神代文字(読み)じんだいもじ

精選版 日本国語大辞典 「神代文字」の意味・読み・例文・類語

じんだい‐もじ【神代文字】

〘名〙 日本で、漢字渡来以前の古代に用いられたと称される文字。日文(ひふみ)天名地鎮(あないち)、阿比留(あひる)文字などの種類がある。これらは、古代の確実な遺例がなく、かつ、いろはがなの体系を出ないものであって、現今ではすべて後代の仮託のものとする。その存在を認める平田篤胤の「神字日文伝(しんじひふみでん)」、それを駁する伴信友の「仮字本末」その他の論がある。神字。神代字。
国語のため(1895)〈上田万年〉言語学者としての新井白石初めに支那文字の沿革を説き、次に日本に神代文字のあったことを説き」

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デジタル大辞泉 「神代文字」の意味・読み・例文・類語

じんだい‐もじ【神代文字】

日本で、漢字渡来以前に古くから用いられていたという文字。日文ひふみ天名地鎮あないち阿比留あひるなどがある。古来、神道家などの間にその存在が信じられてきたが、その多く表音文字で、現在ではすべて後世の偽作とされる。江戸後期には、平田篤胤の「神字日文伝しんじひふみでん」(存在説)、伴信友の「仮字本末かなのもとすえ」(否定説)その他の論争があった。

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改訂新版 世界大百科事典 「神代文字」の意味・わかりやすい解説

神代文字 (じんだいもじ)

漢字の渡来および〈かな〉の成立に先だって,上古の日本にかつて行われたと称せられる文字。〈神字〉と書いて,〈かんな〉とも呼ぶ。そのような固有の文字が存在したとする説は,おそくとも室町時代から神道家の間にひろまっており,江戸時代においては,平田篤胤をはじめ国学者のうちに,その存在を主張する者が少なくなかった。一方,伴信友のように,それを否定する者もあって,議論が沸いたが,明治になって後は,学者としてその存在を信ずるものはほとんど影をひそめるにいたった。ただ,いわゆる愛国者とか軍人などのなかには,昭和年代に入ってさえ,その存在を信ずるものがあって,政治問題にまでも発展しかねない事件を引き起したことがある。

 一口に神代文字といっても,そのなかにはいろいろの種類があって,神代文字の存在を支持する人々の間においても,どれを真の神代文字と認めるかについては論の一致をみないが,多くの人々によって最も有力なものとみなされたのは,日文(ひふみ)と呼ばれる一類である。しかしこれは明らかに,朝鮮ハングル(諺文(おんもん))に基づいて作られたものである。日文のほかのものも,結局は,すべて国粋尚古の念から偽作付会されたものにほかならない。古代に固有の文字がなかったということについては,日本の文献自体に古くそれに関する記事があり,神代文字で書かれた古い文献のようなものは一つも残っていないばかりでなく,つぎに掲げるような理由から,その存在は完全に否定することができる。(1)漢字に先だってすでに固有の文字があったとすれば,わざわざ漢字を輸入して日本語を写したり,それから〈かな〉を発達させたりする必要は考えがたい。(2)神代文字はその構成において,かなよりもいっそう進歩した文字とみなされる。かなは音節文字であるのに,神代文字は一種の単音文字である。(3)最後に,これは否定の決め手であるが,神代文字は47音ないし50音しか書き分けない。奈良時代以前にまでさかのぼると,日本語の音節には〈いろは〉47文字では書き分けられない多くの音があり,それらは五十音図のうちには収められないところの音であった。すなわち,いろは歌や五十音図だけでは示しきれないところの音が上代にはあったのである。これらを〈万葉仮名〉ではちゃんと書き分けてその区別を守っている以上,もし神代文字が真に〈かな〉以前のものであったとすれば,少なくとも,もっと多くの字体がなければならないのに,いわゆる〈変体仮名〉にあたるものさえなく,きわめて整然とした統一をもっているのである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神代文字」の意味・わかりやすい解説

神代文字
じんだいもじ

鎌倉時代中期以来しばしば,日本に漢字が渡来する以前から存在したと主張されてきた文字。神字 (かんな) ともいう。特に江戸時代中期から国学者のなかにその存在を強く主張する者が多く現れた。対馬に伝わる日文 (ひふみ) を支持した,平田篤胤 (あつたね) の『神字日文伝』などが有名である。しかし,現在では,その存在は否定されていて,その多くは朝鮮のハングルをもとにして 15世紀以後つくられたものとされている。

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百科事典マイペディア 「神代文字」の意味・わかりやすい解説

神代文字【じんだいもじ】

漢字渡来以前に日本で使用されたと称せられる文字。中世の神道家や江戸の国粋主義的国学者が主張した。しかしその例として示されたものは多くハングルを模した偽作であり,その存在は今日では否定されている。

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世界大百科事典(旧版)内の神代文字の言及

【仮名】より

…仮名創成以前に日本にも文字があったという説が鎌倉時代以降に現れ,江戸時代には,その実例と称するものも提出された。それを神代文字(じんだいもじ)という。しかし,その大部分は,朝鮮の京城で1443年に創案された朝鮮語の表音文字であるハングルに類似するものか,あるいは空想的な創作であるものが多い。…

※「神代文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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