取引行為のなかには,不動産や株式の売買などのようにむずかしいものから日用品の購入に至るまで,種々のものがある。ところが,なんらかの継続的な精神的欠陥のため,どんなにやさしい取引行為であっても,これを行うことが通常は困難であるというほどに重症の者,すなわち,〈心神喪失ノ常況〉にある者(民法7条)も時に見いだされる。このような者を社会生活の犠牲にすべきでないとして,フランス民法上の禁治産制度(1968年に改正されるまでの489条以下)にならって設けられたのが,この制度である。日本法上では,正常な意識回復時の本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,保佐人,検察官のいずれかからの申立てに基づき,家庭裁判所が医師その他適当な者に鑑定させたうえ必要と認めればその宣告をする(手続の詳細は家事審判法および家事審判規則参照。1975-79年の例によると,毎年600件前後の申立てがあり,その2/3程度が認容されている)。この禁治産者に対する保護手段は二つあり,その第1は後見人の就任である(民法8条)。すなわち,その禁治産者に配偶者があれば配偶者が当然に後見人となり,配偶者がなければ被後見人の親族その他の利害関係人の請求によって家庭裁判所が後見人を選任するが(840,841条),必ず1名の後見人が就任して,この後見人が禁治産者の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為につき禁治産者を代理する(859条1項)。第2の保護手段は行為能力の完全な停止であって,禁治産者自身がなした財産上の法律行為は,たとえ後見人の同意を得て行ったものであっても,すべて取り消しうるものとされる(9条)。なお,以上の禁治産制度は,禁治産者の財産保全のための制度であるから,禁治産者といえども普通の精神状態に回復している間なら,婚姻,養子縁組,認知,遺言等をすることはできる。
→後見 →準禁治産者
執筆者:須永 醇
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1999年(平成11)の民法改正(2000年4月1日施行)で導入された成年後見制度の前に設けられていた禁治産・準禁治産宣告制度の下で、「禁治産者」は「心神喪失の常況」(精神に障害があって、ときに正常に復することはあっても、おおむね正常な判断能力を欠く状態)にあるため、家庭裁判所から禁治産の宣告を受け、まだその宣告が取り消されていない者をさしていた。新制度導入に伴い、差別的な印象を与える「禁治産者」という表現は、すべての関係法律において「成年被後見人」という用語に改められた。また、民法条文中の「心神喪失の常況」という用語も「事理を弁識する能力を欠く常況」と改められた。
[池尻郁夫・編集部]
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