中国の神話の開闢(かいびやく)説話にみえる神。《三五暦記》に,天地がなお雞子(けいし)(卵)のように混沌たるとき,その中に生まれ,1日に9変して長ずること1丈,天地もそれぞれ1丈ずつ伸びること1万8000歳にして天地が形成されたとする長人の説話は,重黎(ちようれい)の説話と似ている。また《述異記》には,盤古が死んで,その頭は四岳,目は日月,脂膏(しこう)は江河,毛髪は草木となったとする死体化生(したいかしよう)説話があり,その異説もしるされている。その廟は桂林にあり,いまも祀(まつ)られているという。巨人の死体から万物が生ずるという説話の形式は,インドや北欧にもみられ,日本の大気津比売神(おおげつひめのかみ)の説話も同じ形式をとり,おそらく朝鮮経由のものであろう。たとえば〈陰(ほと)に麦生(な)り〉は,朝鮮語では陰はpoji,麦はporiであるから,両者はその音の類似によって結合されたと考えられる。この説話形式は農耕地帯に行われ,その農耕文化とともに伝播(でんぱ)したものであろう。
執筆者:白川 静
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中国の古代神話に登場する神。盤古はこの世界を創造した造物主であるとされ、その世界創造については二通りの異なる伝承が残されている。一つは天地分離型とよばれ、それによれば太初の世界は上も下もないどろどろした状態で、盤古はそのなかから生まれた。そののち天地が押し開かれると、陰陽二気のうちの清らかな陽の気が天に、濁った陰の気が地になった。彼は天と地の間で双方を支え続けたが、天は日に一丈ずつ高くなり、また地は日に一丈ずつ厚くなったため、それにつれて盤古の身長も一丈ずつ伸びて、ついに天と地は果てしなく隔たることになったという。もう一つの伝承は死体化生(けしょう)型に属し、それによると、この世の初めに盤古があった。そして盤古が死んだときにその体の各部が変化して、世界を形づくる諸物になり、両眼は日月に、体は大地に、血液は川に、筋肉の筋(すじ)は大地のひだに、皮膚は田畑に、髪や髭(ひげ)は星に、体毛は植物に、歯や骨は岩石に、それぞれ変化したという。この2種の世界創造神話は、本来同一の系統に属すものなのか、あるいはまったく別の伝承が同じ盤古の名によって語られるようになったのか、明らかではない。
[桐本東太]
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…そういう意味では,〈太虚〉は果てしない時空の統一体であると同時に存在論的本体なのである。 さて,中国人の宇宙生成論については,まず巨人盤古(ばんこ)の天地開闢伝説をあげるべきであろう。天地未分の前,宇宙は混沌として卵のような形をしていた。…
…三国時代呉の徐整の《三五暦紀》では,天地未分の混沌を鶏卵にたとえている。原初のカオスを卵でとらえるのは,ギリシアやフィンランドの神話にもみられるが,続いて《三五暦紀》は,盤古(ばんこ)なる人間がその卵中に生まれ,天と地が分かれるにつれ,その身体も天地につかえるほどに巨大化していったと述べている。同じ徐整の《五運歴年記》では,巨人盤古の死体から万物が化生するさまが記されている。…
…(3)の型は世界の古代文明地帯とその影響圏に多い。中国の原初の巨人盤古(ばんこ)が死んで,その左目が太陽,右目が月になったのもその一例である。《古事記》に,伊邪那岐(いざなき)命が黄泉(よみ)から帰ってみそぎをしたとき,左目を洗うと天照大神(太陽),右目を洗うと月読命(月)が生まれたとあるのも,この形式の変種である。…
… 骨の神話は多い。古代中国の天地を分け隔てた巨人盤古が死んだとき,歯や骨から岩石ができた。北欧神話でも巨人ユミルの死後,骨から岩がつくられている。…
… 神話伝説の中に目に関する話はきわめて多い。中国の巨人盤古(ばんこ)が死んだ後,左眼は太陽に,右眼は月になった。また北方の章尾山に人面蛇身の燭竜(しよくりゆう)という神がいて,目は顔の真ん中に縦についており,この目が開くと明るくなって昼,閉じれば夜になる(《山海経》)。…
※「盤古」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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