かた‐ぎぬ【肩衣】
〘名〙
① 袖なしの
胴衣(どうぎ)。胴肩衣。袖無し。手無し。
※
万葉(8C後)五・八九二「布可多衣
(ぬのカタぎぬ) ありのことごと 着襲
(きそ)へども」
② 束帯の
半臂(はんぴ)に似た
上着。
素襖(すおう)の
略装として用い、軍陣には
甲冑(かっちゅう)の上に着ける。
※鎌倉殿中以下年中行事(1454か)一二月朔日「公方様御発向事〈略〉
金襴の御肩衣」
③
江戸時代の
武士の公服の一部。袴と合わせて用い、
上下同地同色の場合は裃
(かみしも)といい、相違するときは
継裃(つぎがみしも)と呼び、上を肩衣といって区別する。
※山鹿語類(1665)二一「而して袍のかはりに肩衣を着し、下に袴を着して其の
たけを短くし、足の出入を利す」
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デジタル大辞泉
「肩衣」の意味・読み・例文・類語
かた‐ぎぬ【肩▽衣】
1 古代、庶民が着た、丈が短い袖無しの上着。袖無し。手無し。
2 室町末期から素襖の略装として用いた武士の公服。素襖の袖を取り除いたもので、小袖の上から着る。袴と合わせて用い、上下が同地質同色の場合は裃といい、江戸時代には礼装とされ、相違するときは継ぎ裃とよんで略儀とした。
3 門徒の信者が看経の際に、着流しで肩に羽織るのに用いる衣。
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かたぎぬ【肩衣】
肩までの短衣,つまり袖なしの衣服で,古くから庶民の間で着られたものらしく,《万葉集》巻五の山上憶良の〈貧窮問答の歌〉の中に〈綿毛奈伎布可多衣(わたもなきぬのかたぎぬ)〉とあるのも,麻などのそまつな単(ひとえ)の肩衣であったにちがいない。正倉院に伝えられている袖なしの布衫(ふさん)(麻製の肌着)や平安時代以後の庶民の着た〈手無〉なども,これと同類のものであろう。しかし近世以後における肩衣は,このような衣服の下に着る袖なしの下着や袖のない衣服そのものではなくて,むしろ古い時代の〈襅(ちはや)〉〈小忌衣(おみごろも)〉,あるいは門徒宗徒や巡礼が用いる白布の袖なしのように,主要衣服である小袖の上に補助衣的ないしは浄衣(じようえ)的な意味をもって着用されたもののようである。
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肩衣
かたぎぬ
袖(そで)なしの上衣。古代、中世には「手なし」ともいわれ、素朴な衣服で、庶民の間で盛んに用いられた。一方、中世後期に、武家の服装の種類が多くなり、礼装となった直垂(ひたたれ)系衣服の広袖化とともに、その一つである素襖(すおう)の袖を取り除き、公服として用いるようになった。さらに、その肩衣と袴(はかま)を同色同質の上下対(つい)として準正装とした。江戸時代には、裃(かみしも)に変形し、正装として用いられることとなった。
[高田倭男]
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肩衣【かたぎぬ】
袖(そで)なしの短衣。古くから庶民の間で手なし,胴着等の名で着用された。しかし室町・桃山時代の肩衣はこのような袖なしの下着や袖のない衣服そのものではなく,小袖・袴(はかま)の上に補助衣的に着用されたものをいう。これが発展し形式化したものが後の武士の肩衣袴・裃(かみしも)の姿である。→裃
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肩衣
かたぎぬ
原始衣の貫頭衣から発展した簡単な衣服。袖なしの短い上衣で,『万葉集』には木綿肩衣とあり,庶民生活のなかで胴着として長い歴史をもっている。近世では,素襖 (すおう) の袖を取去って礼服化したものを肩衣と呼び,これがのちに裃 (かみしも) へと変った。
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肩衣
かたぎぬ
袖がなく肩と背をおおう衣服
室町時代以後直垂 (ひたたれ) や素襖 (すおう) から変化,袴とともに,小袖の上に着用した。江戸時代には上下 (かみしも) として武士の正式の礼服となった。
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世界大百科事典内の肩衣の言及
【裃∥上下】より
…もとは上に着る衣と下にはく袴,つまり上下2部で1具をなす衣服をいい,ふつう〈何色の上下〉などというように,衣と袴が共布(ともぎれ)でできている場合をこのように称した(イラスト)。したがって,ただ〈上下〉といった場合は直垂(ひたたれ)でも素襖(すおう),大紋でもいいわけであるが,近世になって肩衣(かたぎぬ)と袴が武士の間で公服として一般に行われるようになると,これが共布でできているものをとくに〈裃〉といった。裃は素襖から両袖を取り除いたような形のもので,その起源に関しては,たとえば足利義満のときに正月元日に合戦が始まったために,参賀に出仕していた人々がその場で素襖の袖や袴をくくり上げたことに始まるというようなことがいくつかいわれているが,いずれも信ずるにたりない。…
※「肩衣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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