改訂新版 世界大百科事典 「利益法学」の意味・わかりやすい解説
利益法学 (りえきほうがく)
Interessenjurisprudenz[ドイツ]
法の解釈と適用において,〈利益〉の概念を指導理念とすることにより,判決を法および実生活に即応したものにしようとした法学上の一学派。20世紀初頭ドイツにおいてリューメリンMax von Rümelin(1861-1931)やヘックPhilipp von Heck(1858-1943)らによって提唱された。中心点は次の2点である。(1)法が利益の所産であることの認識。つとにR.vonイェーリングは,権利を〈法的に保護された利益〉だとしていたが,利益法学はこの立場を徹底させ,法とは立法者が社会における拮抗的な諸利益に対してどれをいかに保護するかの価値判断を行った産物だとする。(2)利益の分析と比較衡量。法の解釈と適用にあたっては,それゆえ一方で個々の具体的ケースにおける利害関係を経験的方法によって明らかにしつつ,同時に他方で,そのうちのどの利益をいかに保護することが立法者の意志に合致するかの視点から法を解釈して適用しなければならない,とする。とくに問題になるのは,該当する法がない場合(法の欠缺(けんけつ))である。概念法学に対する別の批判者である自由法論が,その場合に裁判官の広範な自由裁量に基づく法創造を説くのに対し,利益法学は,裁判官の法律への忠誠を説く。すなわち裁判官は,その場合には法秩序全体に表れている価値評価の系列を探り出し,それに基づいて個々の利益を評価したうえで保護すべきだというのである。このように利益法学は,法学を,社会の利益対立を一定の指針に基づいて解釈する実践的な学問とみたのであった。
→利益衡量
執筆者:笹倉 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報