組歌(読み)くみうた

精選版 日本国語大辞典 「組歌」の意味・読み・例文・類語

くみ‐うた【組歌】

〘名〙 近世邦楽で、既成歌詞を組み合わせて一曲にまとめ、新しく作曲した歌。三味線組歌と箏組歌とがある。くみ。
随筆・嬉遊笑覧(1830)六上「〔顰草〕〈略〉筑紫楽といふは、今の組歌の一歌づつのものとみゆ」

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デジタル大辞泉 「組歌」の意味・読み・例文・類語

くみ‐うた【組歌/組唄】

三味線そうで、既成の歌詞をいくつか組み合わせて1曲に作曲したもの。地歌(三味線組歌)・箏曲こと組歌)の最古形式修業の便宜上、表組裏組などに分類している。組。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「組歌」の意味・わかりやすい解説

組歌
くみうた

日本音楽用語。地歌、箏曲(そうきょく)の曲種名で、それぞれ「三味線組歌」「箏(こと)組歌」とよんで区別しているが、通常「組歌」というと後者をさす。いずれも日本における最古典の歌曲であるが、音楽的性格は異なる。既存の小編歌謡の歌詞をいくつか組み合わせて一曲にし、三味線あるいは箏の伴奏で歌うので組歌といわれるが、のちにはこの形式に従って組歌として作曲されたものもある。

 組歌は、本来は盲人音楽家の職格のための必修曲であり、その伝授段階あるいは免許取得段階として、三味線組歌は表(おもて)組・破手(はで)組・裏組・中組・奥組、箏組歌は表組・裏組・中許(なかゆるし)・奥許・秘曲などに組分け(分類は流派により多少異なる)されたので、この意味でも組歌という(この意味での組歌は胡弓(こきゅう)楽にも存在する)。この場合の箏組歌には、歌のない段物なども付物(つけもの)として含まれる。

 現在の地歌、箏曲の諸流派は、元来はそれぞれの組歌の伝承経路を示すものであり、地歌においては寛永(かんえい)(1624~44)ごろまでに成立した表組をはじめとする三味線組歌(三味線の伝承規範曲という意味で「三味線本手」ともよばれる)の伝承系譜をもって、柳川(やながわ)流と野川流に分かれる(ただし曲目異同がある)。また箏曲においては八橋検校(やつはしけんぎょう)が慶安(けいあん)(1648~52)ごろに完成した八橋十三組(『菜蕗(ふき)』『梅が枝(え)』ほか11曲)の伝承を諸流派の始まりとしているが、その後も組歌の作曲が諸検校によって行われ、江戸中期には新作がいったん禁止されたともいわれる。江戸末期になると組歌の創作は少なくなったが、そのなかで光崎(みつざき)検校の天保(てんぽう)組(『秋風の曲』のこと)や、吉沢検校(2世)の古今組(『千鳥の曲』など5曲)など、異系統ではあるが、組歌形式の楽曲もつくられている。

[由比邦子]

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百科事典マイペディア 「組歌」の意味・わかりやすい解説

組歌【くみうた】

地歌箏曲の曲種分類用語。もともとは独立した小編歌謡を数首組み合わせて歌詞とした曲種。三味線組歌と箏組歌とがある。前者は室町末期〜江戸初期に作曲されたもので,日本における三味線の楽器改良に関与したと伝えられる石村検校〔?-1642〕またはその門下の虎沢検校〔?-1654〕の創始という。柳川流と野川流の2流が今日に伝わる。現行曲数は柳川流は6曲ばかりであるが,野川流では32曲。後者は江戸初期に八橋検校が作曲した13曲が最古で,江戸中期までに60曲以上作られている。両者とも初期のものは単に歌を組み合わせただけであったが,後期になると,一貫した歌詞による組歌も生まれた。一般に三味線組歌は同時代の流行歌謡を歌詞とし,その歌数・拍子数が不定であるのに対し,箏組歌は和歌文学などに材を求め,上品で各歌の拍子数が一定している。いずれも地歌・箏曲における最古典曲種で,伝承上の規範曲として重視された。
→関連項目長歌菜蕗

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改訂新版 世界大百科事典 「組歌」の意味・わかりやすい解説

組歌 (くみうた)

日本音楽の形式名称,分類用語。おもに箏曲,地歌に用い,小編の歌をいくつか組み合わせたものをいう。八橋検校以降の箏組歌は4句からなる歌を四つから七つ組み合わせて1曲とし,各歌の拍数は等しく,類型的な楽曲構造を有する。三味線組歌は本来独立していた種々の歌を組み合わせたもの。組歌は箏,三味線ともに伝承教習上の規範曲として重要視され,本手組,破手組あるいは,表,裏,中,奥などの段階に分類されるようになった。この分類には,箏組歌の付物(つけもの)である段物や弄斎(ろうさい)物も含まれる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「組歌」の意味・わかりやすい解説

組歌
くみうた

地歌箏曲における楽曲分類名称。組唄とも書く。いくつかの独立した歌を組合せて1曲としたものをいう。 (1) 地歌では,三味線本手または三味線組歌といい,17世紀初めに石村検校または虎沢検校らが作曲,その後柳川検校らが追加整理した最古典曲で,三味線による芸術的な声楽曲の最古の楽曲類でもある。その後京都では柳川流,大坂では野川流として,曲目,歌詞,免許組織に異同を生じながら伝承され,地歌三弦伝承のための規範曲となった。現在,野川流では 32曲がすべて伝承されてきており,表組,破手組,裏組,中許,大 (奥) 許と分類されている。 (2) 箏曲では,箏組または箏組歌といい,原則として六四または七五調4句形式の歌を6首ずつ組合せて1曲とし,1歌は 128拍 (64拍子) で,特定の作曲形式による。八橋検校作曲の 13曲以下,箏曲伝承の規範曲として,流派によって曲目,組織などに異同があるが,現在 30曲以上伝えられてきている。表,裏,中,奥などに分類され,ほかに付物として段物や砧物などの器楽曲その他が付随する。

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世界大百科事典(旧版)内の組歌の言及

【裏組】より

…邦楽の分類用語。とくに箏・三味線の組歌の分類に用いる。組歌は箏・三味線ともに伝承教習上の規範曲として重要視され,楽曲の構造,風格,難易度などにより分類されるようになった。…

【箏曲】より

…狭義には,雅楽の箏に対して,近世以降の箏伴奏の歌曲と,それに付随する器楽曲をいい,最も狭義には,盲人音楽家を伝承・教習の中心として普及し,地歌と関連して発展してきた芸術的な室内音楽をいう。
[歴史と分類]
 寺院芸能の一つとして行われていた〈越天楽歌物(えてんらくうたいもの)〉の類の歌曲を,組歌形式の箏伴奏のものに編集したのは,筑紫善導寺の僧の賢順であった。以後,この歌曲を,〈筑紫箏(つくしごと)〉ないし〈筑紫流箏曲〉といった。…

※「組歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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