鎌倉時代,警固のため京・鎌倉に設けられた武士の詰所。1238年(暦仁1)に京の辻々に造ったのが初めで,その2年後(仁治1)には鎌倉警固のためにも造られた。篝屋の内容の明らかな京都の場合,篝火には続松(ついまつ)が使われ,篝屋には太鼓が置かれた。篝屋での警固役を篝屋番役といい,その任には,在京の御家人があたったが,後には六波羅探題に奉公する西国の有力御家人がこれを務めるようになり,かれらは在京人と呼ばれた。在京人は御家人役としてこの篝屋番役を務めるかわりに,京都大番役を免除された。京都の警固は本来検非違使(けびいし)の管轄で,保官人と呼ばれた検非違使の夜巡(よまわり)によってなされていたが,検非違使の力の低下にともなって,幕府の御家人が検非違使に協力する体制がとられるようになり,ついに篝屋の設置によって京都警固の中心は六波羅探題の率いる御家人に移っていった。篝屋が当初の計画どおり造られるまでには,7~8年を要し,その間,造作の費用を幕府の命令に違背した御家人に負担させたり,用地として承久の乱で没収した土地と交換することによってあてるなど努力がはらわれている。また篝屋の維持のための続松の費用を負担する篝料所が定められたり,篝屋番役を負担する在京人に特別に所領を与えたりしている。《太平記》によれば〈四十八ヵ所の篝〉とみえるゆえ,京都には40~50ヵ所近くの篝屋が造られたと考えられるが,史料によって確認できるのは,その約半分である。その範囲は左京のほぼ全域と,一条以北におよんでいる。こうして篝屋は京都警固に重要な役割を果たしたが,鎌倉末期になって六波羅探題と在京人との間に亀裂が入ると,篝屋の維持は難しくなり,在京人が反幕勢力に転ずることにより篝屋の荒廃は明らかとなった。〈二条河原落書〉にうたわれた〈町ごとに立篝屋は,荒涼五間板三枚〉という様がこの事情をよく物語っている。なお鎌倉の篝屋は京都から導入した行政単位である保の保奉行人が管理・維持した。
執筆者:五味 文彦
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鎌倉時代に御家人(ごけにん)役の一つとして京都の警備にあたった在京武士の宿衛所。彼らを篝屋守護人ともよぶ。1238年(暦仁1)将軍藤原頼経(よりつね)が京都滞在の際、市中の要所に篝屋を設け、夜は篝火をたいて治安の維持にあたったのを初めとする。以後しだいに整備され、市中48か所に設置。その場所はおおむね大路の交差する辻々(つじつじ)に設けられた。構造は『一遍上人絵伝(いっぺんしょうにんえでん)』によれば5間に3間で幕布を垂れ、楯(たて)を備えていた。篝屋造営料、続松(ついまつ)料は別途に御家人役として調達されたが、違法行為のあった者に、所領没収のかわりに所領50丁に銭50貫の割で費用を負担させることや、京都大番役遅怠の者に1か月宛(あて)銭10貫を調達させることも行われた。1240年(仁治1)には京都に模して鎌倉の町辻にも設置された。
篝屋守護は初め大番衆も勤仕したが、のちには西国に所領を有する御家人のなかから選ばれ、一族家人を率いて篝屋の一所を預り、六波羅探題(ろくはらたんだい)の統轄下に警固の任についた。彼らはその役所の名を冠して、五条京極(ごじょうきょうごく)篝屋などとよばれた。また在京人として大番役などの他の諸役が免除された。
[五味克夫]
鎌倉幕府が京都の治安維持のため辻々に設けた番所。そこでの勤番は御家人役の一つ。「太平記」には48カ所とあるが,実数は不明。1238年(暦仁元)6月,洛中警衛のため,辻々に篝火を焚くことを命じたのが始まり。はじめは大番役の御家人をあてたが,畿内近国の御家人を篝屋守護人に選んで勤番させるようになった。篝屋を設けた辻には太鼓をおき,近隣の在家に松明(たいまつ)を用意させて,犯人逮捕に協力させた。篝屋は洛中の治安維持に効果をあげたものの,鎌倉の政情不安から46年(寛元4)10月にいったん縮小され,廃止の情報が京都に流れた。宝治年間はもとに戻された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
… 交通の要衝である辻には古来,道祖神をまつった辻社や辻堂など,種々の施設が置かれた。鎌倉時代の京都では,辻ごとに篝屋(かがりや)が置かれ,終夜篝火をたいて盗賊を防ぎ市中を守ったし,戦国時代になると,公家や町衆がみずから釘貫(くぎぬき)(門)や櫓を構築して町を自衛した。江戸時代には,町内ごとに木戸門をたて,夜間には通行を遮断した。…
※「篝屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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