簡易生命保険(読み)かんいせいめいほけん

精選版 日本国語大辞典 「簡易生命保険」の意味・読み・例文・類語

かんい‐せいめいほけん【簡易生命保険】

〘名〙 保険金額が低く、手軽に利用できる生命保険日本では、日本郵政公社が経営する生命保険。郵便局で取り扱われ、保険金額が低く、無診査で加入できる。簡易保険簡保(かんぽ)
東京日日新聞‐明治二六年(1893)四月二一日「簡易生命保険会社は去る十六日開業式を挙行せしが」

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デジタル大辞泉 「簡易生命保険」の意味・読み・例文・類語

かんい‐せいめいほけん【簡易生命保険】

平成19年(2007)の郵政民営化以前に日本郵政公社が行っていた、政府保証のある生命保険。終身・定期・養老・学資・夫婦・終身年金などの商品があり、保険料が安く、郵便局で簡易に加入できた。民営化に伴い新規契約を停止し、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構が管理業務を継承した。簡易保険。簡保かんぽ
[補説]日本郵政公社の生命保険部門を継承した株式会社かんぽ生命保険が販売する生命保険商品は簡易生命保険ではなく、政府保証は付されていない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「簡易生命保険」の意味・わかりやすい解説

簡易生命保険
かんいせいめいほけん

国民に簡易に利用できる生命保険を安い保険料で確実な経営によって提供し、国民の経済生活の安定を図るため行われてきた国営の生命保険。通称簡保(かんぽ)。2007年(平成19)10月1日の郵政民営化実施以前は、日本郵政公社(旧郵政省簡易保険局、総務省郵政事業庁)が行っていたが、民営化後は独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構がその管理を継承した。

[坂口光男]

沿革

日本の簡易生命保険は、1916年(大正5)に制定された簡易生命保険法によって、国営の独占事業としてその業務を開始した。この法律は、1949年(昭和24)の簡易生命保険法によって全面的に改正されたのち、たびたびの改正を経ながら、簡易生命保険の目的、簡易生命保険契約、および加入者福祉施設に関する規定を定めていた。簡易生命保険の商品としては、終身保険、定期保険、養老保険、夫婦保険、学資保険、財形貯蓄保険、生涯保障保険、終身年金保険、定期年金保険、夫婦年金保険など22種類あり、これらはさらに保険約款上、39種類に分けられていた。

 簡易生命保険は、全国に設けられている身近な郵便局を通じ簡易に加入することができる基礎的な生活保障手段として、次のような特色を有した。

(1)営利を目的としないこと
(2)加入にあたり医師の診査を必要としないこと
(3)職業による加入制限を設けていないこと
(4)保険金の加入限度額が設けられていること
(5)保険金の支払いが即時払いであること
である。前記のうち、(2)について補足すると、簡易生命保険では、加入手続を簡易なものとするため、基本契約の申込みの際、被保険者の健康状態について医師による診査は行われない(無診査保険という)。しかし、基本契約の申込みの際、被保険者は郵便局の職員の面接を受けることを必要とする。また、保険契約者(保険加入者)または被保険者は、保険契約の申込みの際、被保険者の健康状態に関する一定の質問事項について告知を行わなければならない(告知義務)。そして、郵便局の職員による面接と保険契約者または被保険者の告知をもとにして、基本契約の申込みに対して承諾するかどうかを判断することになる。(4)の保険金の加入限度額であるが、15歳以下では被保険者1人につき700万円、16歳以上では被保険者1人につき1000万円が限度とされる。もっとも、20歳以上55歳以下で、加入後4年以上経過した保険契約がある場合は、通算して最高1300万円まで加入できる。

 このように簡易生命保険は、民間の生命保険会社の機能を補完し、安い保険料で小口の生命保険を提供するため、保険の加入限度額が法律で定められていた。しかし、その額は逐次引き上げられ、民間の生命保険会社との間に競合が生じるようになり、簡易生命保険の肥大化は課題とされていた。

[坂口光男]

民営化後の簡易生命保険

簡易生命保険事業は、前述のように日本郵政公社により運営されてきたが、2005年(平成17)の郵政民営化関連6法により、2007年10月1日に日本郵政公社が民営・分社化されることになり、日本郵政公社の事業のうち生命保険部門を、日本郵政グループの株式会社かんぽ生命保険が承継した。かんぽ生命保険は新規の各種保険商品を扱うが、民営化以前の政府保証つきの簡易生命保険契約に関する管理は独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構が行う。ただし、保険金等の支払い、住所変更、各種申し出などの実務はかんぽ生命保険を経由して郵便局株式会社に委託されている。契約者は民営化後もこれまでと同様に郵便局の窓口で保険のサービスが受けられる。

 民営化により簡易生命保険法が廃止されたため、簡易生命保険の新規契約の募集は行われていないが、民営化以前の簡易生命保険契約については、民営化後も有効で、保険金等の支払いについての政府保証も、その契約が消滅するまで継続される。証書の書換えや、保険料の振込み・年金の受取りについての手続は不要であるが、保障内容・特約の変更、特約の追加はできない。2006年度末の保有契約は、保険が件数5696万件、保険金額157兆円、年金保険が件数674万件、年金額は2兆5194億円、資金量は約113兆円。

[坂口光男]

『通信事業教育振興会編・刊『社会経済の動向と簡易保険・郵便年金』講演集1~9(1982~85)』『簡易保険郵便年金研究会著『早わかりガイド 簡易保険・郵便年金新100問100答』(1988・ぎょうせい)』『山口修著『創業75年簡易保険事業史稿』(1991・簡易保険郵便年金加入者協会)』『小野英子著『郵便局ゆうゆう活用術――貯金・簡易保険・サービスのすべて』(1995・実業之日本社)』『数理研究会著『簡易保険の保険数理入門』第2版(1995・国際通信経済研究所教育センター)』『簡易保険加入者協会編『創業80周年記念 簡易生命保険事業史』(1996・簡易保険郵便年金加入者協会)』『郵便サービス研究会著『図解 郵便局がまるごとわかる本――郵便サービス・郵便貯金・簡易保険』(1998・東洋経済新報社)』『郵政省簡易保険局編・刊『簡易保険'98』(1998)』『深尾光洋・日本経済研究センター編著『生保危機の真実――民保が弱く簡保が強いのはなぜか』(2003・東洋経済新報社)』『郵政民営化研究会編『郵政民営化ハンドブック』(2006・ぎょうせい)』『満野龍太郎著『業界の最新常識 よくわかる保険業界』(2006・日本実業出版社)』『野村健太郎著『郵政民営化の焦点――「小さな政府」は可能か』増補新訂版(2007・税務経理協会)』

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百科事典マイペディア 「簡易生命保険」の意味・わかりやすい解説

簡易生命保険【かんいせいめいほけん】

簡易生命保険法(1949年)に基づく国営保険。1916年創始。日本郵政公社(もとは郵政省)の管轄で,全国の郵便局が募集。終身保険,定期保険,養老保険,家族保険,財形貯蓄保険のほか,1991年の改正で郵便年金が年金保険として統合された。生命保険の契約には医師の診査が必要ではなく,申込の承諾があれば,申込の日に成立。保険料は月掛集金で,保険金額は原則として15歳以下は700万円,16歳以上は1000万円で,加入後4年以上経過しているものについては300万円を未算入とし,通算1300万円まで可能。この保険事業は特別会計とされ,その積立金は公共の利益のために運用されることとされている。 2005年に成立した郵政民営化法案では,これら保険事業は郵便保険会社として分離独立させ,他の3分社とともに持株会社の傘下に入ったのち,2017年に完全民営化したうえ,郵便貯金銀行の株とともに買い戻して継続保有の道を開くという複雑な過程を想定している。
→関連項目簡易保険郵政省郵政民営化郵便局

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「簡易生命保険」の意味・わかりやすい解説

簡易生命保険
かんいせいめいほけん
home service life insurance

加入は無診査,保険料は月払いまたは週払いの集金制をとる小口の生命保険。単に簡易保険ともいう。イギリスで 19世紀中頃,生命保険会社によって開発された。当初,保険を必要としながらも低所得で保険料支払能力を欠く工場労働者を対象に,労働者の生計状態に適応するよう無診査加入,低額保険料,週・月払い集金制をとる少額の保険だった。日本では政府が簡易生命保険法に基づいて実施していた非営利の国営保険をいい,2007年まで日本郵政公社が管理していた。契約締結が簡易なところからこの名称が使われた。1916年に政府の独占事業として実施され,全国民を対象とする社会保険制度を欠いていた当時にあっては,社会保険の代替的効果を果たすとともに,国民の零細な資金を吸収し,それを産業振興のために利用するという政策的意図をもつものであった。第2次世界大戦後は政府の独占が廃止されるとともに,簡易保険の保障内容,保障水準も拡充され,民営の生命保険と大差のないまでに成長した。しかし 2007年10月,日本郵政公社の民営・分社化により簡易生命保険法が廃止され新規契約は終了し,管理業務が独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構に引き継がれ,保険契約が消滅するまで同機構で管理することになった。民営化により発足したかんぽ生命保険は,保険金支払などの事務にあたるほか,簡易生命保険とは異なる,一般の保険商品を扱っている。

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保険基礎用語集 「簡易生命保険」の解説

簡易生命保険

郵便局で取り扱っている国営の生命保険を指します。一般には、無診査扱い、保険料月払いあるいは週払い、集金制度による保険金額の少ない小口の生命保険ことさして使われる場合がほとんどです。

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世界大百科事典(旧版)内の簡易生命保険の言及

【簡易保険】より

… 日本の場合には,戦前この種の保険を国家が独占事業として行い,簡易保険の名称を用いたため,国営の無診査・月払い・集金制の小口の生命保険を簡易保険と称することが通例となっている。日本の簡易生命保険は,1916年に創設されたが,簡易生命保険法(1949公布)に,〈国民に簡易に利用できる生命保険を,確実な経営によりなるべく安い保険料で提供し,もって国民の経済生活の安定を図りその福祉を増進する〉(同法1条)とあるように,国が実施する非営利の保険事業であり,郵政省簡易保険局が所管している。簡易保険契約は,国が保険契約者または第三者の生死について保険金を支払うことを約し,その対価として契約者が国に保険料を支払うことによって成立する。…

【生命保険】より

…あらかじめ定められた一定の金額を支払う定額保険の代表的なもので,実際に生じた損害を塡補(てんぽ)する損害保険と区別される。また,社会保険により行われる死亡給付,養老給付も生命保険に属するが,実際には私保険として行われるものだけを生命保険といい,日本では,民営保険会社で行われるものと郵政省が行う簡易生命保険とがある。協同組合などによって行われる生命共済も実質的には私保険といえる。…

※「簡易生命保険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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