落款(読み)ラッカン

デジタル大辞泉 「落款」の意味・読み・例文・類語

らっ‐かん〔ラククワン〕【落款】

[名](スル)落成款識かんしの意》書画が完成したとき、作者署名し、または押印すること。また、その署名や印。
[類語]記名署名サイン

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精選版 日本国語大辞典 「落款」の意味・読み・例文・類語

らっ‐かんラククヮン【落款】

  1. 〘 名詞 〙 ( 落成の款識の意 ) 書画をかき終えた後に、筆者自身でその姓名・号などを書き、もしくはその雅号などの印を押すこと。また、その署名や印。
    1. [初出の実例]「画成りて名を題するに、一幅の内に恪好の所あり、落欵其所を失すれば、全局を損すと」(出典:随筆・画譚雞肋(1775))
    2. [その他の文献]〔小山画譜‐巻下・落款〕

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改訂新版 世界大百科事典 「落款」の意味・わかりやすい解説

落款 (らっかん)

落成款識(かんし)の略。書画が完成したとき,それが自作であることを示すため,作品に姓名,字号,年月識語(揮毫の場所,状況,動機等の),詩文などを記すこと。その文を款記,そのときに捺(お)す印章落款印という。中国では《芥子園(かいしえん)画伝》に,〈元以前は多く款を用いず。或は之を石隙に隠す。書の精ならずして画局を傷つくること有るを恐るるのみ。倪雲林に至り,字法遒逸,或は詩尾に跋を用い,或は跋後に詩を系(つ)ぐ〉とあり,本来画工は絵に無款のままか目だたぬように記した。元末の倪瓚(げいさん)あたりから長文の款記が見られ,加えて画賛が盛んに行われるようになると,そこに書と画の調和美が意識されるにいたった。日本でも中国の影響のもとに,鎌倉時代以降行われだした。それは作家の地位の向上と独立とを示す現象とみることもできる。中国では明代以後,詩,書,画,篆刻(てんこく)のいわゆる四絶の統一美が文人画の条件となるや,画面の仕上りに積極的効果をねらった款記がみられる。近来は逆に明快な表現効果をねらって,形式的な款記を記さず,印のみの落款も多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「落款」の意味・わかりやすい解説

落款
らっかん

「落成款識(らくせいかんしき)」の略語。日本・東洋の書画で、完成の際、筆者が作品に施す署名捺印(なついん)のこと。書の末尾や画面の空隙(くうげき)などに姓名、雅号(がごう)、位階、あるいは制作年月日を記し、印を押す。絵画の内容に関連した詩文(讃語(さんご))や跋語(ばつご)、揮毫(きごう)に至った経緯を記した識語などがある場合には、これをも含めていうことがある。その作品の真贋(しんがん)や制作年代の推定をするうえで一つの基準ともなるものである。落款を入れる位置は、通常は巻末や画面の空隙などであるが、対幅や屏風(びょうぶ)では、それぞれ対称的な位置に入れるのが普通である。また落款があまり目だつことがはばかられる場合には、画面に描かれた樹葉や岩石、土坡(どは)の皴(しゅん)の中に入れることもある。これを「隠し落款」といい、中国の宋元(そうげん)画などにはときにみられる。

榊原 悟]

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普及版 字通 「落款」の読み・字形・画数・意味

【落款】らくかん(くわん)

書画に記名し、雅印を押すこと。〔小山画譜、下、落款〕畫に一定款の處り。其のを失ふときは、則ち畫局を傷(やぶ)ることり。

字通「落」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「落款」の意味・わかりやすい解説

落款【らっかん】

書画の筆者が自筆の作品であることを証明するために,姓名,雅号,年月日等を同一画面内に書いたもの。中国古銅器の刻銘で陰刻を款,陽刻を識(し)といったのに由来する。陶器その他工芸品の場合は銘という。→
→関連項目印章

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「落款」の意味・わかりやすい解説

落款
らっかん

「落成の款識」の意味で,巻物の巻末や掛幅の一端などに,筆者みずからが書き記した姓名や号,制作年月,干支のほか,自捺した印章などを合せていう。

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世界大百科事典(旧版)内の落款の言及

【印章】より

…また,金・元・清など非漢民族出身の王朝では,女真文字,モンゴル文字,満州文字の印が使われ,あるいは漢字と併用された印も行われた。つぎに隋・唐以後の私印は官印より小さく,変化に富み,用途も封信のほかに所蔵,鑑定,落款などにも用いた。唐代には書画の鑑識に印を合縫に押す風が普通の習慣となり,唐太宗の〈貞観〉,玄宗の〈開元〉,宋の徽宗の〈政和〉〈宣和〉,南宋高宗の〈紹興〉〈徳寿殿宝〉などは御府の蔵をしめす。…

※「落款」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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