改訂新版 世界大百科事典 「目的法学」の意味・わかりやすい解説
目的法学 (もくてきほうがく)
Zweckjurisprudenz[ドイツ]
法の研究や解釈にあたって〈目的〉の概念を指導理念とすることにより,法を現実生活に密着したものたらしめようとする法学上の一傾向。19世紀の後半にドイツの法学者R.vonイェーリングによって提唱された。彼によれば,あらゆる社会制度は個人的および社会的な目的を根底に有している。個人的目的とは個人のエゴイズムであり,これが等価交換のメカニズムを媒介にして経済生活および私法生活を生み出す。それゆえ私法は個人の私的利益を基盤とする。また社会の目的とは共同体を維持することであるが,そのためには等価交換のメカニズムとともに〈強制のメカニズム〉が必要であり,これが国家と法を生み出す。彼は,今日の社会ではこの後者の目的がより重要であり,私権もまた全体の必要のためには制限されるべきだとする。イェーリングは,こうした立場から法と社会を分析し,いわゆる法社会学の確立に寄与したのであるが,それは,従来の観念的な自然法論や法の自然的生成に固執する歴史法学派および形式論理偏重の概念法学に対して画期的な新しい方向であった。刑法学におけるF.vonリストの目的刑論やヘックPhilipp von Heckらの利益法学はこの影響下にある。また,法解釈学においては,イェーリングは,かかる〈目的〉の立場から,まず政策的に妥当な結論を考えそれを法文と法概念の論理的操作によって正当化する,実利主義的な〈構成法学〉を唱えた。
執筆者:笹倉 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報