(読み)ハラ

デジタル大辞泉 「腹」の意味・読み・例文・類語

はら【腹/×肚】

[名]
動物の、胸部と尾部との間の部分。胴の後半部。また、背に対して、地に面する側。人間では、胸から腰の間で中央にへそがある前面の部分。横隔膜と骨盤の間で、胃腸のある部分。腹部。「魚の―を割く」「中年になって―が出てきた」「―の底から声を出す」
胃腸。「食べ過ぎて―にもたれる」
(「胎」とも書く)母親が子を宿すところ。母の胎内。また、そこから生まれること。「子が―にある」「同じ―から生まれる」
(「胆」とも書く)
㋐考えていること。心中。本心。また、心づもり。「口は悪いが、―はそれほどでもない」「自分一人の―に納めておく」「折をみて逃げ出す―らしい」
㋑胆力。気力。また、度量。「―の大きい、なかなかの人物」「少しくらいのミスを許す―がなくては勤まらない」
感情。気持ち。「これでは―が収まらない」
物の中ほどの広い部分。また、ふくらんだ部分。「徳利とっくりの―」「転覆した船が―を見せる」
背に対して、物の内側の部分。「親指の―でつぼを押す」
定常波振幅が最大となるところ。⇔ふし
[接尾]助数詞。魚の卵巣、特に食用のはららごを数えるのに用いる。「たらこふた―」
[下接語]赤腹朝腹裏腹片腹ごう下腹白腹空き腹(ばら)あと追い腹扇腹男腹女腹陰腹かめかゆ下り腹小腹先腹里腹地腹自腹渋り腹じゃしわ太鼓腹茶腹詰め腹冷え腹ふとふな布袋ほてい負け腹水腹虫腹むしゃくしゃ腹無駄腹もち自棄やけ雪腹湯腹横腹わき(ぱら)朝っ腹きん銀腹空きっ腹ちゅうっ腹土手っ腹太っ腹向かっ腹自棄やけっ腹
[類語](1腹部おなか/(4)(5心中考え所見所懐所思所存存念存意料簡りょうけん思惑おもわく魂胆腹づもり思い一存

ふく【腹】[漢字項目]

[音]フク(呉)(漢) [訓]はら
学習漢字]6年
〈フク〉
はら。「腹腔ふくこう腹痛腹部割腹空腹鼓腹口腹私腹切腹捧腹ほうふく満腹
母胎。母親。「異腹同腹
物の中ほど。「山腹中腹
心。胸のうち。「腹案腹心腹蔵剛腹心腹
〈はら(ばら)〉「腹芸裏腹業腹ごうはら自腹蛇腹じゃばら水腹脇腹わきばら太鼓腹

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精選版 日本国語大辞典 「腹」の意味・読み・例文・類語

はら【腹・肚】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 動物の体のうち、胴の下半部。脊椎動物では、胸の横隔膜と腰の骨盤との間で、胃腸などを収めている部分。背に対して腹面をいう。また、胃腸。なお、背腹性を示す動物では、地面に面する側面をいう。
    1. [初出の実例]「御諸(みもろ)の その高城(たかき)なる 大韋子が原 大猪子が波良(ハラ)にある 肝向かふ 心をだにか 相思はずあらむ」(出典:古事記(712)下・歌謡)
  3. ( 「胎」とも書く ) 母体の、子が宿るところ。また、そこに子が宿っていること。懐妊した腹。転じて、その女の胎内から生まれたことや、その生まれた人。動物などにもいう。特に、魚類で、一匹の魚の腹に入っている卵全体を「ひと腹」という。
    1. [初出の実例]「是に其の産殿、未だ葺き合へぬに、御腹(はら)の急(すみやか)なるに忍びず」(出典:古事記(712)上)
    2. 「いやしき人のはらに生まれ給へる帝の御子」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)
  4. 祖先を同じくする血族。氏族。
    1. [初出の実例]「川辺腹男秦忌寸都理〈略〉田口腹女、秦忌寸知麻留女」(出典:本朝月令(10C中か)四月)
  5. 腹を切ること。切腹。→腹を召す
    1. [初出の実例]「にはかにぎゃくしんをくわ立、丹波より夜づめにして、本なふ寺へ押寄て、信長に御腹をさせ申」(出典:三河物語(1626頃)三)
  6. 心ばせ。心中。了見。心づもり。また、心の底。本心。
    1. [初出の実例]「心を推して人の腹(ハラ)に置くに在り」(出典:白氏文集天永四年点(1113)三)
  7. 胆力。度胸。きも。また、度量。包容力。
    1. [初出の実例]「そこは、男の方で腹を見せてやり給えな」(出典:沢氏の二人娘(1935)〈岸田国士〉)
  8. 腹が立つこと。立腹。
    1. [初出の実例]「傾城と見替へられたが腹」(出典:雑俳・口よせ草(1736))
  9. 物の中央部の広いところ。山の頂と麓(ふもと)の中間の部分や建造物の内部など、人体の腹にあたる部分とみなしていう語。
    1. [初出の実例]「汽船万寿丸はその腹の中へ三千噸の石炭を詰め込んで」(出典:海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉一)
  10. 物のふくらんだところ。ふくれた面。壺などの器(うつわ)の中央のふくれたところ。
    1. [初出の実例]「の閉高知り、の腹(はら)満双めて」(出典:延喜式(927)祝詞)
  11. 壺・びんなど、胴部のふくらんでいる容器。
    1. [初出の実例]「汝衆菓(このみ)を以て酒八甕(ハラ)を醸(か)め」(出典:日本書紀(720)神代上(兼方本訓))
  12. 船体の中央部。腰当(こしあて)。筒関。
  13. 琴の中央部の空である方。琴の胴の裏面。
    1. [初出の実例]「腹 槽の背面にして、下の方の総名なり」(出典:歌儛品目(1818‐22頃)四)
  14. 定常波で振幅が最大になっているところ。⇔節(ふし)。〔物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〕

ふく【腹】

  1. 〘 名詞 〙 はら。また、はらに相当する部分。
    1. [初出の実例]「宅は〈略〉丘の腹(フク)を拓いて建ててある」(出典:思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉二)
    2. [その他の文献]〔易経‐説卦〕

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改訂新版 世界大百科事典 「腹」の意味・わかりやすい解説

腹 (はら)
belly
abdomen

生物学的には腹部という。動物の体幹の中央部ないし後半にあって,内部に腹腔をもち,臓器をおさめている領域。腹をもつ動物では,一般に体が左右相称で,体の前端部に中枢神経や感覚器の集中した頭があり,頭と腹の間には胸が,腹の後には尾が分化していることが多い。体幹がこのように分化した動物は高等な体制をもつもので,ほぼ節足動物と脊椎動物がそれにあたる。

節足動物の昆虫類では,胴部は明りょうな二つの部域に分かれており,前部を胸部,後部を腹部という。甲殻類の十脚類などでは,胸部が頭部と融合した頭胸部と腹部とが区別され,蛛形(ちゆけい)類では前体部を頭部,後体部を腹部と呼ぶ。昆虫類の腹部では消化管や気管が発達し,心臓,生殖巣排出器官があるが,付属肢は末端の数体節にしかみられない。蛛形類の腹部にも付属肢はなく,胃,心臓,生殖巣,分泌腺や書肺と呼ばれる呼吸器官がある。甲殻類では多くの群で付属肢が形成され,よく発達して遊泳肢となっていることも多く,筋肉がよく発達している。消化管は細い直管で,えらが形成されることもあるが,心臓,生殖巣,消化腺などは胸部にある。倍脚類の胴部で,2節ずつ融合して2対の付属肢をもつ体節が並んだ部域も腹部といわれる。このほか環形動物の多毛類でも,胴部体節の形態が前部と後部で異なっている場合は,それぞれ胸部および腹部と呼ばれることがあり,いぼ足が腹部で退化的になっていることも胸部で退化的になっていることもある。ギボシムシ類の胴部後端の細くなった部分は腹域といわれる。類似した体部域であっても腹部とは呼ばれず,動物群によって固有の名称が与えられていることも多い。

脊椎動物では腹の境界は明りょうでない。魚類では,鰓裂(さいれつ)後縁から後を体幹とし,そのうち胸びれから肛門までの区域を腹部,それより前方を胸部,後方を尾部と定める。四足動物の腹は,心臓と肺を収める部分である胸の後から,肛門または外部生殖器までの領域である。魚類でも四足動物でも脊柱のレベルより上の筋肉質の領域は背と呼ぶが,境界は設定できない。

 なお,腹または腹部として分化した部分の有無にかかわらず,動物体がなんらかの重力覚によって水平な地面に対して一定の面を向ける場合,一般にその面つまり下の面を腹または腹側ventral sideといい,反対側の面つまり上の面を背または背側dorsal sideという。一般に背側では触手や諸種の感覚器官,殻や甲などが発達し,腹側では足などの筋肉が発達し,口と肛門がある。ただし,直立姿勢をとる人体は例外で,前面が腹側,後面が背側である。
執筆者:

ヒトの腹部は胸部の下に続くが,外観的には胸部との境界はあまりはっきりしない。前面では胸骨の下端が剣状突起となっており,その両側から弓形の肋骨弓が下外側後方へ走っていて,これらが胸と腹の境をなしている。剣状突起や肋骨弓は容易に触れることができるばかりでなく,やせた人ではある程度まで体表から観察することができる。後面では第12肋骨と第12胸椎の下のへりが胸と腹との理論上の境であるが,外観的には何も見えないし,専門家でないかぎり指先で触れてみることも難しい。下肢と腹部との境は前面では前腸骨棘(きよく)から恥骨結合に向かって引いた直線で,この線は内部にある鼠径(そけい)靱帯にほぼ一致した浅い溝である。これを鼠径溝といい,大腿を前に上げると皮膚がここで折れ曲がる。後面の広義の下肢と腹との境は,いいかえると骨盤と腹との境であり,これは腸骨の上のへり(腸骨稜)に相当した皮膚の溝と第5腰椎の下端である。腹を前や後ろから見ると輪郭のくびれているところがあり,これをウェストwaist(腰)という。しかし解剖学でいう〈腰〉すなわち腰部(ようぶ)は後腹部で腰椎の両側の部分である。ちなみに,俗に〈こし〉というのはヒップhip,すなわち骨盤の両側で大腿の上端部にあたる。

 腹の表面はかなりなだらかな,前後から押しひしがれた円筒状であるが,よく見るといろいろの浮彫や形態がみられる。前面の正中線は皮下の〈白線〉に相当して浅い溝になっており,その上端の所は剣状突起に相当して心窩(しんか)または上腹窩(俗に〈みぞおち〉という)というくぼみがある。また正中線の中央よりやや下の所にへそがある。へその下方の正中線には色素の沈着があることが多く,その著しいものは〈黒線〉といって肉眼でよく見える。正中線の両側には腹直筋による縦の高まりがあり,その腱画(けんかく)による横の溝が3~4条見える。腹直筋のさらに外側には外腹斜筋の前のへりが縦の高まりを作っている。後面でも正中線は背溝となってへこんでおり,その両側には体幹直立筋による縦の高まりがある。この高まりの外側縁の所には後上腸骨棘に相当して皮膚のへこみがある(腰窩)。腹の骨格をなすのは5個の腰椎のみで,これには頸と同様に肋骨が欠けている。これは胴体の運動(背柱を曲げたり,ねじったりすること)を容易にするためである。

 腰椎,胸,骨盤の間に腹直筋,錐体筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,腰方形筋などの筋肉が張って,腹壁を作っている。なお,腹直筋と錐体筋とは前後から腹直筋鞘(しよう)という結合組織のさやで包まれており,この左右の腹直筋鞘が正中線で相合して前腹壁につくった一直線の筋膜部が白線であるが,白線はへそで貫通されている。腹壁にかこまれて内部に腹腔という空所があり,ここに腹部内臓をおさめている。腹腔と胸腔とは横隔膜ではっきりと仕切られているが,骨盤腔とは続いている。ゆえに腹腔の広がりは外表から見た腹部とは一致していない。とりわけ横隔膜の丸天井の頂上は高く胸腔内へ押し上げられている。腹腔は消化器の主要部分(胃,小腸,大腸,肝臓,膵臓),副腎,腎臓,尿管,脾臓などの内臓器官をおさめるほか,脊柱の前には下行大動脈と下大静脈とが走り,まったくすきまはない。
脊柱
執筆者:

食物がすぐに消化,排出されて,いつも食欲が満たされないことのないように,神は腹をこしらえて余分な食物や飲物を蓄えた(プラトンティマイオス》)といわれるように,腹は古くから容器として考えられていた。腹をさす英語bellyは〈皮袋〉の意の古代英語beliġ,bæliġや,古代スカンジナビア語belgrなどに由来しており,原義は〈物を蓄える袋〉である。一方,腹は子を宿す場所=子宮であり,英語wombも,英語,ラテン語uterusも腹の意をもち,後者はサンスクリットのudaram(腹)につながる。日本でも〈腹違い〉〈嫁の腹から孫が出る〉などという。そして〈容器〉と〈子宮〉という二重の性格を備える腹は女性そのものに等しく,原始時代はつぼによって象徴された。この〈母なるつぼは実際,あらゆる宗教の基本概念であって,その広がりはほとんど全世界に及ぶのである〉(E.スミス《竜の進化》1919)。このように母性と腹とを象徴するつぼは,トロイアの遺跡,テッサロニキやセルビアの新石器時代の集落,西プロイセンのポーゼンブランデンブルク,南インド,北ボルネオ,フィリピン群島などでも見つかっている。

 腹に子が宿るものであれば,聖人や偉大な神は汚れた産道を通過せずに生まれなければならない。ヒンドゥーの神インドラは,通常分娩(ぶんべん)を願う母の願いを拒否してわき腹から生まれ出た(《リグ・ベーダ》)。釈迦は母の摩耶夫人(まやぶにん)が無憂樹の枝を折ろうと右手をあげたときに右のわき腹から生まれた(《今昔物語集》天竺部)。これをまねてか,《神仙伝》は老子が胎内に72年(《芸文類聚》では81年)いた後に,母の左わき腹から生まれたとする説を述べている。また《シャー・ナーメ(王書)》によれば,イランの英雄ロスタムもブドウ酒で体が麻痺した母ルーダーベの右わき腹から生まれた。ローマのカエサルも母アウレリアのわき腹から生まれたとスエトニウスの《皇帝伝》にあり,大プリニウスもカエサルは母の腹を“切ってcaedere”生まれたからCaesarという名なのだと説明している(《博物誌》第7巻)。いわゆる〈帝王切開〉のはしりである。けれども彼は,母親が死んで子が助かる例の一つとして,カエサルの誕生を述べているのであり,実際,当時の医術水準では母体の死は免れないはずだが,プルタルコスもタキトゥスも賢母アウレリアの話を伝えているし,カエサルが40代半ばを過ぎるまで生きていたとされるから,今日でいう帝王切開による分娩だったかどうかきわめて疑わしい。

 古代インドではへその上に3本の横ひだがあるのが美女の条件だったという(《王子の誕生》のパールバティー,《屍鬼二十五話》のマラヤバティーなど)。腹部の性的魅力を誇示するベリー・ダンスやフラ・ダンスなどがある一方,露出した腹部に目鼻などを描いて遊ぶ腹芸が可能なのは,体幹や臀部の筋肉が協調した伸縮による。

 腹や腹部臓器に心や魂が宿るとする見方は日本にも古くからあり,今も〈腹をさぐる〉〈腹を割った話〉〈腹に一物〉その他の用法に表現されている。切腹はハラキリharakiriとして欧米にも知られるが,自殺手段というよりは多くの場合自己の潔白あるいは赤心の表明形式(新渡戸稲造《武士道》1899)で,内臓を露出して真心を見せるとの思い入れが強い。腹部臓器を貫いて脊柱のすぐ前を縦走する腹部の大動脈や下大静脈などを切断しなければ,切腹しても直ちに死に至ることはない。《義経記》でも源義経が切腹してから絶命するまでかなりの時間がある。腹膜を破って小腸を出すことにむしろ切腹の意義があり,これが誇張されれば《太平記》の村上義光(よしてる)のように,はらわたをつかみ出して投げたりする。伝承上最初に切腹したのは淡海(おうみ)の神という女性で,夫に対する恨みと怒りで腹をさき,はらわたを出したが死ねずに沼に入水したので,この腹辟(はらさき)の沼のフナなどには今も五臓がないという(《播磨国風土記》賀毛郡)。その後も切腹は武士階級に限らず,町人,農民,女性たちによっても行われている。第2次大戦終末期には外地で民間人男女が少なからず割腹しているし,近くは三島由紀夫の切腹事件がある。
子宮 → →切腹
執筆者:


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普及版 字通 「腹」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 13画

[字音] フク
[字訓] はら・だく・こころ

[説文解字]

[字形] 形声
声符は(ふく)。は量器で、器腹の大きなもの、ゆえに盈満の意がある。〔説文〕四下に「厚きなり」とあり、腹部の多肉の意とする。〔礼記、月令〕「水澤腹堅なり」の〔注〕に、「厚きなり」としている。

[訓義]
1. はら。
2. はらむ、うむ、だく、いだく。
3. こころ、こころのうち。
4. あつい。

[古辞書の訓]
〔新字鏡〕腹 波良(はら) 〔名義抄〕腹 ムカフ・ハラ・アツクス・フトコロニス 〔字鏡集〕腹 ハラ・アツシ・ナカバ・ムカフ・フトコロニス

[熟語]
腹案・腹詠・腹堅・腹稿・腹笥・腹疾・腹瀉・腹腫・腹心・腹尺・腹詛・腹蔵・腹惻・腹中・腹脹・腹腸・腹痛・腹熱・腹・腹背・腹非・腹悲・腹誹・腹胞・腹裏
[下接語]
異腹・遺腹・果腹・開腹・割腹・巌腹・魚腹・胸腹・空腹・刳腹・鼓腹・口腹・業腹・山腹・私腹・詩腹・蛇腹・愁腹・充腹・妾腹・心腹・切腹・船腹・腹・大腹・中腹・腹・同腹・熱腹・腹・馬腹・背腹・半腹・帆腹・撫腹・便腹・抱腹・剖腹・捧腹・満腹・捫腹・立腹・裂腹

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「腹」の意味・わかりやすい解説


はら

生物学用語の腹には、二通りの意味がある。一つは動物の背の反対側をいう。多くの場合、動物の体は地面に対する側とその反対側(背)とでは外部や内部の形態が異なる。地面側には、脊椎(せきつい)動物では消化管があり、節足動物では神経が走る。この地面に対する側を腹とよぶ。ただしウニやヒトデなどでは下面は腹面ではなく口側とよぶべきである。腹面は両生類におけるように、受精後まもなく決定されるものがある。すなわち卵の精子進入点の側が腹面となる。逆に、進入点の反対側には灰色新月環ができるが、その側が背になる。

 他の一つは、体の前端の頭、その次の胸に対する語として、胸の後方、尾の前方の部分をいう。この腹部は脊椎動物や節足動物(ダニ類のように頭胸部と腹部との区別の不明瞭(ふめいりょう)なものもある)で明らかである。昆虫では腹部はいくつかの体節に分かれ、雄では生殖室があって生殖器(陰茎)を収め、雌では体節から出た突起からなる産卵管がある。

[内堀雅行]

ヒトにおける腹

解剖学上で腹というときには、体の方向を示す場合と体の部位を示す場合とがある。すなわち、方向を意味する場合は、背に対する腹であり、背腹性を示す動物に共通して用いることができる。体の部位を意味する場合では、全身を区分したときの、その一部であり、これがはっきりしているのは脊椎動物と節足動物である。

 人体における腹は、解剖学的または臨床医学的に体表面上でいくつかの区分に分けられている。しかし、表面上の区分と内臓を考慮した位置的関係とはかならずしも一致しない。腹の部位は前腹部と後腹部とに分けられるが、通常、後腹部は背部に属させている。前・後腹部の境界は外見上、はっきりしているわけではない。前腹部は解剖学的には九区分される。この九区分は、それぞれ2本の水平線と垂直線とによってつくられる。すなわち、左右の第10肋骨(ろっこつ)の最低点と腸骨稜(りょう)の最高点をそれぞれ通る2本の水平線(肋骨下水平線と腸骨稜頂水平線)、および左右の鎖骨(さこつ)のそれぞれ中央部を通る2本の垂直線(鎖骨中線)、あるいは上前腸骨棘(きょく)を通る垂直線と前正中線との中間を通る2本の垂直線(副中心線)によって構成される。九区分の中央部が臍(さい)部、その左右が側腹部、臍部の上部が上腹部、上腹部の左右を下肋部、臍部の下部を恥骨部、恥骨部の左右を鼠径(そけい)部とよぶ。鼠径部は三角形状となる。一方、内部の腹は横隔膜が上部の境になるので、横隔膜円蓋(えんがい)の輪郭を前胸壁に投影してみると、内部の腹は肋骨弓よりずっと上方になる。この横隔膜円蓋と肋骨弓に挟まれた部分が下肋部の位置となる。このほか、腹を四区分に分ける方法もある。これは、へそを通る水平線と垂直線とで分ける方法であり、この場合には、左上、左下、右上、右下のそれぞれを4分の1区画とよぶ。

 俗語として用いられる腹には、心のなかの考え、度胸、度量などの意味があるほか、物体の中央部などをさすこともある。また、物理学用語では、定常振動あるいは定常波で振幅が最大となるところを腹loop, antinodeといい、振幅が零(ゼロ)のところを節(ふし)nodeという。

[嶋井和世]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腹」の意味・わかりやすい解説


はら
loop

物理学用語。両端を固定した弦の振動や定在波において,振幅が極大になる点。これに対して,振幅が極小になる点を節という。同じ方向に振動して互いに反対向きに進む2つの正弦波を重ね合せてできる定在波では,進行波の波長を λ とすると,腹と腹との距離は λ/2 ,腹と節との距離は λ/4 となる。定在波では,エネルギーは伝わらず,腹のところにいちばん多く局在することになる。


はら

腹腔」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【野】より

…〈野〉と〈〉とは区別されて扱われている場合もあるが,その相違は明確でない。日本の律令制においては,山川藪沢とともに野は公私共利とされたが,天皇の支配権の下におかれ,天皇は鷹狩などの狩猟のため河内国交野(かたの),山城国嵯峨野・栗栖野(くるすの)・美豆野(みずの),美濃国不破・安八両郡の野,播磨国印南野(いなみの),備前国児島郡の野などの禁野(きんや)を各地に設定し,また,河内国大庭御野(おおばのみの)のような蔣(まこも),菅,莞(い)を刈る御野を占定している。…

※「腹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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