范道生(読み)はんどうせい

改訂新版 世界大百科事典 「范道生」の意味・わかりやすい解説

范道生 (はんどうせい)
生没年:1637-70

江戸初期に日本で活躍した中国清代(生年は明の崇禎10年)の仏師。明僧隠元隆琦が黄檗山万福寺造営した際,招かれて来日し,大雄宝殿釈迦阿難迦葉をはじめ,天王殿の弥勒布袋),韋駄天,十六羅漢,禅堂観音,善財童子,竜女などの像を1668年(寛文8)に完成している。作品は明末の繁縟(はんじよく)な装飾性と誇張の強い表現を,ラワンのような重く堅い材を用いて制作したもので,その傾向は当時の彫刻界においてはかなり異色なものであった。そのため後の彫刻にあまり大きな影響を与えることはなかったが,松雲元慶の作品などは,彼の作に刺激されたものといえよう。その後帰国することなく,長崎で没した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「范道生」の意味・わかりやすい解説

范道生
はんどうせい
(1637―1670)

江戸前期に来日した中国福建省泉州の仏師。字(あざな)は石甫(せきほ)または印官。明(みん)僧の隠元隆琦(いんげんりゅうき)が宇治に黄檗山(おうばくさん)万福寺を造営の際に招き、1659年(万治2)来日した。長崎の福済寺、興福寺で造仏し、1663年(寛文3)ごろから万福寺仏殿の釈迦(しゃか)、阿難(あなん)、迦葉(かしょう)、十八羅漢をはじめ、同寺の彫像のほとんどを手がけた。作風は明末の癖が強く、目新しさから仏師間にも一時広まったが、大きな影響はなかった。1664年にいったん帰国し、1670年9月ふたたび来日したが、入国を許されず、同年11月3日長崎で没した。崇福寺に墓がある。

[佐藤昭夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「范道生」の意味・わかりやすい解説

范道生
はんどうせい
Fan Dao-sheng

江戸時代初期に来日した中国,の仏師。字(あざな)は石甫。寛文年間(1661~73),明からの渡来僧隠元隆琦による黄檗山萬福寺造営の際に招かれて渡日,造仏に従事する。同寺の釈迦像,阿難像,迦葉(かしょう)像,弥勒像(布袋像),韋駄天像,十八羅漢像,観音像,善財童子像,童女像などは彼の作と伝えられる。作風は江戸時代の類型化した仏像彫刻のなかにあって,異国風であり,かつ動きのある点で異彩を放っている。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「范道生」の解説

范道生 はん-どうせい

1637-1670 清(しん)(中国)の仏師。
崇禎10年生まれ。万治(まんじ)3年(1660)長崎に来航。隠元隆琦(いんげん-りゅうき)が京都万福寺を造営するとき,まねかれて弥勒(みろく)・韋駄天(いだてん)・観音・十八羅漢像などをつくる。寛文10年再来日したが長崎上陸をゆるされず,同年11月2日船中で病死。34歳。福建省出身。字(あざな)は石甫。通称は印官。号は清源山人。

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世界大百科事典(旧版)内の范道生の言及

【江戸時代美術】より

… この間,1654年(承応3),僧隠元が弟子とともに来日し,幕府の庇護を得て61年(寛文1)宇治に万福寺を建立,黄檗(おうばく)宗の拠点としたことは,明代末期の仏教美術を日本に伝える上での契機となった(黄檗美術)。万福寺では渡来仏師范道生により新奇な仏像が制作され,日本の仏師らにも影響を与えた。江戸の松雲元慶による五百羅漢寺のための造像(1695ころ)には,この新様式と伝統様式とのすぐれた融合が見られる。…

【黄檗美術】より

…黄檗建築の様式は,各地の黄檗系寺院にひろまったが,江戸時代の建築全般に影響を与えるまでには至らなかった。これら黄檗寺院には,中国人仏師范道生による木彫の韋駄天像や布袋・羅漢像などが置かれたが,濃厚な色やユーモラスな表情に,中国民衆の宗教感情を反映させたこの明末仏像の作風もまた,日本の仏像彫刻に刺激を与えた。松雲元慶の五百羅漢像(1695)は黄檗彫刻の影響によるすぐれた作例であり,円空や木喰明満の鉈彫にも,黄檗彫刻の要素が認められる。…

※「范道生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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