日本古代において律令(りつりょう)政府が発行した12種の銅銭の総称。和同開珎(わどうかいちん)、万年通宝(まんねんつうほう)、神功開宝(じんぐうかいほう)、隆平永宝(りゅうへいえいほう)、富寿神宝(ふじゅしんぽう)、承和昌宝(じょうわしょうほう)、長年大宝(ちょうねんたいほう)、饒益神宝(じょうえきしんぽう/にょうやくしんぽう)、貞観永宝(じょうがんえいほう)、寛平大宝(かんぴょうたいほう)、延喜通宝(えんぎつうほう)、乾元大宝(けんげんたいほう)の12銭をさす。律令政府はこれ以外にも、銀銭の和同開珎、大平元宝(たいへいげんぽう)、金銭の開基勝宝(かいきしょうほう)を発行しており、また1998年(平成10)に奈良県明日香(あすか)村から多く出土した富本銭(7世紀後半)を入れると合計16種の銭が発行されたことになる。
8世紀後半以降、ほぼ10~20年間隔で銅銭が繰り返し発行されたのは、銅銭に付与された高い法定価値に原因がある。すなわち、律令政府は、高い法定価値を付与した銭を支払い手段に用いることで財政的利益を得ていた。しかし、この高い法定価値を維持することはむずかしく、価値の下落と私鋳銭(しちゅうせん)の横行を招いた。これに対して律令政府は、新銭に高い法定価値を付与して繰り返し発行せざるをえなかったのである。確実な出土例では、和同開珎銅銭の出土箇所数がかなり多く、万年通宝~富寿神宝の4銭がこれに次いでいる。その出土地は各銭とも畿内(きない)と近国に集中している。現物では8世紀の4銭は大形高品位であるが、9世紀以降小形低品位化し、鉛銭に近いものまで鋳造された。これらの皇朝十二銭の流通は、ほぼ10世紀末ごろには衰退した。
[栄原永遠男]
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日本古代における政府発行の銅銭の総称。〈本朝十二銭〉ともいう。これ以外に銀銭として和同開珎・大平元宝,金銭として開基勝宝が発行されている。金属貨幣は天武朝ごろには存在したらしいが,和同開珎以降,律令政府によって本格的に鋳造され流通せしめられた。律令政府は銅銭に地金の銅よりも高い法定価値を付与し,支払手段として用いることによって財政的利益を得ていた。しかし律令政府によって一方的に与えられ,なんらの社会的妥当性をもたない高い法定価値を維持することは困難で,私鋳銭の横行と法定価値の下落を招いた。このため律令政府は,私鋳銭を断ち高い法定価値を回復するために,新銭を発行せざるをえなかったのである。これが,8世紀後半以降ほぼ10~20年間隔で新銭の発行がくり返された理由である。皇朝十二銭の流通は,ほぼ10世紀末ころには衰えた。現物について見ると,8世紀の4銭(とくに万年通宝)は高品位で大型だが,9世紀以降の銭は小型で低品位のものが多く,はなはだしい場合には鉛銭に近いものさえ鋳造された。一方,確実な出土例によると,和同開珎銅銭の出土個所数が多く,万年通宝~富寿神宝の4銭がこれに次いでいる。各銭ともその出土地は畿内近国に多い。
執筆者:栄原 永遠男
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本朝十二銭とも。和同開珎(わどうかいちん)から乾元(けんげん)大宝に至る律令国家が発行した12種類の銅銭の総称。和同開珎・万年(まんねん)通宝・神功(じんごう)開宝・隆平(りゅうへい)永宝・富寿(ふじゅ)神宝・承和(じょうわ)昌宝・長年(ちょうねん)大宝・饒益(にょうやく)神宝・貞観(じょうがん)永宝・寛平(かんぴょう)大宝・延喜通宝・乾元大宝の12種。私鋳銭の横行と貨幣価値の下落に対処するため,改鋳がくり返された。奈良時代の3種は銅を8割ほど含む比較的良質のものであったが,隆平永宝以降は改鋳のたびに品質が劣化し,銅と鉛を同量含むほどになり,形状も小型軽量化した。乾元大宝の発行を最後に国家の貨幣鋳造が断絶したのちは,平安末期に宋銭が流入するまで,交換手段として銭貨を用いない時代が続いた。
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…これに続いて奈良・平安時代には万年通宝(760創鋳),神功開宝(765),隆平永宝(796),富寿神宝(818),承和昌宝(835),長年大宝(848),饒益神宝(859),貞観永宝(870),寛平大宝(890),延喜通宝(907),乾元大宝(958)が相次いで発行された。これらを総称して皇朝十二銭または本朝十二銭という。和同開珎には銀銭と銅銭とがあったが,そのほかの皇朝銭はすべて銅銭であった。…
…日本では貨幣の総称として銭という用語が使われるが,金銀貨との比較のうえで銭貨といえば,主として銅銭を意味する。日本最初の官銭としての銭貨は708年(和銅1)鋳造の和同開珎(わどうかいちん)で,以後,万年通宝,神功開宝,隆平永宝,富寿神宝,承和昌宝,長年大宝,饒益神宝,貞観永宝,寛平大宝,延喜通宝,乾元大宝のいわゆる皇朝十二銭が鋳造・発行された。中世に入ると各種の中国渡来銭が日本に流入して渡唐銭と呼ばれ,鎌倉時代には宋・元の銭貨が,室町時代には明銭が主として用いられた。…
…銅・鉛採掘の官営の鉱業所は採銅所といい,銅・鉛は鋳銭原料となった。皇朝十二銭のうち初期の銭貨地金の銅,鉛の割合は不明だが,818年(弘仁9)初鋳の富寿神宝以後のものは鉛が増して銅2,鉛1の比率となった。16世紀から鉛の需要も増して鉛山が諸所に開かれ,銅,銀とともに採掘もされた。…
※「皇朝十二銭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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