人の会話を,当事者の同意なしに,ひそかに聴取・録音すること。通信・会話傍受ともいう。このうち電話線から機械的方法で通話を傍聴することを〈ワイヤタッピングwiretapping〉と呼ぶ。室外に聞こえてくる会話をひそかに立ち聞きし,あるいは,機械装置により会話を傍受して録音する(エレクトロニック・サーベイランスelectronic surveillanceまたはバッギングbugging)場合のほか,会話の一方当事者が相手方に無断で会話を録音し,または一方当事者の同意を得て第三者が会話を聴取・録音する場合なども,広い意味では盗聴に含めることができる。会話者(ないし独白する人)に無断であっても,発言者自身がその内容の秘密性を放棄しているとみられる場合もあるし,逆に会話者の一方が了解しているからといって,すべてが適法とはいえない。有線通信(電話など)については,その秘密を侵す行為を処罰する法律がある。
なかでも,盗聴の対象者の基本的人権の侵害が切実に問題となるのは,国家機関とくに犯罪捜査の機関が盗聴を行う場合である。しかしこの場合も,たとえば身代金誘拐事件のように,脅迫電話の録音および逆探知が犯罪捜査上緊急かつ有効な手段として,ほとんど絶対的な必要性を感じさせることもある。現在アメリカでは,人権と捜査との調和を図るため,盗聴は,合衆国憲法によりプライバシー保護の観点から規制を受け,裁判官の令状に基づき行われる場合に限り許されるとされており,盗聴令状を発する条件や手続を定めた法律が制定されている。また西ドイツでも,盗聴は基本法(憲法)の保障する個人の人格権を侵害し,原則として許されないとする反面,刑事訴訟法典の中に,一定の重大犯罪につき捜査に必要不可欠な場合に限定して,裁判官の命令による電信,電話の盗聴,録音を許す規定が設けられている。日本の学説も,憲法上の根拠をどこに求めるかについて考え方の違いはあるものの(憲法21条説,31条説,35条説),捜査機関による盗聴が個人のプライバシーの権利ないし人格権を侵害する強制処分であり,捜索や押収と同じように法律に定められた手続に従い裁判官の発する令状による場合以外は許されないとする考え方が有力である。そして現行法には,このような根拠を与える法規が存在しないので,強制処分にはつねに法律上の根拠が必要であるとする考え方(憲法31条,刑事訴訟法197条1項但書)をとれば,捜査機関が当事者の同意なしに行う盗聴は,いっさい許されないことになる。盗聴の一般的禁止,および令状による許容を定める立法が必要であろう。
執筆者:酒巻 匡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
他人の会話をひそかに盗み聞きすること。隠しマイクによる録音、電話等の傍受(ワイヤータッピング)、高性能の電子盗聴器による聴取・録音など、テクノロジーの発達に伴い容易となり、今日の重大な人権問題となっている。公権力による場合としては、身代金誘拐事件における脅迫電話の逆探知と秘聴といった重大犯罪の捜査に関するものが広く知られている。
盗聴はプライバシー権、通信の秘密、思想・表現の自由など基本的人権を侵害するものであるから、公私を問わず禁止される。ただ、その例外として、犯罪捜査の目的達成のため捜査機関が盗聴することが許されるかが問題となる。このような犯罪捜査目的の盗聴は、アメリカやドイツでは厳格な要件と手続のもとに認められてきたが、日本では強制処分の一種であるとして憲法や刑事訴訟法との関連で許されるか否かが争われてきた。そこで、組織犯罪対策の一つとして、通信傍受法「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(平成11年法律第137号)」が1999年(平成11)8月に成立し、殺人、薬物および銃器の不正取引にかかわる犯罪等重大犯罪が組織的に実行される場合に限って、裁判所の令状(傍受令状)など一定の要件と手続のもとで、電気通信の傍受(すなわち電話などの盗聴)が許容されることとなった。しかし、これ以外の公権力による盗聴は違法であるばかりでなく、さらに犯罪ともなりうる。
[名和鐵郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…このような攻撃は,サービス不能攻撃denial of service attackと呼ばれる。 情報の破壊や盗み,あるいは改竄のために,ネットワークの盗聴を行ったり,あるいは,なりすましを行い相手を錯誤させ情報を入手,あるいは正しくない情報を与えるような方法がある。 不正アクセスを防ぐ技術として,ファイヤーウォールなどのシステム防御手法を導入しセキュリティを高める,より安全なパスワード認証方法を用いる,データへのディジタル署名や暗号化を行いデータ自体を保護するといったものがあげられる。…
…しかし,これでは基準が形式的すぎ,強制処分の範囲が狭すぎるという点が反省され,近時では,個人の権利・法益の侵害をもたらすかどうかを基準とすべきだとの意見も出ている。これは,写真撮影や盗聴の問題を考える際に違いが出てくる。これらは,科学技術の発展によって可能となった捜査方法であり(科学捜査),刑事訴訟法はなんら規定を設けていないので,許されるかどうかが問題となる。…
※「盗聴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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