(読み)シ

デジタル大辞泉 「肆」の意味・読み・例文・類語

し【肆】[漢字項目]

[音]シ(呉)(漢) [訓]ほしいまま みせ
かって気まま。ほしいまま。「放肆
みせ。「酒肆書肆
数字「四」の大字。「金肆拾万円」

いち‐くら【×肆/市座】

《「いちぐら」とも》奈良平安時代、市で取引のために商品を並べた所。
市人よもより集ひて、自然に―をなせり」〈出雲国風土記

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「肆」の意味・読み・例文・類語

いち‐ぐら【肆】

  1. 〘 名詞 〙 ( 古くは「いちくら」。市座(いちくら)の意。座(くら)財物を置く所 ) 古代に、市場売買交換のために、商品を並べて置いた所。市の蔵。のちに、商いの店。〔新訳華厳経音義私記(794)〕
    1. [初出の実例]「今日は肆(いちぐら)の辺に水をうしなふ枯魚の如し」(出典平家物語(13C前)七)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

普及版 字通 「肆」の読み・字形・画数・意味


13画

(異体字)
15画

[字音] シ・イ
[字訓] つらねる・みせ・ほしいまま

[説文解字]
[金文]

[字形] 会意
正字はに作り、(ほう)+隶(たい)。は髟、長髪のものをいう。はその獣尾をもつ形。獣尾をとらえることを(逮)という。隶は手が尾に及ぶ意。字の構造は隷と似ており、隷は呪霊のある獣を用いて、禍殃を他のものに転移する呪儀。これによって禍殃を他に移すことを「隷(つ)く」といい、転移されたものを隷といい、隷属・奴隷の意となる。肆はおそらくこれによって人に死をもたらすもので、〔説文〕九下に「極陳なり」と訓し、隶声とする。極は、極陳とは殺して肆陳することをいう。〔周礼、秋官、掌戮〕に「そ人をは、(こ)れを市に(たふ)し、之れを肆(さら)すこと三日」とあり、それが字の原義。それより肆陳・放肆の意となり、肆赦の意となる。〔左伝、昭十二年〕「昔、穆王其の心を肆(ほしいまま)にせんと欲す」とは放肆、〔書、舜典〕「災(せいさい)は肆赦す」は赦免の意である。金文にこの字を〔毛公鼎〕「肆(ゆゑ)に皇天(いと)ふこと(な)し」のように接続の語に用い、〔詩、大雅、抑〕「肆に皇天(つね)とせず」というのと語法同じ。人を肆殺することが字の原義。他は引伸・仮借の義である。

[訓義]
1. ころす、ころしてさらす。
2. つらねる、ならべる。
3. ほしいまま、ほしいままにする、きわめる、わがまま。
4. ゆるやか、大きい、ながい。
5. ゆえに、まことに、ここに。
6. みせ。

[古辞書の訓]
和名抄〕肆 伊知久良(いちくら) 〔名義抄〕肆 イチクラ・ホシイママ・シク・ツキヌ・ツヒニ・カルガユヱニ・シカルガユヱニ・カルガユヱニイマ・ノブ・ナラス・トク・トシ・オカシ・ツク・ツトム・ヤマシ・スツ・ナラナフ・ナラフ・ツラヌ・タヘタリ・スス・イマ・ホドコス・イマシム・アキラカニ・ヒコバユ・ユルス・ナラフ・カタシ・モチヰル

[語系]
肆siet、死sieiは声義近く、尸(し)・屍sjieiもまた同系の語である。肆陳の陳dienもその系列に入りうるものであろう。また恣tzieiと声が通じ、肆の引伸義として恣縦の意がある。矢陳(つらねる)の意は、矢sjieiと通ずるものであろう。

[熟語]
肆意・肆飲・肆・肆夏肆既・肆器・肆議・肆虐・肆逆・肆凶・肆極・肆勤・肆刑・肆献・肆口・肆好・肆行・肆志・肆侈・肆尸・肆祀・肆赦・肆奢・肆手・肆章・肆縦・肆情・肆心・肆人・肆・肆然・肆咤・肆惰・肆体・肆大・肆宅・肆断・肆直・肆廛・肆店・肆・肆毒・肆任・肆筆・肆吻・肆忿・肆放・肆暴・肆目・肆野・肆宥・肆欲・肆覧・肆詈・肆掠・肆流・肆力・肆戻・肆列
[下接語]
安肆・横肆・開肆・楽肆・玩肆・旧肆・居肆・魚肆・矜肆・強肆・驕肆・軽肆・古肆・肆・広肆・荒肆・講肆・市肆・志肆・咨肆・自肆・奢肆・酒肆・書肆・舒肆・縦肆・城肆・井肆・正肆・惰肆・泰肆・茶肆・朝肆・陳肆・店肆・騁肆・放肆・卜肆・夜肆・羊肆・欲肆・陵肆・隣肆・列肆

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【商業】より

…市の商店は同種同業のものが集まって,一つの町をつくるのが原則であった。この同業商店の町を,秦・漢時代には肆(し)あるいは列と呼び,隋・唐から宋代にかけては行と呼んだ。行には首長がいて行内商店の取締りに任じたが,彼らは行頭または行首と称せられた。…

※「肆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android