日本の民俗楽器。(1)右手に竹をもとだけ残して細かく割りさいたものを持ち,左手に木の棒の表面にギザギザをつけたものを持って,竹で棒をこすってリズミカルな音を出すもの。右手の竹を〈ささら竹〉といい,同形のものは飯桶などを洗う道具としても用いられる。左手の棒を〈ささらこ〉といい,竹の棒の表面に多数の穴をあけたものを用いる地方もある。囃子田(はやしだ)などの田楽系の芸能や,風流系の獅子舞で使われる。また古くはささらをすりながら説経を語る簓説経があり,能の《自然居士(じねんこじ)》にもこの楽器が採り入れられている。(2)〈びんざさら〉ともいい,〈編木〉〈拍板〉の字を当てる。数十枚,ときには100枚を超える小木片をそろえて,一端をひもでつなぎ合わせて重ね並べ,その両端に取っ手をつけて,両手で操作して音を出すもの。ふつう踊手が手に持って踊りながら奏する。リズム楽器だが,木片のすれ合う時間のずれがあるのできわめて特殊な効果を生む。田楽躍(田楽)の重要な楽器。中国伝来の楽器〈拍板(板(はん))〉から発達した楽器であろう。
執筆者:長尾 一雄
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日本の民俗芸能で用いる体鳴楽器。「すりざさら」と「びんざさら」の2種あり、単にささらというと前者をさすことが多い。すりざさらは、田植囃子(ばやし)などの田楽(でんがく)系芸能などに使われ、「ささらこ」とよばれる刻み目を入れた細い棒と、「ささら竹」という先を細かく割って刷毛(はけ)状にした竹を擦り合わせて音を出す。地域によっては「ささらこ」を用いず、2本の「ささら竹」を打ち合わせる場合もある。びんざさらは田楽躍(おどり)の重要な楽器で、多数の木や竹の小片の上端を紐(ひも)で編むようにして重ね、両端に取っ手をつけたもの。両手で持ち、揺すったり、突くようにして全部の板を打ち合わせる。日本固有の楽器ではなく、大陸より散楽(さんがく)とともに渡来したと思われる。
[卜田隆嗣]
簓とよばれる楽器を用いて説経を語り勧進する雑芸能者。簓説経は中世後期から現れるが,近世には伊勢・美濃・尾張・駿河諸国などをはじめ,東海・畿内・中国地方などに簓の集落がみられ,関蝉丸(せきせみまる)神社(現,大津市)が巻物を下付して彼らを組織した。しかし,それぞれの地域社会においては牢番・番人・晒者(さらしもの)などの役を課され,卑賤視された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…簓をすりながら語る説経。《筠庭(いんてい)雑考》(1843成立)巻三に簓説経の絵があるが,能の《自然居士(じねんこじ)》の説経僧が簓を使ったことからすると,その歴史は古い。絵はむしろの上に大きな傘を立て,その下で羽織を着た俗形の男が,立姿で簓をすりながら説経を語っており,そのまわりに男女数人が首をうなだれて聞き入っている。江戸期の説経(説経浄瑠璃)が簓にかえて三味線や操り人形と結びつき,かんたんな小屋掛けで演じられていたのに対し,これは大道芸であり,中世末期ころの古い説経の姿をよく示している。…
…柳田国男《方言覚書》によれば東京でもいくつかの名で呼んでいたが,亀の子束子という商品が盛んに売れたため〈たわし〉となったといい,束子は当て字で意味は不明としている。さらに,東北で〈もだら〉〈もったら〉と呼ぶのは持ち手藁がつまったもの,岩手で〈とぎたら〉と呼ぶのは磨ぎ手藁,奈良で〈なわどら〉〈けどら〉というのは材料の縄,毛を冠したものであり,また〈ささら(簓)〉〈したら〉〈そうら〉と呼ぶ地方があるのは,ささらの名と混同したものと述べている。明治期に水道が普及し衛生観念が高まるとともに各種の洗い道具が考案されたが,1908年東京の西尾正左衛門によって実用新案登録されたのが亀の子束子である。…
…《類聚国史》貞観8年(866)閏3月1日条の清和天皇行幸の記事に〈覧耕田,農夫田婦雑楽皆作〉とあるのや,《栄華物語》御裳着(みもぎ)巻に1023年(治安3)5月のこととして見える情景がそれである。藤原道長が土御門殿で大宮藤原彰子のために催したこのおりの田植では,〈でむがく〉と呼ぶ腰太鼓,鼓,笛,すりささらなどで囃し,田植歌がうたわれている。また田主(たあるじ)と称する翁(おきな)が,破れ大傘をさし,斑(まだら)化粧をした女とかまけ技(わざ)を見せている。…
※「簓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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