腸閉塞(読み)チョウヘイソク(その他表記)Intestinal obstruction (Ileus)

デジタル大辞泉 「腸閉塞」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐へいそく〔チヤウ‐〕【腸閉塞】

腸管通過が妨げられる病気腸腫瘍ちょうしゅよう・腸内異物腸捻転ちょうねんてん腸痙攣ちょうけいれんなどによって起こり、激しい腹痛嘔吐おうとガス便通停止腹部膨満などがみられ、急速に全身状態が悪化する。イレウス

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精選版 日本国語大辞典 「腸閉塞」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐へいそくチャウ‥【腸閉塞】

  1. 〘 名詞 〙 腸管の一部が狭窄あるいは閉塞して腸の内容物が通らなくなる状態。腸捻転腸重積、腸癒着などが原因で起こる。激しい腹痛と同時に便通・ガスの排出が止まる。嘔吐が激しくなると便を吐く。熱は普通ない。ガスがたまってふくれた腸の動きが外からみえるようになり、ついにはショックに陥ったり腹膜炎を起こし、死にいたる。

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六訂版 家庭医学大全科 「腸閉塞」の解説

腸閉塞(イレウス)
ちょうへいそく(イレウス)
Intestinal obstruction (Ileus)
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 口から摂取した飲食物は、胃、小腸、大腸を通って消化・吸収され、便となって肛門から排泄されます。また、唾液や胃液をはじめとする消化液が、1日数ℓも胃腸のなかに分泌されますが、これも小腸や大腸で吸収されて残りは便とともに排泄されます。

 これらの食べ物や消化液の流れが小腸や大腸で(とどこお)った状態、すなわち内容物が腸に詰まった状態が腸閉塞です。腸が拡張して張ってくるため、おなかが張って痛くなり、肛門の方向へ進めなくなった腸の内容物が口の方向に逆流して吐き気を催し、嘔吐したりします。腸閉塞は、吐き気・嘔吐を伴う腹痛が現れる最も代表的で一般的な病気です。

原因は何か

 原因が腸の外側にある場合と、内側にある場合があります。

 腸の外側に原因がある場合とは、腸が外側から圧迫されたり、ねじれたりする場合です。腹部を切る開腹手術を受けたことのある患者さんでは、腸と腹壁、腸同士の癒着が必ず起こりますが、癒着の部分を中心に腸が折れ曲がったり、ねじれたり、癒着部分でほかの腸が圧迫されたりして腸が詰まる場合が最も一般的です。

 そのほか、高齢の女性では、大腿ヘルニアと呼ばれる脱腸の一種でも腸閉塞になります。内ヘルニアと呼ばれるおなかのなかのさまざまなくぼみに腸がはまり込む病気でも、腸が詰まることがあります。まれに、腸自体が自然にねじれて詰まることもあります(腸捻転(ちょうねんてん))。

 腸自体が圧迫されたり、ねじれたりするだけでなく、腸に酸素や栄養分を送る血管が入った膜(腸間膜(ちょうかんまく))も圧迫されたり、ねじれたりして血流障害を起こしたものを「絞扼性(こうやくせい)腸閉塞」と呼びます。これは早期に手術を行わないと死に至ります。

 腸の内側に問題がある場合としては、大腸がんによる閉塞があり、高齢者で便秘傾向の人では硬くなった便自体も腸閉塞の原因になります。

症状の現れ方

 突然、激しい腹痛と吐き気・嘔吐が起こります。おなかが張り(膨満(ぼうまん)膨隆(ぼうりゅう))、やせた人では腸がむくむくと動くのが、おなかの外から見えることもあります。多くの場合、腸が詰まった瞬間に突然発症します。

 腹痛は、きりきりと強い痛みが起こり、しばらくすると少し和らぎ、これを繰り返す「疝痛(せんつう)発作」と呼ばれる特徴的なものです。

 嘔吐の吐物は、最初は胃液(白色から透明で酸っぱい)や胆汁(黄色で苦い)ですが、進行すると腸の奥(小腸や大腸)から逆流してきた腸の内容物となり、下痢便のような色合いで便臭を伴うようになります(吐糞症(とふんしょう))。嘔吐の直後は、いったん腹痛や吐き気が軽くなることが多いようです。

 腸間膜も圧迫されたり、ねじれたりする絞扼性腸閉塞では、激しい腹痛が休まることはなく、時間とともに顔面蒼白、冷汗、冷感もみられ、脈や呼吸も弱く速くなり、ショック状態になります。

検査と診断

 X線、超音波、CT検査を行います。腸だけでなく、腸間膜も圧迫されたり、ねじれたりする絞扼性腸閉塞と区別することが大切ですが、この区別は時に困難です。絞扼性腸閉塞が疑われ、その疑いが晴れなければ、手術に踏み切ります。

治療の方法

 絞扼性腸閉塞でなければ、ほとんどは手術以外の方法(保存的治療)で治ります。食事や飲水を中止し、胃腸を休め、十分な補液を行います。

 病状が進行して、腸の張りが強くなった場合は、鼻から胃や腸まで管を入れ、嘔吐のもととなる胃や腸の内容物を体の外に汲み上げます。腸の張りが少なくなれば、腸から吸収され快方に向かいます。

 おならや便が出れば、腸の通過障害は一応治ったことになりますが、腸が詰まった原因、つまり癒着や腸がはまり込んだおなかのくぼみは治らないため、再発の危険は残ります。

 手術的治療は、おなかを切ることで新しい癒着をつくることになり、腸閉塞にいっそうなりやすくしてしまうため、避けるのが一般的です。手術が必要な場合は、腸の血管が圧迫されたり、ねじれたりする絞扼性腸閉塞や、保存的治療を1週間以上続けてもよくならない場合、何度も腸閉塞を繰り返す場合などです。

病気に気づいたらどうする

 自然に治ることはないので、早めに病院の外科を受診する必要があります。がまんして様子をみて、夜間や休日になってから病院を受診しても、適切な治療を受けられないこともあります。症状が激しければ救急車を要請します。

 おなかの手術後の癒着による腸閉塞では、体調がすぐれない時には食事内容を軟らかい消化のよいものにするなどの工夫は必要ですが、完全に予防する方法や注意点はありません。

杉山 貢

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家庭医学館 「腸閉塞」の解説

ちょうへいそくいれうす【腸閉塞(イレウス) Ileus】

◎機械的腸閉塞が9割を占める
[どんな病気か]
 いろいろな原因で腸管がふさがり、腸の内容物(食物、消化液、ガス)が通過しなくなる状態をいいます。腸の内容物がたまるために腹部が張って吐(は)き気(け)や嘔吐(おうと)がおこり、腸管が拡張したりねじれたりするため、腹痛も生じます。
 腸閉塞になると、食事ができないだけでなく、栄養や水分を腸から吸収できなくなり、嘔吐(おうと)によって消化液が失われ、さまざまな障害が生じます。ときには腸が壊死(えし)をおこし、腹膜炎を併発して死亡することもあります。
 腸閉塞は、その原因から、機械的腸閉塞と機能的腸閉塞に分類されます。
 機械的腸閉塞には、単純性腸閉塞と複雑性腸閉塞が、機能的腸閉塞には、まひ性腸閉塞、けいれん性腸閉塞があります。
 機械的腸閉塞は、がんや異物などで腸管内腔(ないくう)が閉塞されたり、腸管が癒着(ゆちゃく)、ヘルニア、捻転(ねんてん)、重積(じゅうせき)のどれかをおこすことが原因でおこります。そして、腸管内容の通過障害だけがおこり、血行障害をともなわないのが単純性腸閉塞で、ともなうのが複雑性腸閉塞です。
 腸閉塞は、急性腹症(きゅうせいふくしょう)(原因がわかるまでの腹痛の呼び名)のなかで、急性虫垂炎(ちゅうすいえん)についで頻度の多いものです。そのうち、機械的腸閉塞が90%を占め、単純性腸閉塞がその半数以上を占めています。単純性腸閉塞の原因は、開腹手術による癒着性腸閉塞がもっとも多く、つぎが大腸がんです。
[症状]
 おもな症状は腹痛、嘔吐と、排便・排ガスの停止です。
 腹痛はさしこむような痛み(疝痛(せんつう))が特徴です。また腹部が膨満して腸がごろごろ鳴ります。
 複雑性腸閉塞では全身状態が急速に悪化し、頻脈(ひんみゃく)、発熱、脱水、尿量の減少がみられます。
 このような症状がみられたら、すぐに受診する必要があります。受診先は、緊急手術が必要になる場合もあるため、消化器外科をお勧めします。
[検査と診断]
 造影剤を使用しない腹部単純X線検査で拡張した腸管を調べ、腸内ガス像と鏡面像(きょうめんぞう)(反射像)がみられれば診断がつきます。大腸の閉塞では、小腸だけでなく大腸も拡張します。大腸の閉塞は大腸がんが原因のことも多いため、肛門(こうもん)から造影剤を注入する注腸X線検査を行なって鑑別診断することがたいせつです。
 なお、治療法の決定には、単純性腸閉塞か複雑性腸閉塞かの診断(複雑性腸閉塞は緊急手術が必要)が重要ですが、X線検査だけでは困難なことが多く、症状や経過観察もたいせつです。
◎手術後は再癒着の予防を
[治療]
 まず絶飲食とし、イレウス管(吸引チューブ)を挿入して胃と腸管の内容を吸引排除します。また、脱水と電解質のアンバランスを補正するため、輸液が必要になります。
 単純性腸閉塞はこれらの治療で軽快することが多いのですが、症状が改善しないときや、さらに悪化するときは手術を行ないます。複雑性腸閉塞のときは緊急手術が行なわれます。
●手術後の養生
 早期離床(りしょう)がもっともよいとされています。早くからからだを動かすことで腸の運動が促進され、それによって腸管の再癒着がある程度予防できるからです。
[予防]
 手術後におこる癒着は、手術の種類にもよりますが、避けがたいものともいえます。しかし癒着がすべて腸閉塞をひきおこすわけではなく、疲労、暴飲暴食、下痢(げり)などが誘因となる場合もあります。そのため、生活の不摂生に注意します。

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百科事典マイペディア 「腸閉塞」の意味・わかりやすい解説

腸閉塞【ちょうへいそく】

イレウスとも。腸管内容物が通過しなくなる病気。腹部膨満,嘔吐(おうと),腹痛,ガスや大便の排出停止などの症状を呈し,進行すれば脱水状態,ショック状態に陥る。原因には機械的なものと機能的なものとがある。機械的腸閉塞は閉塞性と絞扼(こうやく)性に分けられ,前者は先天的異常,腸内異物,腸管癒着(ゆちゃく),腫瘍(しゅよう)などによって起こり,後者は手術や腹膜炎でできる索状物などによる腸管絞扼,腸捻転(ねんてん),腸重積症などによって起こる。機能的腸閉塞は腸管の痙攣(けいれん)や麻痺(まひ)によるもので,開腹手術後や薬物中毒,神経疾患,腹膜炎などで起こる。 胃液吸引,輸液・輸血などにより全身状態をよくし,脱水状態・ショック状態を改善する。機能的腸閉塞は手術しなくともなおるものが多いが,一般に機械的腸閉塞は早期手術により閉塞を除去する。特に絞扼性のものは血行障害から腸管壊死(えし)になる危険が大きく,早期に整復し,壊死腸管を切除する。腸重積,S状結腸捻転では高圧浣腸(かんちょう)も用いられる。
→関連項目周期性嘔吐症ストーマケア疝痛大腸ポリープ腸狭窄

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腸閉塞」の意味・わかりやすい解説

腸閉塞
ちょうへいそく

腸閉塞症、イレウスileusともいう。腸内容の通過が妨げられ、閉塞部の口側に腸内容が貯留し、腸管の拡張がおこる。拡張腸管は分泌亢進(こうしん)、吸収低下のため、いっそう拡張するという悪循環が成立し、急速に全身状態が悪化する。イレウスは機械的と機能的とに大別され、機械的イレウスの頻度が高い。機械的イレウスは腸管への循環障害の有無によって絞扼(こうやく)性と単純性とに分ける。イレウスの症状としては間欠性腹痛、吐き気、嘔吐(おうと)、腹部膨満、排便と排ガスの停止などがみられる。

 救急処置が必要で、まず腸内容を吸引排除して腸管内の減圧を図り、悪循環を断つ。水分、電解質の喪失には適正な輸液を行う。脱水による循環血液量減少に加えて、薄くなった拡張腸管から血中と腹膜腔(くう)への細菌の移行、腸管からの毒素の移行などと相まって敗血症、腹膜炎、エンドトキシンショックなど致命的な合併症に移行しうる。

 治療は腸内容の排除、適切な補液が術前処置として必要である。手術が必要かどうかは、イレウスが絞扼性か単純性かの鑑別診断によって決める。イレウス症状に加えて、高熱、白血球増多、腹膜刺激症状の進行などがあれば絞扼性の可能性が高く、腸管壊死(えし)、穿孔(せんこう)による腹膜炎がおこらないうちに手術して病因を除くようにする。イレウスの頻度は単純性の癒着性イレウス(開腹手術後の癒着によるもの)がもっとも高く、絞扼性のものは少ない。

[古味信彦]


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知恵蔵mini 「腸閉塞」の解説

腸閉塞

小腸や大腸がふさがり、内容物が通過できない状態のこと。イレウスともいう。食べ物などが詰まって腸がふくらみ、突然の激しい腹痛や吐き気・嘔吐などが起こる。手術後の癒着・腫瘍・異物誤飲などにより起こる「機械的イレウス」と、腹膜炎の腸管への波及や薬物中毒などにより腸管の神経が障害されて起こる「機能的イレウス」の二つがある。ほとんどの場合、絶食・絶水・補液し安静にすることにより治るが、腸の張りが強くなった時には鼻から管を通し胃や腸の内容物を排出する方法がとられる。これらにより効果がない場合や緊急の場合に限り、開腹手術が行われる。

(2016-1-20)

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改訂新版 世界大百科事典 「腸閉塞」の意味・わかりやすい解説

腸閉塞 (ちょうへいそく)

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栄養・生化学辞典 「腸閉塞」の解説

腸閉塞

 腸閉塞症,腸管閉塞,腸管閉塞症,イレウスともいう腸管の通過障害の症状を呈する疾患.

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世界大百科事典(旧版)内の腸閉塞の言及

【イレウス】より

…腸閉塞intestinal obstructionともいう。腸管の閉塞によって腸の内容物の輸送が障害される病気の総称。…

【腹痛】より


【急性の腹痛】
 医学的には急性腹症といい,上記の第2で述べた体性痛性の病気がこのうちに入る。穿孔(せんこう)性腹膜炎,腸閉塞,急性膵臓炎など緊急手術が必要な状態であることが多い。普通の食中毒や急性胃腸炎などの痛みとちがって,少しくらいの痛止めの注射(鎮痙剤)によっても痛みはおさまらず,あるいはいったんおさまった痛みがまたすぐ起こってくるものであって,自覚的にも病気の重大さに気づくことが多い。…

※「腸閉塞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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