子どものできない女のこと。イシオンナ,カラオンナ,カラゴなどともいう。結婚後3年たっても子のない女は離縁されたという土地は多く,石女は前世に動物を殺した報いなどといい,一般に嫌われた。島根県仁多郡には,石女がいると村が枯れるといい,石女のことを木女房(きにようぼう)と呼んだところがある。石女は離婚の理由の一つとされていたので,子を得るために神仏に妊娠祈願をしたり,種々の呪法を行った。子安地蔵,子安観音,産泰様などにまいって子授けを祈願するほか,他所から子どもをもらってきて育てていると妊娠するという地方は多い。そのほか子産石(こうみいし)といって,海や川から拾ってきた石を毎日拝むと子ができるとか,道祖神へ供えた石で腹をなでるとみごもるなどの俗信もある。
執筆者:大藤 ゆき 社会規模が小さく,後継者を確保することが最重要事である未開社会では,不妊や流産で子どもを産み育てることのできない妻の存在は,家族だけでなく,親族や地域社会全体の関心を集める。また未開社会や伝統的社会では,人はその死後に子孫によって弔われることを重視するから,子どもを産めない女は夫や同じ集団の人びとから非難されることが多い。それらの社会では,栄養不良からの無月経症や風土病の後遺症に伴う不妊や流産が多く,石女をめぐる問題は多い。しかし,その原因を女の側だけに押し付ける社会もあれば,夫婦ともにその原因があると考えて,妊娠祈願の儀礼に夫婦とも参加する社会もある。また一夫多妻の社会では,複数の妻のうちの一人が石女であれば,その原因を他の僚妻の誰かが妖術を使ったためだと考えられることが多い。いずれにしろ石女の存在は,その夫婦や家族に何か〈不都合な〉ことが起こっていることのあかしと考えられがちである。
執筆者:波平 恵美子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
子供を生まない女性をさして使われたことば。不生女とも書く。イシオンナ、カラオンナ、キオンナ、キニョウボウ、メド(穴)ナシなどといわれ、後継者育成を最重要事と考える社会では、よく思われなかった。石女がいると村が絶えるとか、枯れるとかいわれ、岐阜県土岐(とき)郡では、神社の木が毎年1本ずつ枯れるといわれた。愛知県丹羽(にわ)郡では、石女をキムスメといい、結婚すると男はしだいに身体が衰弱するといわれた。島根県八束(やつか)郡では、月事がなくて子をもたない女が村の東に住むことを嫌う所があった。「嫁して三年、子なきは去る」などといわれ、結婚して3年または7年して子ができないと、離婚の理由とされた所がかなりあった。また、石女が婚礼の席に出るのを嫌う土地もあった。岐阜県養老郡では、穢(けがれ)があるとして、路傍で小便をすると草木がたちまち枯れるといわれた。山口県玖珂(くが)郡では、ホトトギスが鳴く初夏のころ女子が大声で人をよぶと石女になるといって、この時季には女はなるべく戸外に出なかったという。また、石女については次のような言い伝えもある。子供のない人が妊婦の座ったあとへ座ると子供ができる。子供を生んだ人の胞衣(えな)のまだ暖かいうちにそれを踏むと、妊娠するようになる。また種子(たねご)などといって、もらい子を育てると子供が授かる。人に知られないように産飯(うぶめし)を食べるとよいなどともいわれた。香川県の一部では、女の47歳をウミジマイ、男の61歳をメクサレゴといって、これが子をもてる限界とされていた。しかし、これらの石女に関する伝承は科学的根拠をもたぬもので、しかも子供のできない原因を女性側にのみあるとするものであり、子供ほしさから、石女を嫌うゆえの単なる俗信にすぎない。
[大藤時彦]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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