膿胸(読み)ノウキョウ

精選版 日本国語大辞典 「膿胸」の意味・読み・例文・類語

のう‐きょう【膿胸】

  1. 〘 名詞 〙 胸(肋)膜腔に膿性の液体がたまる疾患結核菌に起因するものが多い。発熱、呼吸困難、せき、たん、食欲不振などの症状を呈する。
    1. [初出の実例]「肺炎に合併する肋膜炎ではよく肋膜腔に膿汁が溜る。これを膿胸(ノウキョウ)といひ」(出典:育児読本(1931)〈田村均〉五二)

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内科学 第10版 「膿胸」の解説

膿胸(胸膜炎)

(3)膿胸(pyothorax, thoracic empyema)
概念・分類
 胸腔内に膿が貯留したもの.膿胸は経過により治療法が異なるため,急性膿胸(図7-14-1)と3カ月以上経過した慢性膿胸に分類する.
病態
1)急性膿胸:
肺炎に続発することが多いが,縦隔や横隔膜下の感染症の波及や,食道破裂や胸部外科手術の合併症でも生じる.悪臭の膿は嫌気性菌が関与している.小児の膿胸では,ブドウ球菌肺炎球菌の頻度が高い.
2)慢性膿胸:
結核性胸膜炎が遷延したものと,一般細菌による急性膿胸が遷延したものとがある.肥厚した胸膜が肺を覆うようになり,肺の呼吸運動が障害され拘束性換気障害を呈する.CT検査では肥厚した胸膜に囲まれた低吸収域を認める.膿胸腔が穿破し,気管支瘻や肺瘻をつくることがある.
治療
 急性膿胸にはドレナージを行う.慢性膿胸は,胸膜剥皮術や開窓術など外科的治療の適応となる.慢性膿胸が20年以上にわたって遷延した症例で,胸腔に悪性リンパ腫が発生することがある.多くはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma: DLBL)で,CD20以外のB細胞マーカーはしばしば陰性で,CD2などのT細胞マーカーがしばしば発現する.Epstein-Barrウイルスの潜伏感染高頻度にみられる.[矢野聖二]
■文献
Light RW: Pleural diseases. 4th ed. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「膿胸」の意味・わかりやすい解説

膿胸
のうきょう

胸膜腔(きょうまくくう)内に化膿(かのう)性の滲出(しんしゅつ)液が存在する状態をいう。臨床上、急性膿胸と慢性膿胸に分ける。肺炎、肺化膿症、気管支拡張症、肺結核などの病巣から波及することが多いが、心膜炎、縦隔炎横隔膜下膿瘍(のうよう)、肝膿瘍敗血症、胸部の穿通(せんつう)性外傷、胸部外科手術などに随伴しておこることもある。起炎菌としては肺炎球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、2~3種の真菌類があげられる。慢性膿胸はほとんどが結核性膿胸である。急性膿胸では高熱を発し、胸痛、呼吸困難、咳(せき)がおこる。治療はまず抗生物質を投与し、胸腔内に肺膿管を挿入し、水封式胸腔ドレナージ(回路を水封し胸腔内を陰圧にして排液する方法)を行う。慢性膿胸では外科的手術が必要となることが多い。自然治癒はまれで、放置すると肺や胸壁が破れ、治療がむずかしくなる。老人や小児では予後はかならずしもよくない。

[石原恒夫]

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家庭医学館 「膿胸」の解説

のうきょう【膿胸 Pyothorax】

[どんな病気か]
 内外二重の胸膜(きょうまく)に囲まれ、正常でも少量の胸水(きょうすい)がある胸膜腔(きょうまくくう)に感染がおこり、胸水が肉眼でみても混濁して、膿(うみ)のようになった状態が、典型的な膿胸です。
 かつては結核(けっかく)によっておこることが多かったのですが、最近では肺炎や肺化膿症(はいかのうしょう)にともなう膿胸が注目されています。
 縦隔(じゅうかく)の炎症や胸壁の外傷、あるいは腹腔内(ふくくうない)での感染症に引きつづいておこることもあります。
 抗生物質が十分に使用できなかった時代には、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)による肺炎に合併することが多かったのですが、今日では嫌気性菌(けんきせいきん)(酸素がないところで増える細菌)による肺炎に合併する膿胸が重要視されています。
 日本では、治療の早期から抗生物質が使われるためか、肺炎にともなう膿胸をみる機会は、それほど多くありません。
 しかし、肺炎に対する適切な治療が遅れると、膿胸となることもあるので、注意が必要です。
[治療]
 胸水が膿性を示すときは、抗生物質による治療とともに、胸膜腔に管を入れて積極的に胸水を排除する必要があります。
 結核性膿胸は、以前と比べると少なくなりました。結核性膿胸が肺に穿孔(せんこう)をおこした場合には手術が必要です。

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改訂新版 世界大百科事典 「膿胸」の意味・わかりやすい解説

膿胸 (のうきょう)
pyothorax

胸膜の感染症で,胸腔の中に膿性の滲出液が貯留した状態をいう。肺炎や肺化膿症,肺結核,手術後感染にひきつづいて起こることが多い。通常,高熱を発し,白血球数が増加する。まず急性膿胸で始まり,放置したり,処置が不適切だと慢性膿胸に移行する。慢性膿胸のなかでは,結核性膿胸tuberculous pyothoraxがその大部分を占める。慢性膿胸では胸膜の炎症のほか,繊維素の沈着,胸膜の肥厚,石灰の沈着を起こし,呼吸機能を著しく障害する。治療は,適正な抗生物質の使用とともに,急性期には,膿性の滲出液を誘導し吸引して排除する。慢性期では,外科的に肺剝皮術を行うことが多い。
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百科事典マイペディア 「膿胸」の意味・わかりやすい解説

膿胸【のうきょう】

化膿性胸膜炎のこと。胸膜腔に膿汁のたまる病気。肺炎球菌やブドウ球菌などによる肺炎に続発することが多い。症状は発熱,胸痛,呼吸困難など。治療には抗生物質の投与や排膿を行う。
→関連項目緑膿菌

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「膿胸」の意味・わかりやすい解説

膿胸
のうきょう
pyothorax

化膿性胸膜炎ともいう。胸腔内に膿性滲出液が貯留する疾患。肺炎から移行することが多く,しばしば乳幼児がかかるが,かつては結核性のものもかなりの比率を占めていた。急性期には発熱,咳,胸痛などを訴えることがあるが,特有の症状はない。治療は排膿を行うほか,病型に応じた化学療法を行う。

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世界大百科事典(旧版)内の膿胸の言及

【胸水】より

…また,卵巣繊維腫などの骨盤内腫瘍で漏出性胸水を伴うことがあり,メイグス症候群Meigs syndromeとよばれる。滲出液は種々の胸膜炎膿胸においてみられる胸水で,その原因によって外観は黄色透明~混濁,膿性,血性などさまざまであるが,一般に比重は1.018以上,タンパク質含有量3.0g/dl以上と,漏出液に比べ,高比重,高タンパク質であり,細胞成分も多い。その他,胸水にリンパ液が混じり,脂肪分の多い特有のミルク色を呈することがあり,乳糜(にゆうび)胸水とよばれる。…

【胸膜炎】より

胸膜に起こる炎症で,肋膜炎ともよばれ,胸膜腔内に滲出液(胸水)が貯留する。滲出液が膿性の場合には膿胸(または化膿性胸膜炎),血性の場合には血性胸膜炎とよばれる。なお,外傷や大動脈瘤破裂などにより胸膜腔内に血液が貯留するものは,とくに血胸とよばれる。…

※「膿胸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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