米市
よねいち
狂言の曲名。雑(ざつ)狂言。大晦日(おおみそか)、世話になっている家に歳暮の挨拶(あいさつ)に行った男が、年越しの米と妻への土産(みやげ)に小袖(こそで)をもらう。米俵を背負いそれに小袖を羽織って帰る姿が、いかにも由緒ありげな娘を連れているように見え、通りかかった若者たちが声をかける。男が背の荷物にちなんで「俵藤太(たわらとうた)のお娘御(むすめご)、米市御寮人のお里帰り」としゃれて答えると、若者たちは有名な美少女ならぜひとも盃(さかずき)を頂きたいものだと迫る。困った男は棒を振り回して追い散らすが、小袖に包まれたのが米俵とばれてしまい、若者たちは拍子抜けして帰ってしまう。一人舞台に残された男、やおら米俵を高々と担ぎ上げ、お前たちには興味なくても自分にはたいせつな年取り物だと誇らしげにいって終曲。中世庶民の切実な年越し風景をほのぼのと描き、詩情を残す作品である。
[油谷光雄]
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よねいち【米市】
狂言。各流。生活に困っている男(
和泉流では
太郎)が大晦日にいつも世話をしてくれる人から米と小袖をもらい、米俵の上に小袖をかけて背負って帰る。
途中、若者たちに背負っているのは誰だと問われて、俵藤太の娘米市御寮人だと答える。うわさに高い美人なので若者たちは見ようとし、見せまいとする太郎と争ううちに俵であることがばれる。「
天正狂言本」では「米借
(よねかり)」。
こめ‐いち【米市】
※浮世草子・好色一代女(1686)五「万の相場定まりて、米市(コメイチ)の人立もなくて」
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よねいち【米市】
狂言。男が米俵に小袖を着せて背負って行くと、若者たちにとがめられ、「俵藤太のお娘御、米市御寮人の里帰り」と答えるが見破られる。
こめ‐いち【米市】
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こめいち【米市】
米穀の集散地や消費地に成立した米穀取引市場。室町時代には当時最大の米消費市場であった京都に,三条室町と七条に上下米場の成立を確認しうる。これらは京の諸口を通って入ってくる諸国廻米を独占的に取引した卸売市場で,上下両米場座商人がそこで独占的な営業を行い,洛中の米小売商人たちに卸売していた。当時京都には四府に所属する駕輿丁(かよちよう)のなかに多数の特権的な米商人がいたが,彼らがおそらく米場座を結成していたものと思われる(米座)。
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世界大百科事典内の米市の言及
【湘潭】より
…1949年に市となった。湘江の湾曲点にあり,水量豊富で船の碇泊に便利なため,古来水陸交通の要衝として知られ,湘江流域および江西省西部の物産の大集散地として商業活動が活発で,米の取引が盛んであり〈米市〉とも呼ばれた。おもな移出品は米,茶,桐油,夏布,薬材,紙などである。…
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