や衛士(えじ)の資養にあて,中央での労役を差配した。

2明治初年の国内の民政を担当した中央行政官庁。1869年(明治2)4月に設置した民部官を,同年7月職員令の制定により民部省と改称。府県事務・戸籍・駅逓・橋道・水利・物産などを管轄。初代民部卿は松平慶永(よしなが)。8月大蔵省と合併。70年7月再び分離したが,71年7月廃省となり,所管の事務は大蔵省と工部省にひきつがれた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「民部省」の意味・わかりやすい解説

民部省
みんぶしょう

大宝令(たいほうりょう)制に始まる中央官司。太政官(だいじょうかん)に所属する八省の一つで、主計・主税両寮を管した。前身官司を民官とよぶ。民政一般を総括し、とくに租税収取と中央財政の運営にあたる律令国家の国政の要枢官庁。全国の戸籍、租庸調(そようちょう)、家人(けにん)、私奴婢(しぬひ)、道橋、津済(しんさい)、山川、田などを管轄した。卿(かみ)・大輔(だいすけ)・少輔・大丞(だいじょう)各1人、少丞2人、大録(だいさかん)1人、少録3人、史生(ししょう)10人、省掌(しょうしょう)2人、使部(しぶ)60人であった。卿には、奈良時代、粟田真人(あわたのまひと)、藤原仲麻呂(なかまろ)などの有力貴族を任じたが、律令財政が衰退し、荘園(しょうえん)制が発達するに伴い、その地位はしだいに低下した。奈良中期の仲麻呂政権下、一時仁部(にんぶ)省と改称。1869年(明治2)民政官庁として復活したが、2年後、大蔵・工部省に統合された。

[八木 充]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「民部省」の意味・わかりやすい解説

民部省
みんぶしょう

(1) 律令制八省の1つ。主計,主税の2寮を管し,諸国の戸籍,租・庸・調,田畑,山川,道路などに関することを司った。長官は正四位相当の民部卿で,その下に輔,丞,録の四等官以下があった。大化改新後の官制にもその名がみえる。鎌倉時代以降は有名無実化した。

(2) 明治維新政府の太政官制の1つ。明治2 (1869) 年民部官を廃し設置され,駅逓,土木,地理の3司を管し,一時大蔵省と合併したが,同3年分離し,土木,鉱山,駅逓,通商,聴訴の5司,製鉄,鉄道,灯台,社寺,電話の5掛をおいた。同4年7月 27日の官制改革で廃止,その職掌は大蔵省,次いで内務省に引継がれた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「民部省」の解説

民部省
みんぶしょう

①律令官制の八省の一つ
②明治初年,民政関係の中央官庁
太政官の左弁官に属し,諸国の戸籍・賦役・田・山川・道路など一般政務をつかさどった。下に主計寮・主税寮があり,律令国家の中枢機関。
1869年設置。'71年に廃止され,大蔵省に吸収,のち内務省に引き継がれた。

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世界大百科事典(旧版)内の民部省の言及

【大蔵省】より

…この改革にあたっては,アメリカの財務行政制度を調査して帰国した伊藤博文の意見も大いに参考とされた。しかし大蔵省をもっぱら財務を管掌する機構とする伊藤の主張とは異なって,内政を司る民部省を合併(同年7月)し,財政,内政をあわせて管掌する強大な権限をもつ省となった。〈政治の半分以上を大蔵省がやってしまった〉(《世外侯事歴維新財政談》)といわれるほどであり,資本主義育成と統一国家体制樹立のための諸施策を推進した。…

【二官八省】より

…日本古代の律令制の官庁組織をいう語。狭義には太政官(だいじようかん),神祇官(じんぎかん)の二官と中務(なかつかさ)省式部(しきぶ)省治部(じぶ)省民部(みんぶ)省兵部(ひようぶ)省刑部(ぎようぶ)省大蔵(おおくら)省宮内(くない)省の八省を指すが,広義には,この二官・八省に統轄される八省被管の職・寮・司や弾正台(だんじようだい),衛府(えふ)などの中央官庁および大宰府(だざいふ)や諸国などの地方官庁を含む律令制の全官庁組織の総体をいい,ふつうは後者の意味で用いる。このような官庁組織は,7世紀後半から8世紀初めにかけて形成された。…

※「民部省」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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