六訂版 家庭医学大全科 「脳・神経疾患の手術適応」の解説
脳・神経疾患の手術適応
のう・しんけいしっかんのしゅじゅつてきおう
Surgery for neurological diseases
(お年寄りの病気)
①
急に手足の動きが悪くなったので外来を受診した高齢者に脳血管障害が疑われた時や、最近とみに物忘れが進んだので家族が心配して本人を物忘れ外来に連れてきた時などに、CT検査で思いがけず慢性硬膜下血腫が発見されることがあります。
高齢者が、畳の上で転んで頭を打ったくらいの軽い外傷を負った場合、その1~2カ月後に慢性硬膜下血腫を生じることがあります。けがを忘れていたり、けががはっきりしないこともしばしばあります。頭蓋骨のなかで、脳組織をおおう硬膜とくも膜の間にたまる血腫で、大脳半球にできることが多く、2~3割は左右両方にできます。頭蓋内の血腫が大きくなると脳組織を外から圧迫して、
治療は局所麻酔下の短時間の手術です。頭蓋骨に直径1㎝の穴をあけて、液状の血腫を取り出します。術後すぐに神経症状は改善します。時期を失せず適切な治療を受けると、非常に予後のよい疾患で、重大な余病がないかぎり手術するのに年齢制限はありません。
ただし、たまたま見つかっても神経症状が現れていない少量の血腫の場合は、経過観察を行います。血腫が大きくなれば手術が必要ですが、そうでなければ自然経過によって、1~2カ月で血腫が消えていきます。もちろん、CTによる経過観察が必要です。
②
歩行障害や認知障害、尿失禁を示し、画像診断で脳室拡大の進行が認められる高齢者が、
高齢者に特有な特発性正常圧水頭症は、脳脊髄液の循環障害が原因と考えられ、術前の髄液排除試験の結果から、シャント術を行うかどうかを決めています。手術によってよくなるのは主に歩行障害です。なお、くも膜下出血のあとに生じる続発性の水頭症には、シャント術が非常に有効です。
③
高齢者の脳腫瘍で最も多いのは、良性腫瘍である
たまたま見つかった無症候性(症状がない)の髄膜腫は、すぐに手術をしないで経過を観察します。大きくならないことが多いからです。もちろん、増大して神経症状が現れれば手術を考えるべきです。
高齢者でも、視力視野障害(両耳側
高齢者の
高齢者の転移性脳腫瘍やグリオーマ、原発性脳悪性(げんぱつせいのうあくせい)リンパ腫(しゅ)は、腫瘍の塊の除去と病理診断のために手術をする場合がありますが、いずれも悪性度が高く、予後は不良です。
高齢者のくも膜下出血が増えています。破裂した
脳動脈瘤に対するコイル
MRIの普及により、高齢者で無症候性の未破裂脳動脈瘤がよく見つかるようになっています。ガイドライン(日本脳ドック学会)では、患者さんの年齢が70歳以下で、5㎜以上の大きさの脳動脈瘤については手術をすすめています。脳動脈瘤の破裂率(年間1%くらいといわれている)と手術の危険性(死亡率と麻痺などの合併症の発生率)を比べて、手術するかどうかを決めます。
いずれにしろ、医師からの十分な説明を受けて、患者さん自身の判断で手術を受けるかどうか決めることが重要です。別の医師のセカンドオピニオンを聞いてみることも大切でしょう。手術を受けない場合も、動脈瘤がいつ破れるかと心配な時は、心のケアをしてもらうことも必要です。
高齢男性に多い
⑤その他
小林 秀
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報