日本大百科全書(ニッポニカ)「石女」の解説
石女
うまずめ
子供を生まない女性をさして使われたことば。不生女とも書く。イシオンナ、カラオンナ、キオンナ、キニョウボウ、メド(穴)ナシなどといわれ、後継者育成を最重要事と考える社会では、よく思われなかった。石女がいると村が絶えるとか、枯れるとかいわれ、岐阜県土岐(とき)郡では、神社の木が毎年1本ずつ枯れるといわれた。愛知県丹羽(にわ)郡では、石女をキムスメといい、結婚すると男はしだいに身体が衰弱するといわれた。島根県八束(やつか)郡では、月事がなくて子をもたない女が村の東に住むことを嫌う所があった。「嫁して三年、子なきは去る」などといわれ、結婚して3年または7年して子ができないと、離婚の理由とされた所がかなりあった。また、石女が婚礼の席に出るのを嫌う土地もあった。岐阜県養老郡では、穢(けがれ)があるとして、路傍で小便をすると草木がたちまち枯れるといわれた。山口県玖珂(くが)郡では、ホトトギスが鳴く初夏のころ女子が大声で人をよぶと石女になるといって、この時季には女はなるべく戸外に出なかったという。また、石女については次のような言い伝えもある。子供のない人が妊婦の座ったあとへ座ると子供ができる。子供を生んだ人の胞衣(えな)のまだ暖かいうちにそれを踏むと、妊娠するようになる。また種子(たねご)などといって、もらい子を育てると子供が授かる。人に知られないように産飯(うぶめし)を食べるとよいなどともいわれた。香川県の一部では、女の47歳をウミジマイ、男の61歳をメクサレゴといって、これが子をもてる限界とされていた。しかし、これらの石女に関する伝承は科学的根拠をもたぬもので、しかも子供のできない原因を女性側にのみあるとするものであり、子供ほしさから、石女を嫌うゆえの単なる俗信にすぎない。
[大藤時彦]